腎移植後はさまざまな要因によって糖尿病を発症しやすくなります。腎移植後に糖尿病を発症すると、発症していない人に比べて生命予後が悪く、心血管病のリスクがあがることが報告されています。また、糖尿病の発症により移植腎機能の早期悪化や移植腎喪失の可能性が高くなります。
移植腎を長持ちさせるためにも気を付けなければならない「腎移植後の糖尿病」について、東京女子医科大学病院 腎臓病総合医療センター 泌尿器科の奥見雅由先生にシリーズで解説していただきます。

5.腎移植後に糖尿病にならないためには

■PTDM(移植後糖尿病)の予防と治療

腎移植後早期は、現在の最小限の免疫抑制療法においてもCNIやステロイドの投与量が多く、周術期の侵襲のため高血糖を認めることが多いです。この時期は、最も確実かつ安全性が高いという観点から、インスリンの使用による管理を第一に考えます。もちろん、血糖管理が容易であれば、経口血糖降下薬への移行も可能です。退院後、さらに移植後数カ月後からは、生活習慣の改善によりインスリンを含む糖尿病治療薬を中止できる可能性が高いです。
つまり、生活習慣の改善を中心に行い、外来通院中に免疫抑制薬の最適化が行われれば、PTDMの自然軽快の可能性が十分にあるということです。しかし、生活習慣の改善は実際には非常に難しく、コーディネーター・看護師・栄養士・理学療法士などの多職種で取り込まなければいけない課題です。

さらに、移植後維持期となれば拒絶反応のリスクは軽減されるため、免疫抑制薬(CNIおよびステロイド)の調整も重要です。
PTDM発症を予防するために介入可能なものとしては、腎移植前からの既存要因として、肥満、運動不足、C型肝炎が挙げられ、腎移植に関連した要因として、先述のCNIおよびステロイド、さらに体重増加が挙げられます(1)
肥満に関しては、海外ではBMI30以上と分類されていますが、本邦では日本肥満学会の基準に従いBMI25以上と分類されています(2)。腎移植前の肥満は移植腎予後にも大きく関与していますが(3)、移植後も問題となり、移植後の脂質異常症、高血圧、PTDMの発症リスクを高め、ひいては移植後の心血管障害のリスクを高めると考えられます(4) (5)

■腎移植後の肥満予防の重要性
腎移植後は、肥満患者のみならずほとんどの患者において体重増加が見られるため、腎移植外来においては、毎回測定体重からBMIを評価することが重要です。私たちの研究においても、術前BMIを3群に分けて術後推移を検討しても、3群ともに腎移植後にBMIは上昇していました(3)
腎移植後に体重増加が5%以上であった場合は、移植腎廃絶のリスクが有意に高まったとの報告もあり(6)、一般的に、腎移植後の体重増加は5%以下に留めるように指導しています。

【文献】
[1] Pham PT, Pham PM, Pham SV, Pham PA, Pham PC. New onset diabetes after transplantation (NODAT): an overview. Diabetes, metabolic syndrome and obesity : targets and therapy. 2011; 4: 175-86.
[2] Examination Committee of Criteria for 'Obesity Disease' in J, Japan Society for the Study of O. New criteria for 'obesity disease' in Japan. Circulation journal : official journal of the Japanese Circulation Society. 2002; 66: 987-92.
[3] Okumi M, Unagami K, Tachibana H et al. Association between body mass index and outcomes in Japanese living kidney transplant recipients: The role of sex differences. Int J Urol. 2016; 23: 776-84.
[4] Kent PS. Issues of obesity in kidney transplantation. J Ren Nutr. 2007; 17: 107-13.
[5] Kidney Disease: Improving Global Outcomes Transplant Work G. KDIGO clinical practice guideline for the care of kidney transplant recipients. Am J Transplant. 2009; 9 Suppl 3: S1-155.
[6] Ducloux D, Kazory A, Simula-Faivre D, Chalopin JM. One-year post-transplant weight gain is a risk factor for graft loss. Am J Transplant. 2005; 5: 2922-8.