トップページ  >  移植コラム  >  ドクターコラム  >  「腎移植と抗体 臨床例から」 第48回 日本移植学会総会報告【1】

森田 研先生 コラム

 

 今回からシリーズで、2012年9月20日~22日に名古屋にて開催された、第48回日本移植学会総会での主な演題について、北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生にご紹介・ご解説頂きます。(文責:森田研先生)



 平成24年の日本移植学会総会は、藤田保健衛生大学医学部 腎泌尿器外科学講座教授 星長清隆会長により開催され、愛知県産業労働センター(名古屋、ウインクあいち)で9月20日(木)から22日(土)までの3日間の日程で行われました。
 会場はJR名古屋駅から徒歩で数分のオフィス街にあり、宿泊施設も多く、大変交通の便が良いため、北海道からの参加はとても助かりました。
 プログラムには工夫がされており、多くの興味深い企画を数多く聞く事ができましたので、これから腎移植を受ける方、受けた方や、腎移植医療に関わるスタッフにとって勉強になると思われた講演を中心に報告させていただきます。

 なお、報告内容は私個人が実際に聴講したり質問したりして得た内容であり、講演した方々が記載した内容ではありません。講演者の本意と外れることがあるかもしれません。内容に関する責任は一切、私にありますことを最初にお断りしておきます。

「腎移植と抗体 臨床例から」 【東京女子医科大学 泌尿器科学教室 田邉一成先生】

【講演内容解説】

 今回は移植学会ですので、心臓や肺、肝臓、小腸、膵臓、といった腎臓以外の多臓器移植の話題も多く報告されていますが、その中で一貫して言えるのは、「日本は欧米諸国に比較して臓器移植件数は少ないが、どの臓器の移植においても、その移植成績は欧米の成績をはるかに凌駕している」ということです。腎移植も例外ではなく、最近の生体腎移植後10年の生着率は90%を越えて来ており、これは米国の60%と比べると大変高い数字です。
その成績を支えている技術の一つに、慢性拒絶反応の制御があります。これはHLA抗原(ヒト白血球抗原)に対する抗体が関係する拒絶反応の制御と言い換えることができます。
 HLA抗原とは、白血球の血液型として発見されたもので、全身の細胞表面に現れる個人識別記号のようなものです。ABO式血液型とは比べ物にならないほどの組み合わせ(数万通り以上)があり、一卵性双生児以外は一致することは殆ど無く、このHLA抗原の違いにより急性、慢性拒絶反応が起こります。
 もともと日本では献腎ドナーが少ないので、生体間の血液型不適合腎移植を成功させる技術が進んでいましたが、この技術が抗HLA抗体(HLA抗原の違いにより、臓器を異物と認識することにより作られる抗体)の壁を越えるための技術に直接応用されています。その具体的な内容と最新情報について、田邉先生が詳細に解説されました。

 患者さんの中には、輸血や妊娠、移植歴などにより、他人のHLA抗原が身体に入ることによって、抗HLA抗体が出来てしまっている方がいらっしゃいます。輸血、妊娠、移植など、他人の細胞が身体に入る可能性のある経験をしていない方は、このような抗HLA抗体は出来ていないことが多いですが、一度受けた移植の後に、抗体を作る働きを抑える免疫抑制剤が不足していたりすると出来てしまうことがあります。
 このような抗ドナー抗体を持っている場合に、術前処置(リツキサンの投与や、血漿交換)を行うことによって、移植腎予後は改善することが判っています。その理由は術前処置によって抗HLA抗体がドナー抗原に反応して起こる抗体関連拒絶反応が減ることのみならず、通常の急性拒絶反応(T細胞性拒絶)も減るからです。
 つまり、血液型不適合腎移植の際、リツキサンを投与して抗体を作るB細胞を減らしてやることで、血液型が違うことにより起こる拒絶反応のみならず、一般的なT細胞性拒絶反応の発症率が激減することが示されています。
 やっかいなのは、最初からこういった抗ドナー抗体がある場合だけでなく、最初は抗体が無かったのに、移植後に形成されてくる場合が実に15%もあるということで、抗体形成を防ぐために、米国では昨年日本でも使用可能になったサイモグロブリンというウサギ抗体の拒絶反応治療薬を、全ての腎移植患者さんに最初から投与する、ということが行われるようになってきています。
 血液型不適合腎移植の場合は、リツキサンを投与し、免疫抑制剤を強めて抗体の産生力を下げることにより、上記のような移植後に形成されてくる抗ドナー抗体の出現が抑えられ、結果として移植後の成績もよくなるのではないか、ということでした。

 腎移植を行う際には、この抗ドナー抗体があるかどうかを予め知る為に、補体依存性リンパ球クロスマッチテストという基本的な検査が行われ、これが陰性であることが最低条件ですが、陰性だったとしても細かな抗体反応があることがあります。
 米国において、これらの抗体陽性の腎移植を多く行っている施設では、血漿交換が重視されていますが、東京女子医大泌尿器科では、腎移植前に高い抗体価を示す患者さんには、術前にリツキサン投与に加えて、大量ガンマグロブリン療法(抗体を血液製剤で大量に補充する治療法)を併用することで、腎移植成績を格段に改善させる試みを行っているということでした。

 今後も、日本に特有な腎移植方法である、血液型不適合腎移植の技術を応用した腎移植成績の改善が更に進む可能性があります。


 解説・文責:北海道大学病院 泌尿器科 森田 研 先生

お気に入り記事に登録

森田 研先生 過去のコラム

この記事を見た人が読んでいるのは