2016年3月23~25日に米子市で行われました、第49回日本臨床腎移植学会では、会長の杉谷篤先生(独立行政法人国立病院機構米子医療センター 副院長)が、たくさんの企画をされておりました。多くのシンポジウム(14テーマ)、教育セミナーの中から、小児腎移植、長期生着、生存に向けてのシンポジウム、そして、「腎臓の再生」についての教育セミナーをレポートいたします。
できるだけ講演内容に忠実にレポートしておりますが、微妙に講演者の意図とずれていることがあるかもしれません。あらかじめご了解ください。

臨床腎移植学会

第49回日本臨床腎移植学会 シンポジウム9
「小児腎不全と小児腎移植の現状と課題」

学会2日目の午後に、小児腎不全治療、小児腎移植の現状と課題についてのシンポジウムが行われました。大阪医科大学小児科の芦田明先生と東邦大学腎臓学講座の宍戸清一郎先生の司会で、6名の講演者が、成人とは多くの面で異なる、小児腎不全治療についての講演を行いました。


「小児腎移植の現況と成績(小児腎移植臨床統計小委員会報告)」
東京女子医科大学 腎臓小児科 服部元史先生

小児腎移植に特徴的な情報を正しく認識するために、小児腎移植の膨大なデータの解析結果が示されました。
その解析結果によると、小児の腎不全治療は、成人と異なり、腹膜透析の割合が6割を占め、腎移植が2割で、血液透析は15%でした。4歳以下の乳幼児ではさらにその傾向が強くなり、腹膜透析が大部分になります。その約半数が5年以内に腎移植を受けていました。生体腎移植と献腎移植の割合は9:1となっており、日本は世界で最も生体腎移植の割合が高い国ということになります。日本でも献腎移植を増やすために、20歳未満の小児に対する献腎移植の優先的配分ルールがありますが、小児への提供を増やすためには、献腎移植自体の数を増やす必要があります。
生体腎移植の内訳をみると、血液型不適合移植は1割となっており、維持透析を経ずに腎移植を行う先行的腎移植は22%と欧米並みでした。また、腎移植後の成績を示す5年生着率は、95%と欧米よりも良好とのことでした。

「小児腹膜透析におけるカテーテル関連外科的治療の実態(カテーテル感染などによる追加手術の実態について)」
 東京都立小児総合医療センター臓器移植科 松井善一先生

小児の腹膜透析では、カテーテル感染や排液不良にて追加の手術が必要になる場合があります。
松井先生の検討した小児の患者さんでは、その半分が3歳以下の乳幼児で、小さなお腹で腹膜透析を継続するために必要な手術、外科的治療がタイミングよく行われることが重要であることを述べておられました。
その中で、カテーテルがお腹の中で大網という脂肪の網に引っかかって閉塞してしまうトラブルが腹膜透析開始後3カ月間に多いこと、腹膜透析を本格的に開始するまでの期間が長いほど大網が絡みつきやすいことを挙げておられました。また、感染症や成長の問題など、他の因子も影響している可能性も論議されていました。

「若年血液透析患者での内シャント造設について」
 東京女子医科大学 腎臓病総合医療センター外科 廣谷紗千子先生

廣谷先生は、20才未満で内シャント手術を行った53名の方の経過について報告されました。
腎臓の形成が未熟な低形成腎では、5才以下で腎不全の治療を行うこともしばしばありますが、例えば3才で身長90cm台、体重14kgというような小さな体格でも、他の治療法が行えない場合には、血管の吻合を行って前腕に内シャントを作る必要があり、血管外科の高い技術が必要とされます。
廣谷先生は、90%以上という高い手術の成功率を出しておられましたが、これまでの手術の中には、細い血管が手術操作で攣縮(縮み上がってしまうこと)を起こして血栓ができ、拡張薬を投与して手術操作を休み、1時間前後待機しなければならないこともあった、とお話されていました。
また、小児の場合は腕が短いため、何度も内シャント手術を行うと、手術部位がどんどん肩に近くなってしまうため、注意が必要であることや、同時に、生活環境や家庭環境を十分考慮し、心理的問題に配慮していかないと治療が上手くいかない場合があるため、継続した心理的サポートが重要であると述べられていました。

「生体腎移植の8年後に腹膜硬化症で手術を必要とした小児について」
 県立広島病院 小児腎臓科 大田俊之先生

腹膜透析が長期化すると、被嚢性腹膜硬化症という重症の腹膜合併症の危険性が高くなります。
大田先生が実際に治療された小児で、3才で腎臓病を発症し、長期間の腹膜透析を経て8才で腎移植を受けて腹膜透析を離脱したものの、その後、この重症合併症が起こってしまい、腸閉塞をきたしてしまった患者さんの経過を詳細に報告されました。
当時はまだ腹膜透析液として酸性液しか使用できず、腹膜硬化症が移植後に起こってしまった経過を振り返り、腹膜透析治療が長期間になる前に、腎移植治療についてご家族と十分に治療選択ができていたか、腹膜透析離脱後の洗浄やカテーテル抜去の時期はどうだったのか、腸閉塞に対する手術の対応方法はどうだったのかなど、多くのポイントで論議がなされ、特に小児では、治療法の選択について、早い段階からご家族との相談を繰り返し行っていく必要性があることを訴えておられました。

「新潟大学における小児腎移植の臨床的検討」
 新潟大学 腎泌尿器病態学分野 黒木大生先生

黒木先生は、新潟大学で行われた26名の小児腎移植について分析されました。26名のうち、維持透析を経ずに腎移植を行う先行的腎移植が48.2%と高い割合となっており、透析導入してから移植する場合でも、透析期間をできるだけ短くする工夫がされています。
移植後、拒絶反応を経験したケースは全体の4割で、2人が透析を再開していますが、多くのケースは拒絶反応の治療に対する効果が良好で、腎臓の組織所見も改善していました。
小児の腎移植では拒絶反応以外にも、ステロイド投与による移植後糖尿病発症や、薬剤性の脳症、透析カテーテル関連の肺血栓症、尿路結石症など、全身的な合併症にも留意することが必要であったと述べられていました。

「小児腎移植前後の尿中マーカー:L-FABP(腎臓が障害された程度に応じて分泌されるタンパク質)の検討」
 静岡こども病院 腎臓内科 北山浩嗣先生

尿中L-FABPという尿細管から分泌される化学物質は、腎臓を保護するために働くタンパク質で、腎臓が障害された程度に応じて分泌されます。そのため、その微量な数値の測定により、腎臓疾患の早期発見ができる可能性があることを小児腎移植での臨床実例で示されました。
腎移植を行うと腎臓に一時的な負荷がかかり、移植後2週間ほどの間、このL-FABPというタンパク質が尿から検出されます。
慢性腎臓病の治療過程でも、腎臓病の重症度に比例してこの数値は変動するようです。急性腎不全では血中のクレアチニン上昇に先んじて上昇するため、早期発見につながる可能性があり注目されています。慢性腎不全の治療の際にも、貧血治療を行うのに適切な時期や、先行的腎移植の適正時期を見極めることにも有効ではないかということでした。今後、臨床現場における保健適用範囲や頻度、血清クレアチニンとの関連などが検討されます。


多方面からの小児腎不全治療の話題提供が行われた後、司会の先生から講演者に質問があり議論が行われました。
まず今後、このような小児の腎不全という特殊な医療を担う若い世代の医師(腎臓小児科医、小児腎移植医)をどうやって確保していくかということ、小児では技術的に困難な内シャントや腹膜の手術における問題点、小児に多い服薬不全や治療不徹底の問題をどうするか、というような討論が行われました。
服薬不全や治療不徹底などの問題解決のためには、小児を取り巻く環境を詳細に調べることが、古くて新しい重要ポイントであり、チャイルドライフスペシャリストと呼ばれる、小児専門相談スタッフ職のサポート体制を強化し、治療の遵守性を確認するためにも小児腎不全患者とできるだけ対話を増やすことが大切です。どんなにお利口さんな子どもでも、注意深く自己管理状況を確認していくことが、小児の治療成績を向上するためにベストな方法であることを、司会の宍戸先生が述べられて、シンポジウムを終了しました。