トップページ  >  移植コラム  >  ドクターコラム  >  「最近の腎移植手術の際の入院期間のお話」 腎移植に対する患者さんの誤解その20

原田 浩先生 コラム

皆さん、真冬の最中、風邪など引かずにお過ごしでしょうか。札幌は例年になく、昨年10月の積雪、11月の大雪、12月頭の数十年に一度の60cmを越える降雪に加え、先日の再降雪で50年振りの90cmを越える積雪と、早くもまとまった雪の中で生活をしております。
さて、その話題ではないのですが、最近2回目の移植をされた方がいらっしゃいました。その方とのお話の中で、“昔とは随分変わりましたね”という言葉を聞くにあたり、その方の1次移植と今回の2次移植の際の入院治療の差異、とくに入院期間を中心に比べて、最近はこんなに早く帰れるのだと言うことを知っていただきたいと思い、今回のテーマとしました。


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まず表1を見てください。その方(Aさんとしましょう)は17年前にお兄さんをドナーに生体腎移植を行いました。原疾患はIgA腎症、当時41歳でした。
腎移植の行われた日を緑色で記載しておりますが、その17日前に入院されています。腎代替療法として腹膜透析を行っていました。入院後も腹膜透析を続け(黄色)、検査(一般検査、CT、骨シンチグラフィー、甲状腺シンチグラフィーなど)を行いました。その結果、問題がないことがわかり、免疫抑制薬(紫色)は手術の3日前から服用し、腎移植手術に至っています。その後の経過は非常に順調であり、遠方の方でしたので、移植後22日目から4日間、試験外泊をしています。なお退院直前に心カテーテル検査(CAG)を行い、腎生検(プロトコール)を行い退院となっています。
なんと移植後36日目の退院です。都合53日間入院していたことになります。前世紀の最後の事です。特に拒絶反応や、手術を必要とするような合併症などがあったわけではないのですが、当時はこのような経過が、少なくとも当院では通常だったのです。それより前の時代には、拒絶反応を発症して、その治療後に退院するという結果、入院期間が2~3カ月となることもあったと記憶しています。


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一方、Aさんは結局17年、透析治療のない生活を享受できたのですが、慢性腎機能障害にて2016年の9月に血液透析に導入となりました。その後、お母様が再度末期腎不全で苦しむのを目の当たりにした娘さんが、腎提供を申し出てくださいました。ちなみに、この娘さんはAさんの1次移植当時には小学6年生でした。表2は、Aさんの今回の2次移植の際の入院経過表を示しています。
すぐにお気づきになられたかと思いますが、マスの数が圧倒的に違いますね。腎移植前の期間は、現在ではまだまだ長いと思います。もっと短くするように再考中です。
それはさておき、なんといっても腎移植後の入院期間が短いというのが最大の違いです。移植後11日目に退院となっています。本来はその前の週の土曜日、つまり移植後9日目に退院される予定でしたが、創部(傷の部分)が少し痛いため、長距離バスに乗って自宅に帰る自信がないとのことで、入院期間が2日延びましたが、それでも大分短くなりました。
これはもはや、一般の臓器の摘出術、例えば胃がんや大腸がん、腎臓がんの手術などと比べてもそんなに長くない日数です。
入院期間が短縮された背景には、1.拒絶反応が圧倒的に少なくなった、2.術後の免疫抑制薬の使い方に医療者が慣れた、3.術前に拒絶などの発症のリスクの予測ができるようになり、その予防措置が取れるようになった、あるいはかなりのハイリスク症例は無理をして手術を行わなくなった(*1)、4.手術手技が安定してきた、5.先行的腎移植が増加し、尿路合併症、血管合併症が減少した(*2)などが考えられます。
ちなみに米国のマサチューセッツ州ボストンにあるマサチューセッツ総合病院(MGH)ではレシピエントは移植後3日目に尿道カテーテルを抜去してから退院。ドナーは提供後2日目に退院されるそうです(*3)
また、術前、術後の検査も今と17年前とでは、大分異なります。現在は、外来で出来る検査は全て行った上で入院となります。また術後もかつては早期に腎シンチグラフィーを2回行っていただけでしたが、現在は、パワードップラー超音波診断装置が導入され、毎日のように超音波検査で移植腎の状態を観察しています。超音波ですので、患者さんには全く侵襲はありませんし、手軽です。また、かつては免疫抑制薬の濃度を決定するのは朝1回の血中濃度測定のみでしたが、現在ではこの短期間の入院の中でも、2~3回採血することにより1日の血中濃度の算出をするようになり、より正確な服用量を把握することができます。


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腎移植は、退院までに時間がかかると誤解されている方もいらっしゃると思いますが、こんなにも短期間で退院できる場合があることを知っておいてください。もちろん、これは当科でも最短の症例の経過です。施設によっても考えは異なりますので、通院している、あるいは移植を受けたいと思っている施設に確認をしてみてください。
最後に付け加えますが、表3にはドナーの入院期間を示しました。MGHまでとはいかないものの、術後5日目に退院されました。



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次回は、移植前の準備について述べたいと思います。お楽しみに。


文献
*1 原田 浩. 既存ドナー特異的抗HLA抗体陽性症例への腎移植の実際-当院でのケースを中心に-. 日本臨床腎移植学会雑誌.4: 92-98, 2016.
*2 Hotta K, Miura M, Wada Y, Fukuzawa N, Iwami D, Sasaki H, Seki T, Harada H. Atrophic Bladder in Long-Term Dialysis Patients Increases Risk for Urological Complication after Kidney Transplantation. Int J Urol. accepted.
*3 MGH 河合達郎先生とのPersonal communicationによる


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