10月4日~6日に仙台にて開催された、「第47回 日本移植学会総会」にて、北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科学分野 森田研先生が発表された講演内容を、ご紹介・ご説明頂きます。

~腎移植後の急性拒絶反応に対する新しい薬剤について~ 「ステロイド抵抗性急性拒絶反応に対するサイモグロブリンの治験経験」
【北海道大学大学院医学研究科 腎泌尿器外科学分野 森田研先生】

腎移植後の急性拒絶反応は、最近の免疫抑制剤により頻度が減少しているとされています。現在では移植を行った方の15~20%に起こる可能性があるという統計があります。拒絶反応が起こりにくくなってきたことが腎移植成績の改善に直結しています。拒絶反応の治療効果は高く、寛解率が向上していることも成績が良くなって来たことの理由の一つです。このような通常の急性拒絶反応は、レシピエントの身体で形成されたT細胞が移植腎に集まって来て攻撃を加えることから、細胞性拒絶反応と呼ばれて抗体関連拒絶反応と区別されて分類されています。通常は移植腎の生検によってT細胞が移植腎を攻撃していることを確認してから治療を行います。

腎生検による拒絶反応の重症度によって、軽い場合にはまず、ステロイドパルス療法を行います。3日間の点滴でその間の副作用はありませんが、ステロイド剤の大量投与になりますので、糖尿病の危険性や白内障、骨への影響があり得ます。このステロイドパルス療法によっても数日間で治療効果が望めない場合(ステロイド抵抗性拒絶反応)や、腎生検でより重症の血管性拒絶反応(T細胞によって腎の血管が障害されている場合)と診断された場合は、ステロイドパルス療法以上の治療が必要になります。その場合に使用される薬剤として、20年あまり使用されてきたOKT-3という薬剤は、マウスに作らせた抗体で、激しいアレルギー症状が出ることで有名でした。投与直後から全身がガタガタと震えるほどの発熱、悪寒を生ずることが多く、ひどい場合はショックや倦怠感の悪化で動けなくなる方もいらっしゃいました。このような強い急性の副作用と、拒絶反応の頻度が少なく、使用が限られて来ていたことより、昨年度いっぱいで国内でのOKT-3の供給がストップすることになりました。

その後継薬剤として、このたび新たに4月22日付けでサイモグロブリンという薬剤が認可されました。この薬剤は、欧米では10年以上の使用実績があり、OKT-3に比較して投与後の症状が軽いため、ハイリスク移植と呼ばれるような、免疫学的に難しい移植の場合には移植直後から使用される場合もありました。最初から予定して使用することを導入免疫抑制と言い、拒絶反応時の投与とは別に分類しています。

このサイモグロブリンの特徴は、ウサギに抗体を作らせており、人間のT細胞の表面にくっついてT細胞を融解したり、自然消滅を誘導したり、細菌などを食べるマクロファージという細胞に消化させたりする作用があることです。この点はOKT-3と効き方が似ています。半日かけてゆっくり少しずつ投与し、1週間弱の期間、点滴投与を行います。OKT-3と同様の、投与直後からの発熱を認めることがありますが、その程度は軽く、ショックや悪寒戦慄といった強い症状になることは殆どありません。ウサギが作った抗体であるからというわけではないのですが、サイモグロブリンがくっつくリンパ球の表面抗原が多様であり、T細胞の一カ所の抗原のみを対象とするOKT-3と対応する細胞表面抗原が異なること、T細胞破壊の道筋が多いことも影響しているのかもしれません。一方、その効果は強力であり、投与後半年間は、Tリンパ球の数が極端に減少した状態になります。一般採血ではあまり変化が無くても、ウイルスに対する抵抗を行うTリンパ球の数が殆ど無くなってしまうため、半年間はウイルス感染(サイトメガロウイルス、EBウイルス)やPCP肺炎(ニューモシスチス肺炎)といった通常では罹患しにくい感染症に注意して予防、検査を行うことが重要です。また、血小板の一部の表面にも作用するため、血小板数が低下する危険性もあります。細胞性拒絶反応を起こした腎の組織に対する効果は絶大であり、北大病院で4月以降に治療を受けた小児、成人それぞれお二人ずつの治療後のクレアチニン値、腎生検の病理所見は、とても良好に改善しており、腎機能は拒絶反応前の状態に戻っています。副作用は発熱の他、予防薬の内服や吸入と、2週間毎の通院検査を行って監視することで特に大きな問題はありませんでした。サイトメガロウイルス感染症は殆ど必発と言われていますので、検査や予防薬内服が勧められます。

OKT-3の代替え薬として登場したこの薬剤の治療で、多くの重症急性拒絶反応が救われることになると考えられます。拒絶反応を起こさないように免疫抑制剤をしっかり服用することが第一ではありますが、移植後の患者さんにとっては、副作用がより少ないことを考えると福音と言えるのではないでしょうか。

解説・文責:北海道大学大学院医学研究科 森田 研 先生