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森田 研先生 コラム

2017年4月21日から鹿児島市で4日間にわたり開催された、第105回日本泌尿器科学会総会の腎移植に関連するプログラムの内容についてレポートいたします。


第105回 日本泌尿器科学会総会報告 Update企画03
「先行的腎移植Update」
司会:大塚台クリニック 高橋公太先生、秋田大学 佐藤滋先生


2017年4月21日夕方に行われた、第105回日本泌尿器科学会総会の先行的腎移植(透析を行わずに腎移植を先行すること)のプログラムについて報告いたします。高橋公太先生(大塚台クリニック)と佐藤滋先生(秋田大学)の司会で5名の講師が先行的腎移植の最新情報を報告しました。前編と後編に分けてレポートいたします。


「先行的腎移植(PEKT)overview」
市立釧路総合病院 森田研

欧米、国内を問わず全生体腎移植の2割以上を占めるようになった先行的腎移植(PEKT)は、腎代替療法(RRT:血液透析、腹膜透析、腎移植)を検討する際に最初に検討されるべき方法です。しかし、腎移植はRRTの中で最も適格条件が厳しいため、透析療法よりも選択頻度は低くなり、腎移植選択時のPEKTの割合より、全RRT選択時のPEKTの割合はさらに低くなっています。

腎不全治療においてPEKTが優れている理由の第一は、良好な生存率であり、その原因は透析期間の短縮による心血管系合併症の軽減です。PEKTを行う上で重要な点は、移植時期を適切に判断することであり、早すぎる実施はドナーへの影響や治療遵守性の低下が懸念され、生着率に悪影響を及ぼす可能性があります。適切な時期に行われるPEKTは生着率、生存率を改善するため、透析の準備を検討する時点で移植専門医への紹介を行うことが必要です。

日本は腎移植総数と臓器提供が欧米に比較して圧倒的に少ないため、PEKTについて欧米で議論されていることが、そのまま我が国に通用しないという問題があります。例として「透析治療開始前の先行的献腎移植登録の待機患者に優先点を付与することは、透析を受けながら献腎移植を待っている患者に更なる待期期間の延長を強いる」という論議は、提供が極端に少ない我が国ではさらに深刻な問題になります。

PEKTによって服薬不全の問題が多くなるかどうか、という問題についても検討しましたが、腎移植への道のりが厳しいほど、透析時代の辛い経験が多いほど、腎移植後の服薬・自己管理は良くなるとする研究は少数でした。
逆に、透析年数が長い患者さんの場合、外来予約日を守れないことが多いというケースもあります。移植でも透析でも、抑うつ傾向が服薬管理に影響を及ぼすことが多いため、透析治療経験の有無に関わらず、心理的サポートを重要視する論文もみられました。その他にも、仕事をしているかどうか、性別、教育水準なども検討にあがっておりますが、PEKTが直接、移植後の管理に悪影響を及ぼすという確証は得られませんでした。

最後に、北海道で実際に腎移植を検討していた成長期の若い女性で、腎疾患の初期治療が奏功したため、早期に検討を開始した腎移植が延期され、現在も腎機能が安定して経過している症例提示を行いました。腎機能が回復している場合、性急に腎移植を行わなくて済んだ症例でした。
会場からは「将来的に結婚や出産の時期を迎えた場合の対応はどのように考えているのか」など質問が出ました。結婚、妊娠・出産に関する対応は免疫抑制剤の変更なども必要になるため、移植前からの周到な準備が必要だと考えており、先行的腎移植の基準の策定が待たれるところです。


「PEKTの医療経済的問題」
大阪市立大学 内田潤次先生

PEKTは医療費の観点からも有益なはずですが、その実際の効果について講演されました。

現在、高齢者にかかる医療費のかなりの部分を透析医療の費用が占めており、国家財政に圧迫をきたしている状況のため、経済的な背景からも腎移植を推進する必要があります。
腎移植後、移植腎機能が安定してれば、透析を継続していた場合と比べて、生体腎移植では移植後20ヶ月、献腎移植では移植後28ヶ月で、透析を行うよりも累積医療費は安くなります。ただ、移植手術にまつわる費用がかかるため、初年度の医療費は生体腎移植で660万円、献腎移植で800万円という試算だそうです(地域・施設間格差あり)。

医学的には在宅透析の生命予後は献腎移植と同等で、生存率も腎移植に匹敵するものの、医療経済的には腎移植が勝っており、それは腹膜透析の場合も同様だそうです。こういった透析医療費の多くは、年々割合の高くなっている高齢者に大部分が費やされるため、高齢者に対して先行的腎移植を行う意義は高いと考えられます。
高齢者では術後合併症により医療費が増加するのではないか?という疑問がありますが、大阪市立大学の調査の結果では、平均額は高齢者の方が少なく、統計学的には差がなかったそうです。

厚生労働省から長期的な試算が出ておりますが、近い将来、65歳までの労働人口が、同数の高齢者を支える医療システムに移行するので、それを支える労働人口の相対的減少にどう対応するかが今後の課題です。新聞でも報じられているように、今後は高齢者の3割が就業して医療費の運営を助けていく必要があります。腎移植を行った方が、透析治療に必要な時間から解放されることで就業できるようになる可能性があるので、腎移植推進はこのバランスも改善させる効果があるということになります。
また、医療費削減とともに、収入を増やす方法、つまり税金を納付する人数を増加させる工夫が必要です。ちなみに、大阪市立大学の60歳以上の男性レシピエントの78%は、何らかの就労をしているそうです。


次回、「先行的腎移植Update」<後編> 第105回日本泌尿器科学会総会報告【3】をお届けします。


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