2013年4月25日~28日に札幌市にて開催された、第101回日本泌尿器科学会総会での主な演題について、北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 講師 森田研先生にご紹介・ご解説頂くシリーズの第5回目です。



2013年4月25日(木)から4日間、札幌市で行われました上記学会で腎移植に関係した講演を聴講致しました。各部門の専門家を招いて行われた企画講演(特別講演やシンポジウムなど)を今回ご紹介致します。毎度のことながら、内容についての解釈や文責は私にあります。事実と違う点がございましたらご容赦下さい。

新臓器移植法下献腎移植の実際

平成22年7月に改正臓器移植法が施行されて2年が経過し、脳死下臓器提供は増加しており、泌尿器科の医師が果たすべき役割も変わってきています。脳死ドナーの管理や摘出手術、腎臓の配分に関する特殊な問題や新しい問題について、聖マリアンナ医科大学の力石辰也教授と東邦大学医学部腎臓学講座の相川厚教授が司会を行い、4名の専門家から新しい腎移植希望者選択基準、脳死下献腎単独摘出法、献腎移植の手術法、小児ドナー腎の適応、について説明があり、会場からの意見も含めた討論が行われました。

腎移植希望者選択基準の改訂経緯(国立病院機構水戸医療センター 湯沢 賢治先生)

「臓器の移植に関する法律の運用に関する指針に関する作業班」では、改正臓器移植法の施行に伴い、意思表示、普及啓発、臓器別指針、などの基準作成班がつくられ、湯沢先生を始めとする7人の作業班メンバーで親族優先提供、ドナー適応基準の見直し、レシピエント選択基準の見直しが行われました。つまり、脳死ドナーの基準や、どうやって献腎移植の配分が決められるか、などについて現実に合った改訂が行われました。親族優先はレシピエント選択の第一条件とされ、それは膵腎同時の適用よりも優先されました。
また、HLA適合度、小児優先点数、地域点数などの様々な点数で計算される腎移植順位計算法が変更され、20歳未満の若年者が優先的に腎移植を受けられるように改訂されました。さらにこれらの基準は毎年改訂を継続される予定で、例えば膵腎同時移植が腎単独移植よりも優先されるために起こる腎の配分確率低下についても今年から新たな配分ルールが適用される予定となっています。

脳死下献腎単独摘出法(東邦大学医学部腎臓学講座 相川 厚先生)

脳死下多臓器摘出手術では、心臓、肺、肝臓、膵臓などがまず脳死ドナーから摘出されて、その後に最も身体の後ろ側にある腎臓が摘出されるため、腎移植医は胸部外科、腹部外科の医師の摘出作業の最後に腎臓を摘出して、左右に分離して血液を洗い流し、搬送するという役割を担って来ました。
しかし、今後、少ない確率ながらも、ドナーの希望や内臓の状態によって、脳死下で腎臓だけを摘出するという場面があり得ることになりました(折しも、関東地方で実際に脳死ドナーから腎臓ひとつだけが提供される、ということが学会開催期間中にありました)。その場合は、単独で脳死ドナーの摘出手術管理を行う必要が生ずるために、今までの心停止下腎摘出手術とは若干異なる技術的な注意点が必要となります。
心臓停止後の腎摘出手術では、腎臓の血流が止まるため迅速性が要求されますが、血管からの出血に対する処置は省略できます。一方、脳死下では、腎臓の血流が保たれた状態で手術をするため時間的余裕がありますが、丁寧な血管結紮で出血を防止しつつ行う必要があります。

献腎移植の術式とその注意点(北里大学医学部泌尿器科 吉田 一成先生)

日本の献腎移植は、法案改正後も長期間の待機の場合が多く、他の国ではあり得ないような透析20年以上の方々への移植という特殊性があります。欧米では通常は数年間の待機期間で移植が可能になっているのですが、我が国では長期透析による影響を考慮する必要があります。
透析が長くなると、移植後の腎機能発現が動脈硬化などにより遅れたり、尿管や膀胱が長期間使われずに萎縮してしまう問題、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)の増加、透析骨症の合併、二次性副甲状腺機能亢進症、発癌や低栄養の問題などが合併症として影響してきます。
例えば、動脈硬化などで狭心症があり、心臓に血液が十分供給されないため心臓の栄養血管である冠動脈にステント手術を受けられているような場合、心臓の血栓予防のために抗血小板剤を継続して内服する必要がある方がいらっしゃいます。そのような方に献腎移植を緊急手術として行うことになれば、手術中に出血が多くなるため、その対策をどう行うかが大問題となります。具体的には出血を少なくするために組織切断面を凝固して切断するよう工夫された機械を用いるか、抗血小板剤の対応を考えるなどの対策が必要ですし、これらの合併症の数が多くて重い場合は、腎移植手術自体が危険な賭けになる可能性も考えなくてはなりません。長期透析になると高齢になってくる方が増えますので、腎移植登録の継続についてもよく考えていく必要があり、毎年の定期通院で合併症の状態を細かくチェックして、移植の機会を若い方々に譲るお気持ちがあるかどうか、などの相談をしっかりしていく必要を感じました。

その他には、長期透析中に起こってくる問題として高血圧や動脈硬化の問題がある反面、低血圧では移植後の腎血流維持が困難になる場合があり、そのような時には移植後に血圧を高めに維持するという、一見通常とは逆の対策を要することになります。また長期透析後の腎移植に特有な手術テクニックのコツなどについて紹介され、質疑応答が行われました。

小児ドナー腎の適応と移植術式(富山県立中央病院 瀬戸 親先生)

最近の脳死臓器提供で新聞報道された、小児から成人への移植の実際を中心に、小児で腎臓が小さいドナーからの提供で行われる腎移植の特徴について講演が行われました。
ドナーの体重が15kg以下の場合は腎臓や腎の血管がとても小さく細かいために、腎移植後6ヶ月までの早期には、血管径のトラブルによる合併症で腎血栓症などが多いため、腎移植後成績を向上させるためには1個ずつ別々に移植するよりも大動脈、大静脈と両方の腎臓が繋がったままの状態で、これら大血管ごと成人の骨盤に移植する方が、6ヶ月以上の長期成績は良好であることが示されました。
実際に富山県で行われた小児提供による移植では、6歳の小児腎が2つとも60才代のレシピエントに同時移植されました。これについては、ドナーのご家族からも、小児の腎臓を小児に提供して、長い寿命に生かして欲しかった、という希望があったようですし、マスコミでもこの問題は大きく取り上げられました。しかし、腎臓を別々にして、適合レシピエントの範囲を全国に拡げて対象患者を調査したとしても、両方とも別々に体格的に適合する小児が見つかるとは限りません。また上記のように、小児の大血管自体が細いため、別々にすると腎臓の動脈、静脈はさらに細くなってしまうために一個単位にすることで成績が悪くなってしまう場合が多いようです。これについては欧米にたくさんの移植を集めた検討があり、瀬戸先生から紹介がありましたが、小児ドナーの体重が20kg以上あれば、別々に移植しても成績は良好である一方、やはり15kg以下の小児では2つの腎臓が繋がったまま、大血管で移植して血管吻合を行った方がうまく行くようでした。

また、小児では、体格が小さいために肝臓や腸の動脈と腎動脈の場所が近いので提供される臓器を分離・切断する時に血管を損傷する危険性が高くなります。また移植後に小児の腎臓は血管とともに成長を続けるため、成長して大きくなっても問題が起こらないような手術技術、縫合技術が要求されると司会の相川先生からコメントがありました。
小児臓器の配分ルールは、現時点では成人の場合と同様の腎臓斡旋規則がありますので地域外に腎臓が移動されることはほぼあり得ませんが、これも今後の基準検討委員会で継続して審議することと、根本的な改善策としてはやはり腎臓提供自体を増やして行く努力をしていくことが重要であると再認識しました。

解説・文責:北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生