免疫抑制剤を中心とした薬の服用時間や、薬の服用と食事の関係は、読者の皆さんにとって非常に関心が高い話題だと思います。
「薬の服用時間・食事との関係・そして薬物動態」というテーマで、佐藤滋先生に解説頂きます。
薬が体内で吸収・分布・代謝・排泄されるまでの流れをご説明頂いた上で、何故、シクロスポリン(ネオーラル)やタクロリムス(プログラフ、グラセプター)は血中濃度測定が必須の薬剤であるのかを、それらの薬剤の吸収・代謝のメカニズムも含めてご解説頂きました。
少し難しいお話もあるかもしれませんが、毎日服用する薬の体内での吸収~排泄までの流れを知り、適切に服用することは、移植後の管理にとても大切な事ですので、是非ご一読ください。(MediPress編集部)



薬の服用方法と服用時間は、「毎食後」と記載されている場合が多いと思います。このため患者さんのなかには、「毎食後と記載されている薬は食事を取らなければ服用してはいけない」と誤解されている方がおります。そして、「朝ご飯を食べなかったから朝食後の薬は服用しなかった」と言われる方もいらっしゃいます。果たしてこれは正しいことでしょうか?

話題を変えましょう。体内に入った薬物が排泄されるまでを少し解説します。経口投与をはじめ、種々の経路(皮下注射や静脈内注入など)で投与された薬物は、効果や副作用の発現する部位に血流によって運ばれます。すなわち、血液中に薬物が取込まれることが必要不可欠です。

例えば、経口投与された薬物は、主に小腸から吸収され血液中に入って全身に運ばれます。その後、どの臓器にどの程度の速度で流入出するかは、薬物によって異なります。一般に脂に溶け易い脂溶性薬物は全身臓器へ分布し易く、蛋白質と結合し難い薬物ほど血液中から臓器に移行し易くなります。吸収された薬物は、そのまま腎臓から排泄されるか、小腸や肝臓にある薬物代謝酵素によって生体内変換を受け、水溶性の代謝物となって腎臓から排泄(尿のなかに)されます。

重要な薬物代謝酵素のひとつにチトクロームP450(CYP)があり、シクロスポリン(CyA)やタクロリムス(Tac)はCYP3A4やCYP3A5という酵素で代謝されます。なかには、肝臓からそのまま、あるいは代謝物として胆汁中に排泄される薬物もあります。胆汁中に排泄された薬物が再度肝臓に取込まれることがあり、これを腸肝循環といいます。ミコフェノール酸(セルセプトの代謝物)の一部はこの腸肝循環を受けます。

さらに少し難しいお話しです。薬物の投与量を設定する際、患者さん間の個体差が大きい薬物や、治療域(薬剤が効果を発揮しつつ、容認できない毒性は発現しない濃度範囲)と毒性発現域が近い薬物では、より安全で有効な薬物投与を行うため、投与後の薬物の血中濃度を測定し、これにより投与量を設定することが望まれます。

シクロスポリン(CyA)やタクロリムス(Tac)はまさに血中濃度測定が必要な薬剤です。両薬剤は素晴らしい免疫抑制薬ですが、患者さんごとにその吸収・代謝が大きく異なります。血中濃度が治療に必要な濃度より低いと拒絶反応が生じ易くなります。逆に血中濃度が高いと糸球体に入る輸入細動脈が収縮し、腎血流量が低下し、糸球体濾過量が低下する腎機能障害が生じます。血中濃度が高すぎて血清クレアチニン値が上昇するのは、この作用のためです。

さらに、慢性的にこの状態が繰り返されると、細動脈硬化、間質の線維化から尿細管萎縮や糸球体荒廃が生じます。これは骨髄移植や肝移植後に腎不全となる原因のひとつであり、移植腎でも生ずる可能性があります。このため、治療を目的として血中の薬物濃度をモニタリングするtherapeutic drug monitoring (TDM)が必要なのです。

薬物動態

TDMにはいくつかの指標(パラメータ)があります。薬物を服用してから次回服用する直前までの間で、最も高い血中濃度をCmax(Cは濃度 concentrationの略)、Cmaxに達するまでの薬物服用後の時間をTmax(Tは時間 time)、次回服用直前の(恐らく最も低い)血中濃度をトラフ値(CminかCtrough)、そして縦軸に血中濃度、横軸に薬物投与後の経過時間をグラフにして、血中濃度推移と時間軸に挟まれた部分の面積を血中濃度—時間曲線下面積(AUC: area under the concentration-time curve)と表現します。一般にシクロスポリン(CyA)やタクロリムス(Tac)はトラフ値や、連続した血中濃度を測定し、適正なトラフ値やAUCになるよう投与量を決めているのです。