愛知医科大学病院では2012年4月、現在の腎移植外科の前身である臓器移植外科が設立され、同年7月より腎移植手術が開始されました。この4年間ですでに約120件の腎移植手術が行われています。
また、2016年7月からは、腎臓専門医(内科、小児科)、透析専門医、腎移植専門医、泌尿器科専門医、看護師、臨床工学技士、栄養士、レシピエント移植コーディネーター、腎疾患・移植免疫学に関する研究者など各分野のスペシャリストによって構成される「総合腎臓病センター」が新設され、腎臓病の早期発見・診断・治療から、腎不全進展の抑制、腎不全合併症の予防・治療、適切な腎代替療法の選択、質の高い腎移植医療が提供されています。
2015年4月より腎移植外科の教授に就任された小林孝彰先生に、愛知医科大学病院における腎移植医療への取組みと今後の展開についてお聞きしました。

Chapter1 愛知医科大学病院における腎移植医療について

愛知医科大学病院で腎移植が開始されてから、約4年半が経ちますが、現在は年間どのくらいの移植手術が行われているのですか。

年間25~30件の腎移植手術を行っています。将来的には年間50件くらいできる体制を整えていきたいと考えています。

患者さんはどのようなところから来られていますか。

当科では、愛知県をはじめ、中部地方、九州地方を含めた多くの透析施設と連携し、患者さんを受け入れています。また、以前から当科の医師が、近隣の腎臓内科がある施設に外来枠をもつという取組みも行っています。外来枠をもつことによって、その病院の医師も患者さんも腎移植について気軽に相談してくれるようになりますし、患者さんが腎移植に興味を持った場合も、当科の外来受診までスムーズに進めることができます。

CKD患者さんが腎代替療法(血液透析、腹膜透析、腎移植)を選択する上で大切なことはどのようなことでしょうか。

まず大事なのは、血液透析、腹膜透析、腎移植の3つの治療法について詳しく話を聞くことができる施設で、それぞれの治療法についてしっかりと説明を受け、よく理解した上で治療選択をすることです。
もう1つの大事なポイントは、家族で考えるということです。腎代替療法の選択は、患者さんのご家族の生活にも大きく影響します。そのため、患者さんご本人と同時に、ご家族も正確な情報を得ることが大切です。

患者さんだけでなく、家族皆で考えてほしいということですね。

そうですね。3つの治療法について詳しく話を聞いて、家族皆で話し合い、ご自身やご家族のライフスタイルに合った腎代替療法を選択してほしいと思います。

こちらの病院には腎代替療法の相談外来はあるのですか。

相談外来というものを特別設けてはおりませんが、腎臓内科を受診しているCKD患者さんは、腎代替療法が必要になった時点で、腎臓内科医師から3つの治療法について説明を聞き、患者さんが腎移植にご興味をお持ちであれば、腎移植外科を受診してもらう流れになっています。当院の腎臓内科医師は腎移植についてもしっかりと知識をお持ちですので、患者さんへの説明もきちんと行われています。

最初の外来受診から移植手術まではどのくらいの期間がかかりますか。

約3カ月ですが、早めに移植した方がいい患者さんの場合は、2カ月くらいで移植手術を行うなど、患者さんの状態に応じて対応できるようになっています。

どのようなチーム、体制で腎移植が行われているのですか。

小林先生

腎移植外科は4名の医師とレシピエント移植コーディネーター1名で構成されていますが、移植手術に向けて、腎臓内科や精神科など、他の科とも連携を取りながら進めています。
まず、ドナーもレシピエントも、移植の意思決定に至るまでは、最低3回は腎移植外科の外来を受診し、移植についての説明や血液検査を受けます。外来での検査をクリアして、ドナー、レシピエント共に移植に向けての意思確認ができていれば、3日間の検査入院をしてもらいます。検査入院は腎臓内科の病棟に入院し、腎臓内科医が担当します。必要に応じて追加検査なども行ってもらっています。
また、ドナーもレシピエントも、移植前の検査時や移植直後、移植1年後に、精神科の受診や臨床心理士との面談を行ってもらっています。腎移植外科で移植ができると判断していた患者さんでも、精神科の方からストップがかかる場合もあります。例えば、親子間の移植で、レシピエントである子どもの方が移植を受け入れる精神的な準備が整っていないため、しばらく時間を置いてから行った方がいい、などの判断をしてくれることもあります。逆にこちらが少し心配だった患者さんでも、きちんと診断の上、大丈夫だと背中を押してくれるケースもあります。

腎移植後の患者さんのフォローアップはどのように行われていますか。

移植後のフォローアップに関しては、医師とレシピエント移植コーディネーターが一緒になって丁寧に行っています。中でも、免疫抑制薬に関しては、これで移植腎の将来が決まるということをしっかりと患者さんにお伝えしています。薬は多すぎても、少なすぎてもいけないので、服用量の調整がとても大切であり、それは個人によって差があること、また、量の調整は、血中濃度を測定して行うことを説明しています。その上で、当院では必要に応じて、免疫抑制薬の血中濃度測定のための採血で、1ポイントだけでなく、何ポイントかの値を取り、その結果をもとに細かい調整を行うということをお伝えしています。患者さんにしてみれば、1日に何回も採血されると「何故こんなに採血するの?」と思うと思いますが、いくつかのポイントでしっかりと測定すれば、自信をもって薬の投与量を減らしたり、増やしたりという調整ができるので、患者さんにとってもメリットが大きいと思います。
また、そのような細かい調整をすることで、患者さんに薬の重要性を理解してもらうことができ、飲み忘れが減ります。検査を行ったその日中に結果を患者さんに電話で連絡し、服用量の調整を行います。我々が直接電話連絡をして調整することで、患者さんが薬の大切さを理解できますし、こちらからも飲み忘れをしないでというメッセージを伝えることができます。そのため、当院ではノンアドヒアランス(怠薬、服薬不遵守)が少ないのではないかと思います。