2011年7月、北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科学分野(代表世話人:野々村克也)の主催で開催された「腎移植・血管外科研究会」の講演を、引き続き同大学院 森田研先生に解説いただきます。
今回はシンポジウム(1)長期透析患者に対する腎移植術の諸問題を解説します。

6月24日(金)シンポジウム(1)
長期透析患者に対する腎移植術の諸問題 司会:関 利盛先生、渡井 至彦先生

腎移植を受ける前に長期間の透析を経験していると、短期間の方に比べて移植後に特有な合併症が増加します。拒絶反応や感染症、移植後成績は透析期間に影響を受けることがわかっています。

脳死臓器提供が増えてきていますが、日本では長期間の待機をしている方が多く、移植を行う前に検討すべき注意点を、尿路の問題、血管の問題に大別して論ずるシンポジウムが行われました。司会は市立札幌病院 関 利盛先生と名古屋第二赤十字病院 渡井至彦先生のお二人で、尿路と血管の問題に分けて、それぞれ3名の先生が発表して討論を行いました。

(1)尿路の問題
市立札幌病院の堀田記世彦先生は、10年以上の透析歴をもつ移植患者さんの膀胱容量が、長期間の無尿状態により萎縮するために小さくなり、特に50cc以下になっている場合に尿管と膀胱を移植時に繋げる手術が困難となることが多く、そのような場合は合併症を少なくするために移植尿管は元の尿管と吻合して膀胱は手を加えない方が有利であると述べました。

秋田大学病院の井上高光先生は、移植前の透析期間と、移植時の膀胱の大きさ、移植後の回復状況、膀胱から尿管へ尿が逆流する現象の有無などの関係を調べています。それによると透析期間が長くなるほど膀胱は小さいのですが、移植後1年経過した方の膀胱の大きさは150cc以上に回復していました。移植前透析期間が長い程、膀胱尿管逆流症を起こす頻度は高くなりました。

兵庫医科大学の野島道生先生は、移植時に尿管と膀胱を繋げる手術法についてのポイントを検討されました。逆流を防ぐ為に尿管と膀胱の吻合する場所の長さを十分取ること、吻合した尿管と膀胱の間から尿が漏れる危険性がある場合は尿管にステントという管を短期間入れて管理を行っています。また、移植腎の尿管と膀胱の吻合に関わる術後合併症は尿管が狭くなる狭窄症や逆流症の他に、自己の尿管を切断して移植腎の尿管と吻合した場合に少しずつ元の腎臓からの尿がたまって腫れてしまうこともあることが紹介されました。これらに加え、尿路の感染症も含めると、長期間の待機の後に献腎移植を受ける方で、膀胱が小さく萎縮している場合に尿管と膀胱の吻合の長さが短くなるため、術後の尿路の合併症が多くなる傾向が示されました。

(2)血管の問題
東京女子医大病院の尾本和也先生は、腎移植前の透析期間が20年を越えるような方の移植では血管吻合を行う動脈が硬化、石灰化、解離などで障害されていることが多く、血管の一時的遮断の際などに出血や縫合合併症が起こりやすいことを示しました。そのような場合には移植手術が血管吻合の困難性によって10時間以上に及ぶ場合があり、病的な血管部を切除して吻合したり、縫合の糸の掛け方を工夫するなどの対応が重要になると述べています。

名古屋大学病院の服部良平先生は、このような長期間透析による動脈の硬化を予めCTスキャンなどで調べておき、足の動脈拍動を触診したり、詰まりが無いことを超音波検査で調べることが有効であると述べています。動脈硬化の強い方の移植手術中も、触診で血管を吻合する場所を選定し、一時的遮断を行うための手術機械を工夫するなどの対策が重要になります。献腎移植の場合は、ドナーから移植腎とともに摘出される動脈の長さに余裕があるため、それを利用する工夫をしており、硬化した動脈の壁に縫合針を通す際の工夫なども紹介されました。
九州大学病院の北田秀久先生は、高度な動脈硬化を持つ移植患者さんの手術の要点をビデオで説明し、最悪の場合は血管吻合の危険性を考えて手術を断念せざるを得ないことがあると述べています。動脈硬化の診断が重要で、移植前の画像検査や触診などで慎重に判断します。

吻合した血管が腎臓の配置部位により捻れたり押されたりして血流が悪化しないように工夫し、硬くなった動脈同士を吻合する場合の手術手技についても供覧されました。

解説:北海道大学大学院医学研究科 森田 研 先生