平成26年10月31日、島根県松江市にて行われた第36回日本小児腎不全学会学術集会で、「小児腎移植患者の成長を考慮した長期生着に向けた取り組み」というシンポジウムが行われました。
相川厚先生(東邦大学腎臓学講座)と大田敏之先生(県立広島病院腎臓小児科)の司会で、小児腎移植の4つのテーマから、成長と長期生着に関する話題を討論しました。
講演に参加する機会を頂きましたので、シンポジウムの前後で得られた話題や印象とともにレポートします。講演の解釈について誤解があるかもしれませんが宜しくご容赦下さい。


「小児腎移植患者の吸収・代謝と免疫抑制療法」
寺西淳一先生 横浜市立大学附属市民総合医療センター 泌尿器・腎移植科 講師

小児では、免疫抑制剤の体内での吸収や濃度変化が成人と異なると言われております。原因としては、単に体格が小さいことだけではなく、細胞外液(血液や体液など細胞の外にある水分)の比率が成人より大きいために薬が行き渡る領域が広くなること、肝臓の全身に占める割合が成人よりも大きいため、薬の分解(代謝)が早くなること、解毒するための仕組みが成人と異なること、などが挙げられます。そのため、成人と比較し、体重あたりの投与量が等しくなるよう調整しても血液中の薬の濃度が低くなる、という現象がみられます。
また、小児では移植後の身体発育(骨の成長)に悪影響を及ぼすステロイドの投与を減らす方法や、思春期に気になるニキビなどの副作用が原因で、自己中断で薬を中止することがないように対策を行うことが重要です。

薬の吸収・分解を行う酵素の活性には個人差があるため、その解析が遺伝子レベルで行われるようになり、成人でも認められる遺伝子変異(薬を吸収・分解する酵素の遺伝子の作用が変化すること)が小児ではどうなのか、ということについて薬剤別に解説されました。

タクロリムスではこの酵素の働きが強い人と弱い人が遺伝子の違いにより分かれるため、同じような投与をしていても血液中の薬の濃度が人により違ってきます。長期の追跡結果で、この遺伝子の違いにより、血液中の薬の濃度の差にとどまらず、タクロリムスによる移植後糖尿病の発病頻度にも差が出てくる可能性があることが分かってきています。小児ではこの遺伝子の違いの影響は成人よりも強く、またステロイドの内服中止状況によって、タクロリムスの代謝酵素の働きに影響が出ることが判明したそうです。

成人同様、最も多く用いられている免疫抑制剤であるミコフェノール酸モフェチル(MMF)の濃度については、代謝酵素の遺伝子変異が非常に複雑で、ある1つの遺伝子変異だけでは判断できないものの、日本人の中でそれほど個人差があるわけではないようです。こちらもステロイドの併用による影響を受けやすく、成長のためにステロイドを中止している小児では、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)変化体の濃度が高くなりやすいようです。

解説・文責:北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生