2011年7月、北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科学分野(代表世話人:野々村克也)の主催で開催された「腎移植・血管外科研究会」の講演を、引き続き同大学院 森田研先生に解説いただきます。
今回はドナー、レシピエントのメタボリック症候群対策を解説します。

6月25日(金)特別企画
ドナー、レシピエントのメタボリック症候群対策 司会:西 慎一先生、柴垣 有吾先生

高齢化社会となり、様々な疾患に肥満、高血圧、糖尿病などのメタボリック症候群が関与するということが言われてきていますが、腎移植ドナー、レシピエントにとってもこのメタボリック症候群の管理は健康に移植後の生活を送るために大切なことです。
日本臨床腎移植学会で2010年に「腎移植後の内科・小児科系合併症の治療ガイドライン」が作られ、4名の講師にテーマ別にお話を伺いました。

市立札幌病院の柳澤克之先生は、専門医の立場から移植後の糖尿病についてお話しされました。糖尿病を有する患者さんの腎移植は、網膜症、神経障害や心臓血管関連の合併症の進行を予防することが大切であることを発表されました。

また、移植後に発症する糖尿病を予防するためには、肥満、ステロイド剤の量や尿酸値の上昇、血液中のマグネシウム濃度の上昇、カルシウム濃度の低下、ビタミンD不足などに対応することが重要と発表されました。

名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生は、肥満の腎移植候補患者さんの割合が増加していることを指摘し、その問題点を挙げています。肥満の患者さんの場合、手術時間が長くなること、手術した創(きず)の感染率が多いこと、慢性期には高血圧、糖尿病、高脂血症の頻度が高くなることなどを発表されました。移植後一定期間経過した後のBMIという肥満の尺度(体重(kg)を身長(m)で二回割った値)を用いて検討したところBMIが30以上の肥満では、短命であり、移植腎の機能が悪化しやすいということが判りました。外来での体重測定、栄養指導などを通じて体調管理を行うことが大変重要であると発表されました。

手稲渓仁会病院の滝沢英毅先生は、高血圧専門医の立場から、メタボリック症候群が心臓血管系に与える悪影響について講演されました。全身の細胞や自律神経に対して高インスリン血症は様々な障害をおこします。その治療に高血圧の治療薬であるアンギオテンシン阻害薬を使用するとインスリンを低下させるばかりでなく高血圧の治療も同時に行えるというメリットがあることを発表されました。

北海道大学病院の三好秀明先生は、メタボリック症候群に合併する脂質代謝異常、高コレステロール血症が動脈硬化に結びつくメカニズムを詳細に検討されています。

メタボリック症候群は動脈硬化、慢性腎臓病、肥満、痛風、糖尿病などを進行させることが知られており、脂質異常症の治療がきわめて重要であると発表されました。

腎移植後は高脂血症の治療は腎機能を守るうえで極めて重要となります。