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若井 幸子先生 コラム

1. 蛋白尿の分類:

教科書的には(Wikipediaより)
①生理的タンパク尿
生理的タンパク尿は病的でない健常者に見られるタンパク尿。
②体位性タンパク尿
体位性タンパク尿は、脊柱の前彎などにより腎静脈が圧迫され腎うっ血が惹起されて生じる、病的でない健常者に見られるタンパク尿。
③運動性タンパク尿
運動性タンパク尿は運動によって病的でない健常者に見られるタンパク尿。
④病的タンパク尿
病的タンパク尿はなんらかの病気によって見られるタンパク尿。

と、分類されていますが、本当に正常でも、蛋白尿は出るのでしょうか?
例えば、腎炎病気の初期、治癒過程など活動性の低い時期には、間欠的蛋白尿であり、体位性や運動性によって、蛋白尿が出たり出なかったりすることがあります。腎炎の診断がついた方にも、何十年も前から、間欠的な蛋白尿の指摘を受けていた方もいらっしゃいます。生理的、体位性、運動性の蛋白尿を認められたときは、継続的な経過観察が必要と考えます。すぐに腎機能が低下するようなことはありませんが、正常とは言い切れません。

さて、蛋白尿はどこから出てくるのでしょうか?
蛋白尿は腎前性、腎性、腎後性に分けて考えられます。

①腎前性タンパク尿
分子量10,000以下のタンパクは糸球体毛細管壁を通過するが尿細管で再吸収されます。しかし、このような低分子量タンパクが過剰に産生され、尿細管の再吸収能力を超えるとタンパク尿が生じます。これを腎前性タンパク尿といいます。

②腎性タンパク尿
腎臓の糸球体は血液を濾過する際に、血中のタンパク質を尿へ排泄しないようにフィルターとして働いています。しかしこの機能が破綻することにより、尿中へタンパクを多く排泄するようになります。
ⅰ)糸球体性タンパク尿
基底膜の小孔のサイズと糖タンパクの膜の陰性荷電により高分子量タンパクは糸球体毛細管壁を通過しにくくなっていますが、糸球体腎炎などではその構造と機能が変化して糸球体を高分子量タンパクが通過しやすくなり、糸球体性タンパク尿を生じます。アルブミン主体の高分子量タンパクが大部分を占めます。
ⅱ)尿細管性タンパク尿
低分子量タンパクは糸球体を容易に通過するが近位尿細管で再吸収されます。しかし尿細管が障害されると低分子量タンパクが再吸収されず、尿細管性タンパク尿を生じます。

③腎後性タンパク尿
尿路(尿管・膀胱・尿道)のいずれかの炎症、腫瘍、結石などで尿にタンパクが混入するものです。


腎機能を脅かす可能性があり、留意しなければならないのは、糸球体や尿細管を障害する腎性蛋白尿です。


2. 蛋白尿の機序

 

腎性特に糸球体性タンパク尿の機序について、従来からの基底膜機能のみならず、近年スリット膜の分子レベルの解析がなされています。糸球体における蛋白の濾過は、糸球体の基底膜と上皮細胞のスリット膜の構造因子に制御されています。基底膜はサイズバリアー機能 陰性チャージバリアー機能を合わせ持ち、スリット膜は糸球体上皮細胞の足突起により得られるバリアー機能を有しています。
糸球体毛細血管の損傷や、再吸収障害となった尿細管によって蛋白尿が出現します。


↑(図)クリックすると大きい画像が出ます

<図説>
糸球体を構成する毛細血管は、内皮細胞、基底膜、上皮細胞からできています。
正常では、基底膜、上皮細胞には、蛋白質を透過させないためのサイズバリアーとチャージバリアーを有しています。
上皮細胞間にはスリット膜があり、スリット膜を構成するポドシン、ネフリンなどの分子レベルの構造が明らかになってきています。
上皮細胞、スリット膜、基底膜の構造変化によって、蛋白尿が透過する機序が徐々に解明されています。


Triggvason K, et al : Hereditary proteinuria syndromes and mechanisms of proteinuria.
N Engl J Med 354 : 1387―1401, 2006.  改変引用



3. 移植後蛋白尿を臨床的にどう診断、治療していくか

蛋白尿のサイズ・頻度・持続期間・一日量、腎機能、尿細管マーカー、臨床経過、病歴などから総合的な判断が必要となります。

① 原疾患再燃
・腎炎の中には巣状分節性糸球体硬化症のように、移植後数日で大量の蛋白尿が出現することもあります。原疾患が不明で、移植後に初めて診断がつくこともあります。
・持続的な蛋白尿が出現するときは原疾患再燃の可能性があるので、腎生検で確認します。
・拒絶を抑える免疫抑制剤を服用しているのもかかわらず再燃してくるのですから、なかなか厄介です。
・腎炎に対する免疫学的治療(移植後の免疫抑制剤治療+α)を行います。
・原疾患が糖尿病性腎症の場合は、CKD治療をします。

② CKD:慢性腎臓病
・CKDとは、すべての腎臓疾患を総称していますが、狭義的には、直接的な腎疾患(腎炎など)ではなく、全身の動脈硬化性病変の一部分症としての腎臓機能障害(GFR<60ml/min)となった状態を指します。初期では、蛋白尿は微量であり、微量アルブミン尿でないと検出できない程度です。
・高血圧、高脂血症、高尿酸血症、糖尿病に対する治療、食事療法が中心となります。
・糸球体の数が減って、GFRが低下してくると、残った糸球体が頑張って、過剰濾過をしている状態となり、蛋白尿が漏れ出てきます。漏れ出てきた蛋白尿を尿細管で再吸収することによって、尿細管が障害を受けると、後は原疾患にかかわらず同じような経路で腎機能低下が起こると考えられています。
・蛋白尿は腎炎の活動性の指標ですが、血管の傷みや古傷の病変からも漏れ出てきます。新しい活動性の病変から出ているものは、治療に反応して減少、消失する可能性があります。また、わずかな血管の傷みから出ているものは、食事やレニン・アンジオテンシン系降圧剤(ACE阻害剤;アンジオテンシン変換酵素阻害剤、ARB;アンジオテンシンII受容体拮抗薬)によって過剰濾過を防ぐことで、減少、消失が期待できます。しかし修復不能な古傷から出てくるものはなかなか消すことはできません。

③ 感染
感染症による一時的なものであり、抗生剤などで治療します。

④ 腎拒絶反応
一般的に拒絶反応では尿蛋白は出てきませんので、定期的な腎生検が必要となります。糸球体に病変が及んでくると蛋白尿も出現してきます。


4. 腎臓内科との併診

蛋白尿のことは腎臓内科が専門となりますので、蛋白尿が持続する場合は、移植医のみではなく、腎臓内科医との併診が望ましいのではないでしょうか?
食事指導など細かい対応ができると思います。


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