原疾患は何か? 再発か? 新規か?

腎生検をせずに、透析導入となった方も多いと思います。しかし、どんな理由で腎不全に至ったのか知っておくことはとても重要です。それは同じ歴史を繰り返す確率が高く、移植腎を守る予防策を立てるのに有効となるのです。
「糖尿病性腎症」と言われていても、高血圧による腎硬化症や、肥満による肥満腎症が合併していたのかもしれません。糸球体腎炎でも同様に腎炎+腎硬化症+肥満腎症という病態もあり得ます。
日本の現状では高齢ドナーも多く、移植時、すでに軽度腎硬化症を持ち込んでいる場合もあり得ます。また、再発とは別に新規(de novo)腎炎が移植腎に起こってくることも知られています。

記事の最後に付けた【腎炎のWHO分類】をご確認いただくとわかるように、腎炎と言っても多種多彩です。
遺伝性の酵素、凝固、補体系因子の欠損によって起こってくる病気に対して、近年、補充療法が確立されてきました。ループス腎炎や血管炎など、移植後の免疫抑制剤が、原疾患のコントロールも兼ねることができる疾患もあります。
今回は、graft loss(移植した腎臓が機能を失うこと)につながるような腎炎について述べます。

巣状糸球体硬化症 FSGS;Focal Segmental Glomerulosclerosis

組織学的にFSGSといっても、その病因は遺伝性、感染、毒素、肥満など複数で、病因が特定できない特発性と臨床像も異なります。近年、組織型をさらに5型に分類して病因や予後(今後の病状についての医学的な見通し)を分類する論文も出ています。二次性の中には過剰濾過によるものも含まれ、移植後腎炎では、ドナーとレシピエントの組み合わせで、女性から男性、体格の小さい人から大きい人、黒人から白人などで過剰濾過が起きやすく、新規のFSGSの発症に注意する必要があります。病因によって、再発の頻度、腎機能低下の速度や治療法も異なります。
特発性のFSGSは腎臓の予後が不良であり、再発率が高く(20~50%)、移植後早期(数日)から再発することが知られています。移植後数日で多量の蛋白尿が出ることから、液性因子(まだ特定できていませんがsuPAR; Serum soluble urokinase receptorが有力?)の関与が考えられています。これらの因子を除去するために、術前(発症すれば術後も頻回)に血漿交換療法を行ったり、保存期で有効性が確立してきているリツキサンを使用したりして、手術に臨んでいます。
再燃のリスクファクターとして原疾患が小児期発症、進行性の経過、移植腎の再発などがあげられています。蛋白尿がコントロールできない場合の予後は厳しいです。

膜性腎症 MN; Membranous nephropathy

移植腎での再発率は10~45%、再発時期は移植後13~15か月と報告されています。
特発性膜性腎症の原因因子として液性因子PLA2R(M-type phospholipase A2 receptor)抗体が注目されています。保存期の膜性腎症では自然寛解(寛解(かんかい):病気の症状が、一時的あるいは継続的に軽減またはほぼ消失した状態)を認める症例もあり、積極的治療を行わないこともあります。軽度の膜性腎症では、腎機能低下があまりなく、血圧、高脂血症のコントロールで経過観察することもありますが、蛋白尿が高度の移植後再発症例においては、一度腎不全に陥っている既往があるので、リツキサンを使うなど免疫抑制をかけます。新規膜性腎症は再発例より後発で、慢性拒絶反応と関連して予後不良と報告されています。

膜性増殖性腎炎 MPGN; Membranoproliferative Glomerulonephritis

再発率は20~48%、リスクファクターとして、生体腎移植、二次移植、低補体血症などがあげられています。糸球体の組織像が拒絶反応の糸球体像と類似しており鑑別が難しい場合があります。臨床像としては蛋白尿、血尿、低補体血症(血清中の補体成分が低下する症状)が出現し、蛋白尿の程度によって比較的急速に腎機能が低下するという経過をたどります。免疫抑制剤や血漿交換療法を行いますが、再発MPGNの平均移植腎生着期間は40か月との報告があります。
従来は電子顕微鏡の所見からsubtype I、II、IIIに分類していましたが、2012年から補体制御異常をきたすC3腎症を分けて分類するようになり、免疫複合体型MPGN(従来のtype I,III)とC3腎症(従来のType II、C3腎炎)の分類を用います。

C3腎症

形態上、MPGNに含まれていましたが、治療につながる補体副経路異常など発症機序が明らかになり、MPGN type II(DDD) とC3腎炎がC3腎症と分類されます。
移植後1~2年で、再発率は50%以上。移植腎生着率は1年で94%、5年で69%、10年で28%とあまり良くありません。臨床経過はMPGNと同様です。免疫抑制剤の強化や欠損因子を補充するため新鮮凍結血漿による血漿交換療法を行うこともあります。保険適応されていない補体C5に対するモノクローナル抗体エクリズマブ(非常に高価!)に期待が寄せられています。

IgA腎症

腎炎の中で最も多く、移植患者さんでも原疾患がIgA腎症である方は多数派です。
再発率は21~58%、リスクファクターとして、生体腎移植、HLA型(B35,DR4,B8,DR3)、ドナーとレシピエントのHLAマッチが良い、IgA高値などが報告されています。臨床像としては組織的にIgA、C3の沈着を認め、血尿、蛋白尿が出現し、数年間で徐々に腎機能が低下するという経過をたどります。移植後再発IgA腎症でgraft lossは10年で7~10%に認められるとの報告もありますが、経過が長く慢性拒絶などの合併例もあり、正確には不明なところもあります。
移植後再発IgA腎症に対して、各種の免疫抑制剤が試みられましたが、効果的な治療法がないとされています。日本において、リツキサンを用いたり、2000年以降、保存期IgA腎症に扁桃腺摘出術;扁摘+ステロイドパルス療法の有効性が報告され、その後移植後再発IgA腎症に対しても扁摘(+ステロイドパルス療法)が行われています。
近年では、原疾患がIgA腎症であった症例に対して、予防的(発症前)に扁摘を行うこともしており、これらの有効性の検討が待たれます。
当院で、移植後再発IgA腎症21例に扁摘を施行、3例は予防的、12例は扁摘のみで尿所見消失、5例はステロイドパルス療法を加えて尿所見消失しています。経過の長い症例ほど難治性となるようですが、移植後再発IgA腎症に対して扁摘パルス療法は有効な治療法といえます。


いずれの腎炎でも蛋白尿<1g/日、血圧<130/80、高脂血症などのコントロールが大切で、食事療法や降圧剤などの内服薬の治療が基本になります。また、上記腎炎は組織学的分類であり、病因が複数(2次性:病因が明らかなもの)存在します。病因や合併した病態(高血圧、高脂血症、糖尿病)により臨床像、治療効果、予後が異なってきますので、お一人お一人を分類の中に含めるのが困難な場合があります。
移植の場合は、さらに、拒絶反応やウィルス感染症などが合併し、より複雑になりますので、なかなか統計的な数字を出すのが難しくなっているようです。



【腎炎のWHO分類】

Ⅰ.一次性糸球体疾患
 A.微小変化
 B.巣状分節状糸球体病変(巣状糸球体腎炎を含む)
 C.びまん性巣状糸球体腎炎
  1.膜性糸球体腎炎(膜性腎症)
  2.増殖性糸球体腎炎
   a.メサンギウム増殖性糸球体腎炎
   b.管内増殖性糸球体腎炎
   c.膜性増殖性糸球体腎炎(Ⅰ、Ⅲ型)
   d.管外増殖性糸球体腎炎(半月体形成性、または壊死性糸球体腎炎)
  3.硬化性糸球体腎炎
 D.分類不能の糸球体腎炎

Ⅱ.全身性疾患にともなう糸球体疾患
 A.ループス腎炎
  Ⅰ型:微小メサンギウムループス腎炎
  Ⅱ型:メサンギウム増殖性ループス腎炎
  Ⅲ型:巣状ループス腎炎
  Ⅳ型:びまん性ループス腎炎
  Ⅴ型:膜性ループス腎炎
  Ⅵ型:進行した硬化性ループス腎炎
 B.IgA腎症
 C.紫斑病性腎炎(シェーンライン・ヘノッホ紫斑病)
 D.抗GBM糸球体腎炎(グッドパスチャー症候群)
 E.全身性感染症における糸球体病変
 F.寄生虫感染症にともなう腎症

Ⅲ.血管系疾患における糸球体病変
 A.全身性血管炎(高安病、結節性多発動脈炎、ウェジナー肉芽腫症、顕微鏡的結節性多発動脈炎など)
 B.血栓性微小血管症(溶血性尿毒症症候群、血栓性血小板減少性紫斑病)
 C.糸球体血栓症(血管内凝固症候群)
 D.良性腎硬化症
 E.悪性腎硬化症
 F.全身性硬化症

Ⅳ.代謝疾患における糸球体病変
 A.糖尿病性糸球体症
 B.膜性増殖性糸球体腎炎(Ⅱ型)
 C.アミロイドーシス
 D.単クローン性免疫グロブリン沈着症
 E.原線維性糸球体腎炎
 F.イムノタクトイド糸球体症
 G.マクログロブリン血症
 H.クリオグロブリン血症
 I.肝疾患にともなう腎症
 J.鎌状赤血球貧血症にともなう腎症
 K.チアノーゼを示す先天性心疾患や肺高血圧症にともなう腎疾患
 L.著しい肥満にともなう腎疾患
 M.アラジール症候群

Ⅴ.遺伝性腎疾患
 A.アルポート症候群
 B.良性反復性血尿、菲薄基底膜症候群
 C.ネイル‐パテラ症候群
 D.先天性ネフローゼ症候群
 E.新生児ネフローゼ症候群(びまん性メサンギウム硬化症)、ドゥラッシュ症候群
 F.ファブリー病、および他の脂肪代謝異常症(家族性LCAT欠損症、ゴーシェ病など)
 G.リポたんぱく糸球体症
 H.コラゲノファイブロティック腎症

Ⅵ.その他の糸球体疾患
 A.妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)の腎症
 B.放射線腎症

Ⅶ.末期腎

Ⅷ.腎移植後の糸球体病変