平成26年10月31日、島根県松江市にて行われた第36回日本小児腎不全学会学術集会で、「小児腎移植患者の成長を考慮した長期生着に向けた取り組み」というシンポジウムが行われました。
相川厚先生(東邦大学腎臓学講座)と大田敏之先生(県立広島病院腎臓小児科)の司会で、小児腎移植の4つのテーマから、成長と長期生着に関する話題を討論しました。
講演に参加する機会を頂きましたので、シンポジウムの前後で得られた話題や印象とともにレポートします。講演の解釈について誤解があるかもしれませんが宜しくご容赦下さい。

「成長を考慮した小児腎移植手術手技」
森田研 北海道大学病院 泌尿器科 講師

小児の腎移植手術を行う場合に、成人の腎移植よりも繊細な対応を必要とするポイントを3つに分けて検討しました。1点目はドナーとの体格差による腎臓のサイズミスマッチ(腎臓が大きすぎたり、小さすぎたりすること)の問題、2点目は血管吻合の問題、3点目は移植腎から出た尿を膀胱に運ぶ尿路の再建手術についてです。

1点目に関しては、成人の場合、腎移植後には、移植された腎臓が1.5倍前後の大きさになり、1個で体全体に対応しようとする反応があります。生体ドナーの残った腎臓も、2つあった分を代償するように大きくなることが知られています。小児では、成人の大きな腎臓を小さな体に移植するので、移植直後は、相対的に大きな腎臓に十分血液を供給できていない可能性があります。腎機能の指標である糸球体ろ過量の変化がそれを物語っており、移植後長期間経過し安定してくると、体の成長とともにこの糸球体ろ過量も適正な値に安定してくることがわかりました。

血管吻合については、移植後の成長で縫合面が拡大しても血管が狭くならないような縫い方をする必要があり、サイズの小さな小児腎移植では成人に増して確実な手術操作をすることが要求されます。成長後、身体のサイズが相当大きくなるので、その時に問題を起こしてくることがないかどうか、5歳以下で移植し現在身長が当時の2倍前後になっている方々のデータを調べました。腎移植手術そのものに問題がなければ、成長に伴う血管トラブルはありませんでした。
特に体重が少ない乳幼児に移植を行う場合は、太い血管に移植腎血管を吻合する必要があるため、通常の腎臓と同じくらい高い位置の腹部に移植腎が植えられることになります。移植後、身長の伸びとともに胴体が長くなると、移植腎の尿管が引き伸ばされる可能性があるのではないかと考えました。そこで、移植後から検査が行われていた方々のCTスキャン画像を追跡してみました。画像を追跡した方々に関しては、幸い現時点では成長による明らかな障害は出てきていませんでしたので、尿路再建の手術は必要がありませんでした。こういったことに関して、小児の長期成績がそれほど多く集積されていないため、今後も注意深く観察を続ける必要があります。

・・・総合討論・・・・・・・・

最後に会場で行われた総合討論では、司会の大田先生より、小児で免疫抑制剤の血中濃度が安定しない場合の対応法について問題提起がありました。
寺西先生は血中濃度変動の際の対応として、1回だけの濃度測定ではなく、内服後複数回の採血により詳しく体内濃度を調べることが大事であると述べました。また、1日1回の内服で済む薬剤の投与については、薬の吸収・排泄がゆっくりなので、濃度の変動が少なくなり、最低濃度の値が1日2回の内服薬に比べて低くなる傾向があることや、投与量調節の頻度が1日に1回の対応となることから、投与量修正のチャンスも1回になることに注意(朝の濃度が高いからといってその日の晩には修正ができない)が必要だと述べていました。
薬剤投与には個人差があるため、投与量が多い人が必ずしも副作用が強いかというとそうではないので、遺伝子の特徴や個人差をどう考慮していくかが今後の課題です。特に小児では細やかな投与量設定が必要になるため、1日1回の調節では難しいことが多く、粉薬やカプセルを1日2回に分けて投与することが多くなるという会場からの意見がありました。

腎不全治療における身長発育の問題は、時代による治療の進歩があり比較が難しいのですが、腹膜透析でも腎移植と同様な成長が得られるとする報告もあります。年々腎移植を行う時期が早くなっているため、腹膜透析の継続期間が短くなっていて、昔に比べて低身長の状況は改善してきているのではないかと後藤先生が分析されていました。
成長を促進する下垂体ホルモンを薬剤として投与する方法は、腎不全の状態でも効果があり、2歳を過ぎたら積極的に使う方向になってきていると上村先生が述べていました。
司会の相川先生から、腎機能悪化のスピードが遅い傾向がある先天性腎尿路異常のお子さんの場合は、腎機能が枯渇していなくても成長障害が強い場合があるため、そういった症例についての移植の適応を早めるべきではないかという問題の提起がありました。

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小児腎移植では、成人の単なるミニチュアという扱いでは対応できない様々な課題があり、それが現時点で全てクリアできている状況ではありません。しかし今回提示された視点から考えますと、腎移植全体に応用できることが数多く含まれており、特に小児では長い人生を考慮した腎移植後対応が必須です。自己管理の問題も成人よりもさらにきめ細やかな対応が必要であるなど、長期生着時代となってきた現代の腎移植において、非常に参考となる点が多く含まれている領域であることを再認識しました。

解説・文責:北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生