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  • 「本当はすごい、日本の腎移植」Ⅱ.腎移植後の妊娠出産:本当の適応は?

免疫抑制療法の進歩、特に種々の有用で副作用の少ない免疫抑制薬が臨床応用されたことにより、腎移植後の全身状態は近年向上しました。
1980年代以前はシクロスポリンやタクロリムスなどの拒絶反応抑制効果の高いカルシニュリン阻害薬が臨床で用いられておらず、主たる免疫抑制薬は代謝拮抗薬であるアザチオプリンとステロイドのみでした。そのため移植直後のアザチオプリン投与量は150mg/日前後と多く、結果的に骨髄抑制や肝障害などの副作用が高い確率でありました。
そして当時、血液透析や腹膜透析も含めて腎不全の女性が、妊娠&出産することは困難でした。血液透析や腹膜透析の女性患者は事実上、妊娠&出産が不可能であり、腎移植後の女性においても骨髄抑制が顕著な場合や移植腎機能が不十分などのため妊娠の適応になる移植患者が少なく、また運良く妊娠しても妊娠が完結して出産まで至るか不確定でした。当然のことながら胎児の発育も不良なため出産までたどり着いたとしても多くは未熟児であり、当時はほぼ全例が帝王切開で、出産後の母体は拒絶反応や妊娠高血圧による蛋白尿などのため移植腎機能が悪化することもありました。
さらに、免疫抑制下にある母親の腎移植患者に子供の上気道炎などが感染し、より深刻な肺炎などの危険な状態となることもめずらしくなかったのです。
さて最近の腎移植後の妊娠出産はどうでしょうか。
結論としては、「腎移植後妊娠の適応は、昔に比べ格段に向上したが本人・家族がその可能性とリスクを正しく十分に理解する必要である」ことをお伝えしたいと思います。


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表1をご覧ください。妊娠が判明した時点で移植腎機能が良好で、かつ血圧が正常でないと出産後に慢性移植腎機能障害に至って血液透析を再導入する患者が多いことが分かります。
具体的には妊娠が判明した時点で、1)高血圧がなく、2)尿蛋白が陰性であり、さらに3)血清クレアチニン値が1.4mg/dl以下である症例が予後良好であることが判ります。

高血圧についても表1をご覧ください。現在はカルシウム拮抗薬、ACE阻害薬、ARB薬など種々の降圧薬の併用によって移植後の血圧を正常化させることは、ほぼ可能になっています。
しかし図1に示すように、多くの降圧薬を用いてやっと血圧が正常化している患者さんは出産後に腎機能が悪くなることが示されています。またARB薬は妊婦に禁忌であり、患者が妊娠を希望した段階で投与中止しなければなりません。
最近は血圧が正常であっても腎保護の目的でACE阻害薬、ARB薬が投与される場合があり、その場合は妊娠前にそれらの薬剤を中止しても正常血圧が維持できるかの確認が必要になります。
また上記以外の妊娠禁忌薬としては高脂血症に対するHMG-CoA還元酵素阻害薬などがあり、腎移植患者が妊娠を希望した場合は投薬している全ての薬剤を確認して適切に変更することが重要になります。
免疫抑制薬そのものも妊娠時の使用に制限があり、腎移植前に十分な説明と同意を得ておかなければなりません。 特に催奇形性が指摘されているミコフェノール酸モフェティル(セルセプト)およびミゾリビン(ブレディニン)は、患者が妊娠を希望している段階で比較的安全なアザチオプリンに変更します。


以下に腎移植の妊娠・出産についての要点を記します。

  • 腎移植前、腎移植の説明をする際に、妊娠についても説明し書面で承諾を得ます。妊娠希望の末期腎不全女性にとって腎移植は最良の選択肢ではあるが、免疫抑制薬による催奇形性などの問題点や移植腎機能悪化の可能性などを十分に理解する必要です。
    またミコフェノール酸モフェティル(セルセプト)およびミゾリビン(ブレディニン)などの免疫抑制薬は妊娠を希望した段階でアザチオプリン(イムラン)に変更する必要があることも説明します。
  • 腎移植後妊娠許可までの期間は、問題がなければ術後(6か月-)12か月程度とします。
  • 妊娠を希望した段階で以下の4項目のうち1つでも基準外であれば「ハイリスク妊娠であること。出産後に移植腎機能が悪化する可能性が相対的に高いこと」を本人と家族に説明し、ご理解いただいたうえで妊娠希望の場合に許可します。
    • 高血圧でないこと。降圧療法を要する場合は分娩後の移植腎予後は良くありません。
    • 血清クレアチニン値は2.0mg/dl程度まで可能だが、1.4mg/dl以下が望ましいです。
    • 尿蛋白(24時間尿蛋白、尿中微量アルブミン)が正常範囲であること。
    • 腎不全の原疾患・腎機能悪化の原因が妊娠に関与あるいは妊娠・出産を契機とする場合は注意が必要です。
  • 産科については腎移植後の妊娠・出産の経験豊富な施設が望ましいです。


私達移植医は妊娠・出産を希望する患者には、その心情を勘案してやや安易に許可を出す傾向にあります。
また、妊娠可能年齢にある末期腎不全患者にとって腎移植を決断する大きな理由が妊娠・出産であることも確かであり、リスク覚悟の妊娠・出産を一概に否定することもできません。私達移植医自身がジレンマの只中にある場合も珍しくないのです。
移植医は、客観的に状況を把握し適切なタイミングで適切なアドバイスを患者に与え、一旦妊娠・出産を決断した以上は経験豊富な産科を紹介し、産科医と連絡を密にして可能な限り安全を追求する、という姿勢で患者さんのサポートにあたっています。
妊娠出産を希望されている患者さんとそのご家族の皆さんに、是非正しい理解を深めていただければと思います。

文献: 1.Abe T, Ichimaru N, Okumi M, Imamura R, Isaka Y, Takahara S, Kokado Y and Okuyama A. 『Pregnancy after renal transplantation: A single-center experience』 Int J Urol 2008.

高原史郎(大阪大学医学系研究科・先端移植基盤医療学)
市丸直嗣(大阪中央病院・泌尿器科)

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