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吉田 一成先生 コラム

移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第4回目は、移植した腎臓の機能が、長期間機能し続けるのが難しい理由についてです。


Q4.移植した腎臓の機能が長続きしないのはなぜ?


Q&Aシリーズ①で移植腎の生着率についてお話しした際に、20年を越す長期の生着は未だ難しいことを述べました。なぜなのでしょうか?それは移植した腎臓は自分のものではないからです。残念ながら移植臓器は遺伝子的には自分の体にとって「異物」です。唯一、一卵性双生児の臓器を移植した場合は(そして自分のクローンの臓器もですが)遺伝的に同一ですが、このようなことはまずありません。なお、世界で初めての腎移植成功例は、ジョセフ・マレー(米国)らにより一卵性双生児の兄弟間で行われました。


■HLAとは

我々の臓器の細胞表面には個々人の遺伝子によってそれぞれ違う「認識タグ」が存在します。これをヒトではHLA (Human Leucocyte Antigen、ヒト白血球型抗原)といって、第6染色体にある遺伝子によって多くが決められています。この遺伝子は遺伝的多型といって、人それぞれで少しずつ違います。HLAの遺伝子(染色体)は父親の半分と母親の半分から由来しているので、それぞれの親とは半分あって、半分は違うということになります。兄弟では4分の1の確率でとても良く合うか、全然合わないか、そして2分の1の確率で半分合うことになります(学生の時に習ったメンデルの法則です)。

HLA

そして配偶者間では基本的に他人同士が結婚しているのでHLAはほとんど合いません。HLAにはClassⅠのA、B、C、とClassⅡのDP、DQ、DRなど幾つかのサイトがあり、それぞれに何十種類の異形があるのでその組み合わせはとてつもなく多くなります。ただ、ヒトの祖先をたどっていくと1人の母親にたどり着くはずなので、非常に稀にHLAタイプが自分ととても合っている人がいることになります。移植の時に全てのHLAを調べることはできないのでHLAのA、BとDR(最近はDQも)だけを調べ、それがドナーとレシピエントの間でどの程度合っているかを見ています。もっとも、最近は免疫抑制療法が進んで、全く合っていない配偶者間の移植も問題なく行われます。しかし、HLAタイプが違えば違うほど「異物」としての認識が強くなり、それだけ移植腎への攻撃も強まるので長期成績は悪くなります(*1)


■急性拒絶反応と慢性拒絶反応

拒絶反応のしくみ

移植腎(異物)が移植された(体内に入ってきた)場合、リンパ球の一種であるTリンパ球(T細胞)が異物を検知し、攻撃を始めます。これが急性拒絶反応(急性T細胞関連型拒絶反応、ATMR)です。これを放っておくと移植腎は重大な障害を受け、機能を失います。
また、もしもレシピエントの血液内にドナーに特異的な抗体(タンパクの一種、DSA)がある場合、抗体が移植臓器に反応して激烈な拒絶を起こします。これが急性抗体関連型拒絶反応(AAMR)で、一旦起こると、現在移植臓器を救うことは出来ません。これを防ぐために移植前にクロスマッチ検査を行って抗体の有無を調べています。移植後は抗体関連型拒絶反応(AMR)が起きないように、そしてこのドナー特異的抗体(DSA)を作らないように免疫抑制療法を行いますが、あまり強い免疫抑制をすると感染症などの合併症を起こすので、この「さじ加減」が難しいのです。移植後しばらく経って免疫抑制の手綱を少し緩めたためにDSAができてしまうことがあり、この場合は慢性抗体関連型拒絶反応を起こし、移植腎組織が障害されるため、だんだんに移植腎機能が落ちてきてしまいます(*2)
現在DSAができて抗体関連拒絶反応を起こした場合の治療法は基本的にはありません。抗体除去や抗体を作るBリンパ球を抑える薬の投与などが試みられていますが、成績は必ずしも良いものではありません(*3)

腎移植後何年たっても免疫抑制療法を止めれば、その時点でレシピエントのTリンパ球が移植腎を異物と認めて攻撃を再開するので、この場合はT細胞関連型拒絶反応が起きます。ただ稀に異物の認識が甘くなることがあり(免疫寛容といいます)、この場合は免疫抑制療法をやめても拒絶が起きないのですが、起きてしまうと取り返しがつかないので、そのような危険なことはしません。

現在も移植腎機能喪失の主な原因は慢性拒絶反応です(*4)。拒絶反応を抑えるために免疫抑制薬の量をどんどん増やせばよいかというとそうではありません。前に述べたようにあまり強い免疫抑制をかけると細菌やウイルスなども受け入れてしまうため、感染症を起こし、命に関わります。
免疫抑制薬の副作用のために起きる代謝障害として高血圧、高血糖(糖尿病)、脂質異常症、高尿酸血症はいずれも腎臓に障害をきたし、放っておけば移植腎機能廃絶に繋がります。動脈硬化から心筋梗塞や脳出血を起こして、移植腎機能は問題ないのに死に至るような病気になる危険性もあります(Q&Aシリーズ③参照)。免疫抑制により発がんのリスクが高まるので、がんのために命を落とすことも、長期生着を妨げる要因になっていることは前のコラムでも述べました。

また、中にはもともと腎臓を悪くした原因が、再度移植腎を障害して機能低下を来すものがあります。例えば腎炎が移植腎に再発することがあり、巣状糸球体硬化症(FSGS)やIgA腎症などがあります。高血圧や糖尿病をきちんとコントロールしなければ腎硬化症や糖尿病性腎症を起こすので、腎機能喪失に至る危険性があることは既に述べました。また、普通では考えられないようなことですが、免疫抑制薬を服用しなくなって拒絶が起きることも実際はあります。夜、飲み会などで遅くなり、疲れて薬を飲み忘れ、「まあ、いいか。」が度重なると、気が付けば拒絶反応で移植腎機能低下、機能廃絶に、ということもあるのです。これは気を付けなければいけません。


■攻めの腎移植人生を送るために

残念ながら移植する腎臓はほとんどの場合1つです。本来2つあって機能している腎臓ですが、1つなのでどうしても負荷がかかり無理をしてしまします。腎機能がある程度下がるとさらに腎臓に負荷がかかり…という悪循環が始まってしまいます。移植腎の場合には、この1つの腎臓に拒絶反応、免疫抑制薬の副作用による代謝障害、感染症などの障害のリスクが加わるので、長期にわたる機能保持が難しいのが現状です。正常の腎臓も歳とともに機能が低下する(*5)ので、移植した腎臓の年齢が高い(ドナーの年齢が高い)場合も移植腎機能の長続きさせることが難しくなります。若い人には若い腎臓を、というエージマッチングの考えが腎移植ではありますが、ドナー(特に献腎ドナー)が著しく少ない日本では、この達成は難しいのです。
できればHLAタイプのできるだけ合った若い腎臓を移植したいと思いますが、それは難しいので、移植後は拒絶反応を起こさないように、かつ免疫抑制薬の副作用が少なく代謝障害やがんを回避する必要があります。そのためには患者さん自身も生活や食事に気をつけて、怠薬をしないでいただきたいと思います。もちろん新たなより良い生活のために腎移植をしたのですから、あれもダメ、これもダメとなんでも制限することはありませんが、賢くバランスを保って質の高い「攻めの腎移植人生」を送っていただきたいと思います。


*1 Clin Transpl. 1993:499-510. Effect of HLA matching on renal transplant survival. Zhou YC, Cecka JM.
*2 N Engl J Med. 2003 ;349(24) :2326-33. The natural history of chronic allograft nephropathy. Nankivell BJ1, Borrows RJ, et al
*3 Clin Transpl. 2011:359-64.Clinical significance of post kidney transplant de novo DSA in otherwise stable grafts. Cooper JE1, Gralla J, et al
Clin Transpl. 2011:351-8. De novo donor specific antibodies and patient outcomes in renal transplantation. DeVos JM1, Patel SJ, et al
*4 日本移植学会 2016 ファクトブック
*5 Wesson, Laurence G., 1917-2008. Physiology of the human kidney. New York, Grune & Stratton,1969




長期生着のために知っておくべきこと Q&Aシリーズ 掲載予定内容

① 移植腎はどのくらいもちますか?

② どうしたら移植腎を長持ちさせることができますか?

③ 腎移植を受けることでどのようなリスクがありますか?

④ 移植した腎臓の機能が長続きしないのはなぜ?

⑤ 移植後にかかる感染症にはどのようなものがありますか?<前編>(次回掲載予定)


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