2018年4月18日~22日まで京都国際会議場で開催されました、第106回日本泌尿器科学会総会にて聴講した内容をレポート致します。

昨今、様々な分野に応用されている人工知能が、泌尿器科医療の分野にも押し寄せてきています。今回の学会の特別企画プログラムにも、「人工知能の未来と医療」というシンポジウムが組まれました。座長は九州大学名誉教授の内藤誠二先生(原三信病院)と奈良県立医科大学名誉教授の平尾佳彦先生(大阪暁明館病院)で、3名のArtificial Intelligence (AI)の専門家から話題提供を頂きました。テーマは人工知能をいかにして活用するか、ということで、
(1)医学研究での役割
(2)遺伝子・ゲノム医療における役割
(3)外科手術における役割
という順に講演されました。講演後に引き続き行われた教育プログラムも含め、4回に分けてレポート致します。

泌尿器科学会
第106回 日本泌尿器科学会総会 特別企画プログラム
「人工知能の未来と医療」
座長:九州大学 名誉教授 内藤誠二先生(原三信病院)、奈良県立医科大学 名誉教授 平尾佳彦先生(大阪暁明館病院)

「外科領域におけるAIの活用」
大平猛先生:大平研究所

大平先生は腹部外科医で、埼玉医科大学・自治医科大学・九州大学・神戸大学を経て九州大学先進医療イノベーションセンター大平開発チームで手術におけるAIの利用を研究しておられます。
冒頭、最近マスコミ等で、何でもかんでもAIと書けば注目されるので、単なるコンピュータ技術にもAIという言葉が間違って使われていることがあり、注意が必要だというお話しをされていました。
AIとは単純な出力機械ではなく、人間の知的活動の一部を代用する機能です。AIには、直接サポート型と間接サポート型があり、大平先生は過去の手術手技のデータの引用、外科的解剖学所見からの創造的手技の開発について、AIにサポートさせる方法を考えています。ここでも、膨大な情報量を処理させ、メガデータを踏まえた創造的結果を出力するにはどうしたら良いかという課題に取り組んでおられました。

外科医のサポートをする目的で、手術監視や指導的外科医の役割をロボットに行わせたり、麻酔や手術データの一部をロボットに管理させる、というアイデアが紹介されていました。また術後に残ったがん細胞が腹膜へ付着するのを防止するために、微小空気噴射装置を考案して、細かいバブルで細胞の接着を阻止する装置を用いた動物実験の様子をビデオで示されていました。
従来のように、そういった外科補助機械を人手で使用するのではなく、バブルをどこに噴射するかを4K画像で判断し、がんが怪しい場所を選ぶ人間の思考・分析を代用する試みが動物実験で行われており、この方法で洗浄する方が、従来の生理食塩水での洗浄に比較して、より短い時間で効果的に再発播種を予防できるそうです。
実際にこういったAIの機能を搭載して、肝臓の切断面からの出血を止めるための電気凝固システムが臨床応用されており、出血部位に接触する先端部位の電気抵抗を測定しつつ、凝固のパワーを自動調節する装置も開発されています。

さらに、現在臨床応用されている手術支援ロボットのように、手術中の操作をサポートするだけではなく、手術を行う外科医の作業を代行する助手ロボットを開発されておりました。手術中の外科医の業務のうち、手術機械の指示や輸血の指示を自動的に受けるAIや、手術助手として内視鏡や腹腔鏡を把持して外科医の声の指示で正確にカメラを動かすロボットの実験をビデオで示されていました。

それらのロボットの現状の問題点としては動作が遅いことで、それを改善しつつ端子コストを安くすることが今後の課題とのことです。
また、手術室ではロボットの他にも多くの電子情報が飛び交っているので、このようなサポートロボットを動かすために必要となるメガデータを手術室で通信する上で、手術機械がエラーを起こさないかということも検討しなければなりません。

サポートロボットの顔の部分には外科医の指示に対して表情が出るように工夫されており、そういった人間関係を調整するような機能も持たせたヒューマノイドロボットが、外科手術の現場にも応用されてくるかもしれません。
大平先生は医療分野の他にも、火星探査機や人工衛星「こうのとり」で宇宙空間で操作を行うロボットの開発協力もされているそうです。医療現場でも手術室以外に救急治療室や遠隔地での作業を代行することで、人型ロボットが人間の業務を一部補填する時代を模索されていました。