移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第5回目は、移植後にかかることがある感染症についてです。<前編>移植前~移植手術時、<後編>移植手術後の2回に分けて解説していただきます。

Q5.移植後にかかる感染症にはどのようなものがありますか?<前編> 移植手術前~移植手術時

以前のコラムでもお話ししたように、腎移植では免疫抑制をする必要があるので、異物である細菌やウイルスを受け入れやすくなり、これらによる感染症が起きる可能性があります。感染症も決して侮れない合併症です。普通の風邪かと思って油断をしていると肺炎になってしまうなど、重篤な感染症に発展することも珍しくありません。
最近は免疫抑制療法が強力になり、拒絶反応が少なくなった代わりに感染症はむしろ増えているので、特に移植後半年程度は要注意です。2010~2014年の腎移植後レシピエントの死亡原因の内、感染症が17.7%と第1位になっています(*1)。感染症の原因としては、細菌、ウイルス、真菌(カビ)、その他があります。

■移植手術前
移植前から起きて問題になる感染症としては特に皮膚科、耳鼻科(副鼻腔炎など)、口腔外科(虫歯や歯周病)のものがあり、これらをきちんと治療しておく必要があります。またB型肝炎、C型肝炎ウイルスを持っている人は、治療のために肝臓内科を受診しておく必要があります。活動性の感染症がある場合は移植を延期し、治癒してからの移植(免疫抑制)が必要です。
また、ドナーから感染が持ち込まれてしまう事を防ぐ必要もあります。ドナーに活動性の感染症がある場合は移植を中止しなければなりませんし、ドナーが特定のウイルスを持っていてレシピエントにはない場合はリスクが高くなり、ウイルスの種類よっては移植の中止、あるいはワクチン接種によるリスク低減を行います。


■移植手術時
移植の手術そのものも感染の危険性があります。移植手術時には最も強い免疫抑制をしていますので、万が一手術室や手術器具が汚染されていれば(そのようなことがあってはならないですが)、感染が起きてしまいます。
慢性腎不全そのものも感染のリスクを高めますが、栄養状態が悪いことや糖尿病のコントロール不良、肥満などは感染症のリスクを高めます。最近は、fast-track surgeryあるいはERAS(Enhanced recovery after surgery)といって、手術の直前まで飲水をするなど、手術後の回復促進に役立つ各種のケアを、エビデンスに基づき統合的に周術期に導入して、感染症を防ぐ手法が出てきています(*2)

手術時にはカテーテルと言われる管が身体に挿入されますが、これらも感染を引き起こすリスクがあり、出来るだけ早くに抜去するようにしています。手術の創(きず)も感染を起こしやすい事は容易に想像できます。これらを手術創感染(SSI)といい、適切に管理することが重要です。
以前は術後に手術創を覆うガーゼを頻繁に変えて消毒をしていましたが、現在、それはむしろ感染のリスクを増強してしまうので、健康な皮膚が持っている自浄・治癒能力をできるだけ損なわないようにしています。手術創からの浸出液が無くなれば消毒を止めてシャワー浴を行うなど、以前ではちょっと考えられないような処置がなされますが、日本の水道水は清潔で殺菌力もあるので、この方が創の治りが良いのです(*3)。最近の免疫抑制薬には創の治りを遅くする作用があるものもあり、そのような薬を使用する場合は、投与開始時期を調整する必要があります。

*1 日本移植学会ファクトブック2016
*2 Clin Nutr.2006; 25(2): 224-44.
*3 日本手術医学会 手術医療の実践ガイドライン(改訂版、2013)