トップページ  >  移植コラム  >  ドクターコラム  >  「免疫抑制剤を使わない腎移植」 腎移植に対する患者さんの誤解 その10

原田 浩先生 コラム

前回はドナーになれる医学的な条件について触れました。年度も変わりましたので、少し脱線して夢のある話をしたいと思います。

以前の拒絶反応のコラムをご参照下さい。『 「拒絶反応」腎移植に対する患者さんの誤解 その4 』
他人の臓器が拒絶される仕組みは、抗原提示細胞(APC)が自分か自分でないかを認識して、自分のものではない細胞を壊すことから始まります。ここで、各々のリンパ球の集団は攻撃する対象が決まっています。いろいろな分子が攻撃対象となりますが、自分の組織と反応してしまうリンパ球も作られます。しかし自分に有害なリンパ球は増殖する前に排除されてしまいます。一方、異物を積極的に処理するリンパ球はそこで取り上げられ増幅する運命が与えられます。

さて、移植における拒絶反応においては、ヒト白血球抗原HLAが重要であることを以前お話ししました。このリンパ球の選択(教育)を行っているのが胸腺です。胸腺は胸に真ん中にある胸骨の裏に存在する臓器です。なお、Tリンパ球の “T”は胸腺Thymusの頭文字が付けられています。以下のサイトがとても分かりやすいと思いますので、ご参照下さい。
『 免疫とアレルギー「胸腺の働き」:科学技術振興機構 』

 


↑(図1)クリックすると大きい画像が出ます

つまりそこで、もし大量に非自己の細胞が存在すると、その細胞も攻撃対象としない、とプログラムされます(図1)。これを利用しアメリカでは胸腺におけるドナー反応性Tリンパ球の除去を機序とするキメリズム作成を目指した方法で、ドナー特異的な免疫寛容導入の成功例が報告されています。
具体的にはどうすれば良いのでしょうか。まずレシピエントの成熟T リンパ球を除去した後に、ドナーの血液幹細胞を注入します。これによりドナーとレシピエントの両者の血液幹細胞が生着します。よって、情報を伝える抗原提示細胞は両者のものが放出されます。胸腺にやってきた抗原提示細胞は両者のものが存在し、両者に反応するT リンパ球は排除されます。よって、その後に臓器移植をしても、拒絶反応が起こらないとする理論です。



↑(図3)クリックすると大きい画像が出ます

実際には、骨髄細胞を除去する措置や、一時的には免疫抑制剤が必要ですが、経過の途中で免疫抑制剤の中止が可能となっている症例もかなりあります。もう少し詳しく読みたい方は、北海道大学大学院生の佐々木元先生がまとめてくれましたので、ご参照下さい(図3)。



↑(図2)クリックすると大きい画像が出ます

また、別の方法で免疫抑制剤を中止する北海道大学第一外科での試みが2013年3月2日の朝日新聞の1面に掲載されておりました。『 拒絶反応 薬飲まず抑制 ~肝移植、白血球を操作~ 朝日新聞 2013年3月2日 』
これは上記の方法とは異なり、ドナーのリンパ球とレシピエントのリンパ球を体の外で混ぜて反応させるときに、リンパ球に不完全な信号となるような抗体を混ぜることで、不完全に反応したリンパ球が、あたかもドナーのリンパ球に無反応となる仕組みを利用したものです。この無反応Tリンパ球を移植後2週間でレシピエントに戻すというものです。その後に段階的に免疫抑制剤を減らすというものです。腎臓では中々難しいのですが、肝臓は寛容になりやすく、成功例が5月のアメリカ移植会議で報告されるとのことです(図2)。


少し難しい話になってしまいましたが、これらはまだまだ、大変な操作が必要で、100人中100人が免疫抑制剤を飲まなくて良くなる訳ではありません。少なくとも、普通に移植をされた皆さんは、免疫抑制剤を中止できることはないので、しっかりと免疫抑制剤を服用して下さい。

さて、次回は腎機能の指標GFRについて触れたいと思います。

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