2017年4月21日から鹿児島市で4日間にわたり開催された、第105回日本泌尿器科学会総会の腎移植に関連するプログラムの内容についてレポートいたします。

第105回 日本泌尿器科学会総会報告 心技知の結集04
「高齢者腎移植の時代を迎えて-適応と実際-」
司会:東京女子医科大学 田邉一成先生、聖マリアンナ医科大学 力石達也先生

日本は世界でも突出した高齢社会を迎えています。我が国における腎移植患者さんの高齢化の問題について、4名の先生方が講演されました。

「高齢腎移植レシピエントの選択基準について」
秋田大学 斎藤満先生

秋田県は高齢化率が33%と国内第1位で、高齢者の移植に対する需要が高まってきているそうです。移植によって高齢者の心臓血管疾患が回避され、生命予後が改善する事実が示されています。腎移植の主目的であるQOL(生活の質)の改善も、透析からの解放や食事制限の軽減などが明らかに認められる一方で、高齢者では周術期の合併症による死亡率が上がることが知られており、その問題を改善する必要があります。
70歳以上のレシピエントの場合、移植後2年経過しないと透析と比較した移植後の生存率は改善しないため、その期間を乗り越えられるかが鍵になります。発がんのリスクも免疫抑制療法で上がることが知られています。
秋田県の65歳以上のレシピエントの検討では、ドナーはほぼ配偶者で、若年群との比較で大きな問題はなかったものの、ドナーも高齢になる傾向があり、その影響により、一般的には移植後の成績が悪いようです。高齢者の場合、移植後の血清クレアチニン値は若年者と比べて高くなります。ただ、移植せずに透析を継続した場合、生命予後が悪化するので、それを改善するために高齢者間の移植は是認されるとのことでした。
司会者から、年齢以外の判断材料としてどのようなものがあるかという問いがあり、活動性の指標であるパフォーマンスステイタス(寝たきりの状態になっていないかどうか)や見た目年齢、主治医判断が重要で、単純に年齢だけでは決められない要素があると回答されていました。司会者からは、心血管系疾患や糖尿病等の要因が大きい場合は移植後の成績が悪化することや、現時点でのレシピエントの移植年齢上限は75歳であろう、とのコメントがありました。


「高齢者ドナーの選択と問題点」
長崎大学 錦戸雅春先生

近年、夫婦間腎移植は増加しており、2015年の国内統計では、全国の生体腎移植件数の中で夫婦間腎移植が占める割合が第1位になっています。レシピエントが高齢の場合、ドナーとなりうる夫婦兄弟も自動的に高齢になります。子や献腎ドナーからの提供は倫理的問題、公平性の問題があります。
欧米では臓器不足を補うために高齢ドナーを増加させるという対策が取られていますが、ドナーの年齢が高いと移植成績が悪化するのは腎機能を考えると自明であるそうです。
一方、レシピエントが高齢になると、ドナーの年齢が高いことによる影響は少なくなるため、高齢者間の移植は比較的損失が少なくなる可能性があります。
ただし、わが国における高齢者のドナー手術は安全に施行されており、手術の重篤な合併症はごく少ないものの、思わぬ術後合併症で入院期間が延長することがあります。また、腎機能予後も注意が必要です。
QOLに関しては、高齢ドナーの術後回復状況は意外と良好で、これが高齢ドナー推奨の1つの根拠になりうるそうです。
夫から妻への移植では、妊娠出産に起因する抗ドナー抗体強陽性が問題点です。
子供から親への移植は倫理的な問題がありますが、患者さんの強い希望で十分な説明のもと移植を行う場合があるようです。
献腎移植で若いドナー腎が高齢者に移植される問題もあります。これを避けると高齢待機者が残されていき、なかなか移植されない、という問題もあるそうです。レシピエントの生命予後リスクを評価して臓器配分を行う米国でも、その問題がクローズアップされており、この問題を解決するためには高齢者間の移植を推奨していくことが必要であると結論されていました。


「高齢腎移植レシピエントに対する免疫抑制療法」
東京女子医科大学 石田英樹先生

近年、腎移植ばかりでなく透析も含めた腎代替療法を行う患者さんの高齢化、糖尿病性腎症や10年以上の透析期間を経過した長期透析症例が増加しています。高齢者において特徴的な問題点は、免疫応答の低下、感染症の増加、悪性腫瘍の発生率上昇、薬物代謝の低下があげられます。
高齢者の場合、移植後感染症は増加するものの、拒絶反応の頻度は変わらないようです。この要因としてMcKay Dらが2012年に報告した論文では、高齢者で制御性T細胞という移植腎を保護する働きのあるリンパ球の割合が増加していることが報告されています。
一方で、高齢者では獲得免疫の低下が顕著で、テロメア低下がT細胞反応性の低下につながっているようで、拒絶反応が少ないことを喜んでばかりはいられません。
また、薬剤除去能の低下があるため、免疫抑制剤のうち、タクロリムスなどのCNIは減量すべきですが、ミコフェノール酸モフェチルは若年者と同じ量で良いようです。
拒絶反応のリスクは高齢ドナーから若年レシピエントへの移植の組み合わせが最も高く、逆に若年者から高齢者への移植では低くなります。高齢ドナー組織は抗原が強く、その理由として、組織が損傷を受けると修復されにくいことがあげられます。
レシピエントが高齢の場合、CNIとステロイドは、蓄積・合併症の観点から減らすべきであり、欧米で用いられているベラタセプトや、わが国でも使用されるようになっているエベロリムスを活用することにより、他剤を減量する試みが行われています。
ドナーが高齢の場合は、腎臓の動脈硬化性変化が進んでいる可能性があり、血管障害の副作用のあるCNIをできるだけ減らしたいところです。同年齢群同士の移植を対照として成績を調べると、高齢者は生存率が悪くなります。その原因は、他の原因で生命予後悪化をきたす場合が多く、移植腎が機能していても亡くなるケースが多くなるからだそうです。高齢者が移植後に留意すべき病態としては、敗血症、肝機能障害、移植後発生糖尿病、悪性腫瘍、心疾患を挙げておられました。

※テロメア:真核生物(動物、植物、菌類、原生動物など)の染色体の末端部分にみられる塩基配列の反復構造のこと。テロメアの長さは老化や細胞のがん化とも密接な関係があるとされている。


「高齢者の術後合併症の管理」
大阪大学 市丸直嗣先生

人口ピラミッドの変化にともない増加する高齢者腎不全の特徴として、糖尿病性腎症、腎硬化症が原疾患として多くなることがあげられます。また、高齢腎不全患者では、認知障害、身体機能低下、骨粗鬆症が多く、フレイルが問題となります。
悪性腫瘍の頻度は多くなる一方、移植後スクリーニング検査で発見される場合は治療が奏功するため生存率が良いそうです。しかし、症状が出て発見・治療された方々の予後は悪いと述べられていました。早期発見のためにはスクリーニング、健康診断が重要ですが、胃カメラ、便検査、乳がん・子宮がんのチェックがなかなか浸透せず、受診しているレシピエントが少ないため、今後受診率をあげなければならないということでした。
フレイルの問題は、最近移植専門雑誌にこれまでの論文の総まとめが報告されておりますが、これまでの常識を覆す点として、フレイルは早く見つけて介入すると改善できるということがあげられます。転倒予防教室、栄養指導、運動習慣指導、透析患者対象プログラムを導入していくことが重要です。また、治療開始と同時に家族の支援、地域支援、在宅医療をあらかじめ進めておき、予防を先行させることがフレイルの治療に効果があるとのことでした。
司会者からは透析患者指導との関連性について具体例をあげて説明が求められていました。それに対する実際の方法が示されており、結果的に効率的な医療が期待できるということでした。

※フレイル:高齢者の身体機能や認知機能が低下して虚弱となった状態のこと。