トップページ  >  移植コラム  >  ドクターコラム  >  「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」 第51回日本移植学会報告【1】

森田 研先生 コラム

平成27年10月1日から3日にかけて熊本にて開催された日本移植学会での特別講演の内容について、北海道大学の森田研先生にご解説いただきます。第1回目は、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞された、京都大学iPS細胞研究所 山中伸弥先生のご講演です。


「iPS細胞研究の現状と医療応用に向けた取り組み」
京都大学iPS細胞研究所(CiRA) 山中伸弥先生


山中先生

平成27年10月1日から3日にかけて、熊本にて開催された日本移植学会で、2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞された山中伸弥先生の特別講演が行われました。
様々な医学研究の元になる疾患モデルや難病治療薬の開発、再生医療への期待が膨らむプロジェクトの進行状況について、ご本人の肉声で聞くことができるとあって、会場はメイン会場では収まりきらず、講演内容は別の会場でも同時中継され、多くの方が熱心に聞き入っていました。壮大な目的に向かって継続して仕事をされ、さらに今後何十年先を見据えた理想の医療を想定されている姿と、非常にスマートなプレゼンテーションに感動を禁じ得ませんでした。

山中先生は大学卒業後、整形外科医になり、米国での初期研究を終えて帰国されたあと、ご自身の研究テーマに沿った研究室を奈良先端科学技術大学院大学に開設されました。そして、のちにノーベル賞を受賞する原動力となる若い研究者をスカウトし、人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究を2003年に開始されました。
帰国当初は、米国で自由自在に行えた研究が思うようにできず、「帰国後うつ病」になってしまい、これが駄目であれば、もう研究はやめようと思い、諦めるつもりで研究室開設に応募したそうです。当時の若手研究者のメンバーを紹介しながら解説されたその頃のエピソードは、多くの医療スタッフの共感を呼ぶものでした。
山中先生は、今では治癒が可能となったC型肝炎でお父様を亡くされているそうです。最近になって治癒できるようになったC型肝炎の治療薬が米国の企業の開発競争で完成されたことで、病気は治るようになった反面、一錠数万円という膨大な医療費がかかるようになっている現状を踏まえ、山中先生らの開発されたiPS細胞の研究成果は、特定の企業や個人が独占することのないように考えて進められています。2003年に掲げた研究室のテーマであるiPS細胞の樹立は、予定期間を大幅に短縮して2006年にはマウスで、2007年にヒトで実現しました。現在、人類共通の知財確保を目的に国家的プロジェクトとして進められています。

ノーベル生理学・医学賞を受賞した研究内容ですが、山中先生は臨床応用が完成するまでは医学賞の評価には当たらないと述べておられ、2010年に設立されたCiRA(京都大学iPS細胞研究所)で次の目標を定めておられます。
安全に、かつ効率的に難病治療、臓器再生、治療薬開発研究などの具体的な臨床応用ができるように、さらなる高い目標設定をされています。
その具体的な内容は、現実に昨年から臨床治療が開始された網膜変性疾患への細胞治療に始まり、パーキンソン病、神経疾患、血液製剤の作製、再生医療や疾患モデルの開発による治療薬開発、そして移植を待つ人々が心待ちにしている臓器再生など多岐にわたっています。
実際に有害な合併症が起こらないための対策や、大量に再生臓器の供給が必要になった場合の体制整備、自己細胞からのiPS細胞構築が間に合わない疾患を想定し、日本人のほぼ全員のHLAに適合する医療用iPS細胞ストックの構築など、次の10年、20年を見据えた具体的目標設定を行われています。

そもそも米国から帰国され、2003年に奈良に研究室を立ち上げられた時の目標は「受精卵を使わず、皮膚などの細胞からのiPS細胞樹立を10年間で完成させる」という壮大な計画であり、当初、困難とされていたものでした。その壮大な目標を達成するための強い意志と努力が会場の聴衆の胸に響きました。
CiRAでは現在、次の目標である臨床応用に向けて多くの職員が研究を継続しておりますが、iPS細胞の臨床応用は前述の如く、国家プロジェクトとして進められているものの、ほとんどが競争的資金※による職員であり、期限のある雇用が9割を占めているそうです。そのため、山中先生の仕事は研究を継続するための財源確保と研究室環境、組織作りで、「舞台裏の整備」であるとおっしゃっており、寄付や研究資金の獲得のためマラソンや各種の活動を精力的に継続しているということでした。
※研究機関や研究者から研究課題を公募し、第三者による審査を経て優れた課題に分配される研究資金。競争的研究資金。
会場で販売されていた「iPS細胞の世界 未来を拓く最先端生命科学」B&Tブックス(日刊工業新聞社)は、CiRAの職員による直接編集で、山中伸弥先生が監修されております。定価2000円ですが、大変読みやすく書かれております。印税はiPS細胞研究基金に寄付されるそうですので、ご興味のある方はぜひ読んでみてはいかがでしょうか。

■iPS細胞研究基金にご興味のある方はこちら


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