Chapter4 災害に強い腎移植医療

先日の熊本地震では、こちらの病院もさまざまな対応に追われ、大変な状況だったと思われますが、通常の診療体制に戻るまでにはどのくらいの時間を要しましたか。

日高先生
地震発生から3、4日は災害対応でしたので、通常の外来診療は全面ストップという状態でした。1週間後くらいからは、通常の外来ができるようになっていたと思います。

腎移植患者さんが困ったことはありましたか。

日高先生
ほとんどの方は問題なかったのですが、遠方にお住まいの方で、交通事情で来院できない方などは、県外の施設を受診していただきました。また命からがら逃げだしたので、薬が無くなってしまったという方も数名いらっしゃいました。

震災を経験されて、移植医療に対する捉え方は変わりましたか。

日高先生
透析患者さんの中には、しばらくの間は十分な透析が出来なかった方もおり、中には高カリウム血症になって運ばれてきた方もいらっしゃいました。
反面、移植患者さんは免疫抑制薬さえきちんと飲んでいれば、慢性期の安定した患者さんと変わりません。「移植医療は災害に強い医療」だと改めて感じました。実際、「移植していてよかった」という腎移植者の声も多かったですね。

こちらの病院の透析施設は、どのくらいで復旧したのですか。

上木原先生

上木原先生
震災後、自衛隊がピストン輸送で病院に水を運んでくれたのですが、まずは救急病院としての機能を維持するために水が必要でしたので、透析のために水が使えるようになるには10日くらいかかりました。そのため、透析患者さんには大変申し訳なかったのですが、別の病院に行っていただくなど、ご協力をいただきました。

今回の震災を経て、全国の移植患者さんにお伝えしたいことはありますか。

日高先生
腎移植患者さんには、免疫抑制薬を中心とした薬を常に1週間分は持っていてほしいと思います。1週間あれば、通院先の病院が機能していなくても、別の病院に行くこともできます。枕元には常に薬を置いておいて、何かあったらそれを持って逃げ出すようにしてください。
また、今回、震度7の地震を2回経験して、私自身も先がどうなるのか予測ができない状況下で、救急医療、災害医療を行いながら、移植患者さんの対応も行っていました。そのため、当院でフォローアップしている移植患者さん全員に安否の確認はできませんでしたので、今後は緊急事態における連絡体制や、対応方法などを移植チームとして考えていかなければならないと思っています。また、全国的な移植患者さんの災害時のネットワークもあった方がいいと感じています。今後学会などでも、今回の地震の対応を通して学んだことなどを発表していく予定です。