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第38回日本小児腎不全学会 シンポジウム1
「腎不全&腎移植におけるtransition(移行医療)」

「トランジション外来における取り組み」
江崎陽子先生(国立成育医療研究センター 看護部)

2015年から同センターで開始されたトランジション外来(大人になりゆくことをサポートする外来)で、小児慢性特定疾病の児童成人移行期モデル事業として行われた、「自分の将来を考えてみよう」プロジェクトについて紹介されました。
自分の病気の正しい理解、自己認識の把握を目的に準備を行い、成人チームと小児チームを連携して管理していました。対象年齢は15歳から20歳が大部分です。腎移植医療が難しいのは、この年代の前半、後半、またはその後に、腎移植を受けるタイミングが来ることです。
実際にこのプロジェクトを開始してみて分かったことは多いということで、成人移行する子供達から出たコメントを紹介していました。子供達からは、「自分はこんな病気だったのか」「こんなに自分はがんばってきたのか」「結婚して子供を作りたいが、できるのか」「透析をしながら仕事はできるのか」といった声が聞かれ、はっきりと自分の病気や目標を認識した子供達が、成人診療科に移行するその日になると、それまでには見たことがないしっかりした姿で、スーツを着て小児科に卒業の挨拶に来るそうです。
欧米で進められている「ヤングアダルトクリニック」と同様の移行医療が、日本でも専門的医療チームによって開始されていることが実感できました。

「大人になった子供達への移行支援」
山上孝子先生(増子記念病院 腎移植外科コーディネーター)

名古屋第二赤十字病院や愛知小児医療センターなど小児科医療施設から、小児科のない増子記念病院へ転院してくる小児腎不全患者さんの支援について、支援医療の統括を行うコーディネーターの立場から具体策と問題点が提示されました。
事前準備としては、まず小児施設の通院環境を、増子記念病院の診療チームで見学に行き、自立支援に必要なポイントをカンファレンスではっきりさせ、疾患の治療だけでなく、将来的に控えている結婚や進学、就職への移行を、多面的にサポートする準備を行います。体調が悪い場合は、必ずコーディネーターとして診察や面談に加わり、定期受診に遅れる、または来られない場合の連絡の仕方などを実際にサポートします。
その過程における調査結果では、定期的な薬の服用を週に1回以上忘れてしまう経験のある児童は15%に上るということです。彼らは積極的に薬を飲まないのではなく、内服しなければならない必要性は理解できているが、それでも忘れてしまうようです。その背景には、学校や職場で薬を飲んでいる姿を見られたくないというプレッシャーが潜在意識に影響している可能性があるようです。このように健康な方々が気付くことが難しい、若い移植患者の置かれた環境による影響の1つとして、家族からのプレッシャーの一例も紹介されていました。「出産することは怖いが家族の手前、嫌とは言えない」などです。こういったことを打ち明けられる唯一の窓口として、コーディネーターが居るかどうかが大きな鍵になることが大変よくわかりました。

「現在の移行期医療への問題提起 移行期支援はいつから始めるべきか」
後藤芳充先生(名古屋第二赤十字病院 小児腎臓科)

移行期の医療を考える上で、小児腎臓学の立場からどのような問題があるのかについて概括されました。
小児科の初診の時点から移行の準備はすでに始まっているというのが後藤先生の持論で、小児における腎臓病管理は特殊な条件があるので、成人で古くから言われてきた運動制限や蛋白、塩分制限はむやみに行うべきではない(効果がある証拠がない)そうです。
小児腎臓病管理としてベッド上で安静にすることの弊害や、栄養制限を厳しくしすぎることによる栄養障害が起こる実例を提示されていました。この状態で成人診療科である腎臓内科や泌尿器科に移行する場合は、多職種のチーム管理による周到な準備が必要です。

【総合討論】

都立小児総合医療センター泌尿器科の佐藤先生より、知的発達障害のある児童の移行は、成人診療科への移行を希望されない場合も3割ほどあり、どのようにすべきか質問がありました。
知的レベルによって移行の是非を検討する必要があり、移行した後も、通常の成人診療科の対応に加えて両親の高齢化を見据えた支援医療が必要で、養護施設への入所も考慮した対応が課題(丸先生)とのことでした。

東京女子医科大学の服部先生より、実際に成人診療科に移行しても、うまく移行できずに小児科に帰ってくるケースがかなりあるようで、その問題について対応策をどうしているか質問がありました。
小児専門施設かどうかでこのようなケースの割合は変わるようです。移行してからも定期的に小児科と成人診療科とのカンファレンスを継続し、小児科が腎臓内科の治療方針をしっかり知ることが必要と後藤先生が答えていました。
座長の本田先生より、成人診療科の管理が具体的にどういう方法なのかを、小児科通院中にしっかり患児に説明をしておくことが必要であるとコメントがありました。
また、欧米で行なわれている同世代のサポートボランティアの介入などの移行プログラム(Paul Harden先生の講演)は、日本の現場に合うかどうか慎重に検討する必要があると丸先生が述べておられました。欧米で同様疾患の子供達を集めてコミュニケーションさせる方法は、あまり他人に自分の疾患を知られたくない日本の傾向に合うかどうかが微妙だそうです。

最後に、米子医療センターの杉谷先生より、ご自身の経験からも、朝晩きちんと欠かさず薬を服用することは相当難しいことであり、小児における工夫について実際どうしているのか、シンポジストに質問がありました。
山上先生が、朝晩のうち、晩の薬の内服を忘れてしまうことが多いのは、夕方の社会的アクティビティーのためだということで、最悪宴会の時にも内服できるような環境を作ることが大事と答えておられました。
学校での内服が他人の目を気にしてできない場合もあり、そのような場合に備えて飲み水を必要としない口内溶解錠の開発や、1日1回製剤の導入の必要性が座長からも指摘されていました。