腎移植後の外来ではさまざまな検査が行われます。腎移植後に検査値をみる上で知っておくべきことや、移植内科医がどのようなポイントをみているのかについて、名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生にシリーズで解説していただきます。
第12回目はヘモグロビン(Hb)についてです。

①ヘモグロビン(Hb)とは

ヘモグロビンとは鉄を含むヘムという赤い色素とタンパク質のグロビンが結合した赤血球中のタンパク質のことです。

ヘモグロビン

ヘモグロビンは酸素濃度の高い肺で酸素と結合して全身の組織に運び、酸素濃度の低い組織で酸素を放出します。
赤血球やヘモグロビンが減少すると、必要な酸素が全身組織に送られなくなり、貧血状態になります。貧血は、その原因によって、鉄欠乏性貧血、悪性貧血、溶血性貧血、再生不良性貧血などに分けられます。また、腎機能が低下すると、腎臓で分泌される赤血球の産生を促すエリスロポエチン(造血ホルモン)の分泌が低下するため、貧血になります。これを腎性貧血といいます。
赤血球数が増加する原因としては、脱水症や多血症などが考えられます。

②ヘモグロビンの基準範囲(*1) 基準範囲は施設によって異なる場合があります。

男性:13.7~16.8g/dL
女性:11.6~14.8g/dL

③腎移植後にヘモグロビンをみる上でのポイント

以前はヘマトクリット値でフォローしていましたが、最近では、ヘモグロビンの値でフォローしていきます。

【ヘモグロビン値が低い時】
腎移植後に貧血がみられる頻度は高いです。
腎移植直後にヘモグロビン値が低い時の要因としては、移植手術前の末期腎不全の目標ヘモグロビン値が低いこと、手術による出血、頻回の術後採血、大量点滴による血液希釈などが考えられます。また、献腎移植などで移植腎機能の改善がゆっくりの時、ドナーが高齢の時、鉄欠乏の時にはヘモグロビン値の上昇が遅れます。腎移植後3カ月でヘモグロビンレベルはゆっくり上昇します。
維持期の貧血の原因で多いのは鉄欠乏です。女性では、腎移植後に体内ホルモン動態が改善されることによる、生理の再開にも注意が必要です。
免疫抑制薬の中でも、ミコフェノール酸モフェチル、ミゾリビン、妊娠希望時に使用するアザチオプリンなどの代謝拮抗薬は、骨髄を抑制して貧血を起こします。免疫抑制薬以外にも貧血を起こすものはあります。レニンアンジオテンシンン系阻害薬(降圧薬)、ガンシクロビル(抗ウイルス薬)、ST合剤(ニューモシスチス肺炎予防薬)などが移植後に使用する中でも、貧血の原因となる代表的な薬です。
また高齢ドナーからの移植腎では、エリスロポエチンが低いため貧血になりやすいです。移植腎機能が低下してきたときにもヘモグロビン値が低下してきます。
ヘモグロビン値が低下している時には、へモグロビンとともに、網状赤血球、血清フェリチン、TSAT(トランスフェリン飽和度)、便潜血などの検査を追加して、貧血の原因を鑑別します。

代謝拮抗薬の濃度が高い時や、移植腎機能が低下している時には、代謝拮抗薬減量により貧血は改善します。免疫抑制薬以外の貧血を起こす薬剤についても、減量ないしは中止します。
鉄欠乏性貧血には、ESA(エリスロポエチン製剤)とともに鉄を補充します。
ESAも鉄も投与されておらず、目標ヘモグロビン値が維持できない時は、血清フェリチン値が50 ng/mL 未満の場合、ESA 投与より先に鉄を補充します。
ESA 投与下で目標へモグロビン値が維持できない時は、血清フェリチン値が100 ng/mL 未満かつTSATが20%未満の場合は、鉄を補充します。血清フェリチン値が300 ng/mL 以上の時には、鉄を補充しません。
腎移植レシピエントのヘモグロビン値の目標は、11g/dL以上とします。腎不全保存期や透析患者では、へモグロビン値が上がりすぎると合併症が増加するとされていますが、腎移植レシピエントのヘモグロビン値の上限については、大規模な臨床研究の結果が待たれています。

【ヘモグロビン値が高い時】
腎移植後にヘモグロビン値が17g/dLより高くなる時があります。その場合は多血症と診断します。腎移植後に多血症になる原因はよくわかっていませんが、倦怠感や頭痛、血栓症を起こす可能性もあり治療が必要です。
18.5g/dLより低い時は、レニンアンジオテンシン系阻害薬を内服します。18.5g/dL以上の時には、レニンアンジオテンシン系阻害薬内服の有無にかかわらず、瀉血(しゃけつ)をします。

*1 日本臨床検査標準化協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案-解説と利用の手引き-2014年3月31日修正版」