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森田 研先生 コラム

 2012年9月20日~22日に名古屋にて開催された、第48回日本移植学会総会での主な演題について、北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生にご紹介・ご解説頂くシリーズの第4回目です。(文責:森田研先生)



「CTS collaborative Transplant Study (TTS partnership)」 【ドイツ・ハイデルベルグ大学移植免疫学教室 Gerhard Opelz 教授】

【講演内容解説】

 CTS(Collaborative Transplant Study)とは、世界各国の移植センターが共同で行った研究結果のデータベースです。腎移植のデータベースとして世界最大のこのCTSのデータについて、判りやすくご解説いただきました。

 ある特定の治療法を行う場合と、行わない場合のどちらが効果的かをランダムに選択して調べる研究をランダム化試験と言いますが、それらによって得られた科学的データを横断的に集計することを「メタアナリシス」と呼び、最も信頼性の高い治療法選択指標とされています。

 CTSのような多数の施設から集められた臨床統計(Registry)は、個々の施設間格差や、パブリケイションバイアス(良い結果しか論文に発表されないことによる悪影響)を排除できる可能性があり、その結果が大変期待されます。つまり、多数の施設、病院からの生データは、成功例と不成功例がきちんと平等に評価されており、何が良くて何が悪かったかをより忠実に判断できるということです。

 Opelz先生が主催するCTSは、統計登録用のソフトウエアが無償で提供されており、日本からも登録ソフトウエアで参加できるデータベースです。免疫抑制剤の種類別に、どれぐらい移植後の成績や合併症発生頻度が変わるか、治療法別の成功率の比較、感染症対策の治療法別成績、レシピエントやドナーの条件別の成功率、などがたくさんのスライドで紹介されました。

 その中のいくつかをご紹介いたしますと、今回の移植学会の他の講演でも論議されていた、同じTリンパ球抗体製剤である、「サイモグロブリン」と、日本でも2002年から使用実績のある「シムレクト」の、いずれかを移植時に投与した場合、拒絶反応を抑制する効果はどちらが高いのか?ということについては、6年の経過観察で差は無かったようです。
 今年から日本でも使用可能になったエベロリムスは、移植後の発癌を抑制する効果があるとされていますが、皮膚がん以外の癌抑制効果はまだ大きな差は出ていませんでした。皮膚がんで、悪性黒色腫以外のものはエベロリムスが有効というお話でした。ここにも人種差がありますが、CTSのデータは人種の差も包括しており、このことも利点です。
 シクロスポリンやタクロリムス(カルシニューリン阻害薬)は、長期使用した場合腎毒性があるので、中止するのが良いのか、減量で良いのか、という論議に関しては、CTSのデータでは差がありませんでした。
 感染症では、サイトメガロウイルスに対して抗体が形成されていないレシピエントで、移植後に予防投与をするかしないかが日本でも論議されています。CTSの統計では、世界的には90%の移植で予防投与が行われており、サイトメガロウイルス感染による死亡率を低下させる効果が明らかになっていました。
 小児腎移植のデータも豊富に集積されており、小児では成人と異なり、HLAの適合度はDRミスマッチが成績に影響するという結果でした。

 腎移植後成績が向上するにつれ、移植後長期間安定する患者さんが増加してきましたので、中には寿命を全うされる方も出て来ています。しかし、不幸にして、移植腎機能は問題が無いのに他の原因で亡くなってしまうレシピエントの疾患として多いのは(注意すべき疾患ということになります)、移植後1年以内は感染症、移植後5年以降になると心臓疾患と悪性腫瘍、ということになっていました。感染症のリスクは、HLAの適合度が悪くなる程高くなってくることが示されておりました。

 また最近、移植後の喫煙が、移植後成績や生存率に悪影響を与えることが明らかになってきていますが、CTSのデータによると喫煙とともに肺癌の危険因子になりうる要素として、高血圧の薬の一種(アンギオテンシン変換酵素阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬)も影響するというデータがあり、これについてはなぜそうなるのか、統計データからは説明がつきませんでした。移植を受けていない方においては、これら高血圧の薬が肺癌の危険性を高めるというデータは一切出ていませんので、移植を行ったことが影響しているのか、または免疫抑制剤を内服していることと関連があるのか、その理由については不明であり、今後の研究の題材にすべきことかもしれません。

 一方、統計学的なデータは結果の全てが必ずしも正しいと言えない場合もあります。例えば、先の喫煙と血圧の薬の関係にしても、「喫煙する上に、特定の降圧剤を内服することが薬の作用として悪影響をもたらすのか」或は、「喫煙の上に、降圧剤を内服するような高血圧があるという状態そのものが悪影響をもたらすのか」は実際調べてみないとわからないことであるため、こういった統計学的なデータから多くの疑問が沸き、それが臨床研究の基になって、その研究の結果、大きな発見をもたらし、移植技術が発展するということになる場合もあると思われます。そういう意味で色々と考えさせられる講演でありました。


 解説・文責:北海道大学病院 泌尿器科 森田 研 先生

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