2014年9月10日~12日に東京(新宿)にて開催された、第50回日本移植学会総会での主な演題について、北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 講師 森田研先生にご紹介・ご解説いただきます。
第4回目の今回は、「日本の移植・再生医療〜次の半世紀に向けて〜」についてご紹介いただきました。


2014年9月10日から3日間、新宿にて、第50回日本移植学会総会が開催されました。その中で、興味深い講演や企画を選びレポートしました。なお、私の理解不足で発表者の意図した内容と多少異なる解釈や、表現を変えたことによる微妙な違いがあるかもしれません。このレポート内容についての責任は全て私にありますのでご了解ください。

「日本の移植・再生医療〜次の半世紀に向けて〜」 50周年企画(2014年9月12日)
座長 大段秀樹先生(広島大学)、剣持敬先生(藤田保健衛生大学)

今回、第50回を迎えた日本移植学会総会の記念企画として、「日本の移植・再生医療〜次の半世紀に向けて〜」が行われました。折しも神戸医療センターで学会期間中に網膜疾患に対するiPS細胞を用いた臨床治験が行われました。大段秀樹先生(広島大学)、剣持敬先生(藤田保健衛生大学)の座長により4題の最先端報告が行われました。

■臓器保存の今後
まず臓器保存の今後について、国立成育医療研究センターの絵野沢伸先生が移植医療に欠かせない臓器保存の歴史と現状について講演されました。
臓器は摘出時から始まる虚血性障害、保存中の時間経過による障害、血管吻合後の血液再灌流による障害、の3つの影響により状態が悪くなります。そのため、臓器の血流を止めている時間を出来るだけ短くし、組織が劣化しない保存が可能なように、臓器を浸す液の成分改良を行い、臓器摘出後、血液を直ちに洗い流して老廃物が持続してたまっている状態を避ける取り組みが行われてきました。保存に関しても何度ぐらいに冷却して保存するのが良いのか、酸素不足を補う方法は無いのかなど、移植の研究と平行して臓器保存の研究が進められてきました。
日本だけでなく臓器提供が盛んな欧米でさえもドナー不足は深刻化しており、このような臓器保存技術の応用によって、かなり条件が悪いドナーから提供された臓器でも出来るだけ使えるようにする努力がなされています。保存温度については冷蔵庫で食品を保存するように4℃で冷却するのが良いと信じられてきましたが、最近常温保存で臓器を灌流しながら浸すことで、冷蔵して保存するよりも組織の活性が落ちないとする発表もありまました。また、実際に腎臓を移植するまでの移動、保管のために持続的に灌流保存する装置も実用化されています。

■移植における免疫制御の現在・過去・未来
次に、北海道大学遺伝子病制御研究所の清野研一郎先生が、1954年にボストンで初めて腎臓移植が行われて以来の移植免疫制御法について歴史を振り返りました。
レシピエントが生きて行くのに必要な感染防御や癌の抑制に必要な免疫を、移植臓器の拒絶を抑えるために弱めなければならない現状を改善させる研究、つまりドナーの臓器だけを拒絶反応から守る免疫制御の可能性について、これまでの研究成果を講演しました。
異物を認識して攻撃をするTリンパ球の触手には、直接異物を認識する部分の他に、副刺激経路と呼ばれる補足的な情報伝達経路があります。これを遮る薬を投与することで、ドナーの臓器だけ拒絶反応が抑制されるという現象を示し、人工的に副刺激を押さえる薬に対する期待が高まっています。この技術を応用して、腎臓などの組織をiPS細胞から作る課程でも問題となる拒絶反応を、その細胞だけを対象に抑えてうまく機能させられるようにするにはどうしたら良いか、という研究の成果を講演されていました。
具体的には、人工的に作った細胞の一部からマクロファージと呼ばれる原始的な白血球の細胞を作り、それによってiPS細胞がうまく拒絶されずに取り込まれるように抑制性の細胞だけを選別して抽出する技術を紹介されていました。iPS細胞による臨床研究が、人間同士の移植の際に問題となる拒絶反応を抑制するための方法を見出す可能性があり、重要な研究と位置づけられています。

■次世代に実現を目指す臓器置換戦略
移植臓器の不足を解決するもう一つの方法として、人間以外の動物からの移植を可能にする技術を研究している鹿児島大学医歯学総合研究科再生・移植医療学の山田和彦先生が、実用化を目指した3つの研究システムを紹介しました。
第一は、臓器不足を早期に解決するための直接的手段として、ブタや霊長類の腎臓を移植するモデルで、現在米国で行っている研究の内容について解説されました。
第二に、それを発展させる形でブタの臓器の骨格を残して細胞を除去し、代わりにヒトの内皮細胞を移入融合した人工の腎臓(ハイブリッド腎)を作ってヒトに移植する開発を進めています。
また遺伝子を霊長類型に改変したブタの臓器を、ヒヒや猿などの霊長類に移植する試みを第三の研究として行っており、既に腎臓で3カ月、心臓で1年の生着を達成しているそうです。最終的には遺伝子改変技術と人間の細胞の再生医療技術を組み合わせた、ヒト以外からの臓器移植(異種臓器移植)を今後の展望としていくということでした。

■ヒト臓器の創出を目指す戦略的iPS細胞研究
最後に、横浜市立大学 臓器再生医学の谷口英樹先生が、iPS細胞技術を用いた移植用臓器構成の試みについて報告しました。
現在、臨床応用が開始されているiPS細胞技術による疾患の治療は、多くの細胞に増殖変化する可能性のある細胞をiPS技術によって作り、さらにそれを特定の疾患の治療に使用できるように変化させて用いられますが、最終的にそれを移植に繋げるためには代用臓器をその細胞集団で構築する必要があります。そこで、まず肝臓の元となるような細胞をiPS細胞で作り、それが肝臓の代用としてヒトの身体の中で働けるように、血管や組織を支える細胞とともに増殖していく仕組みを完成しようとしています。
谷口先生らの研究では、肝臓の細胞を再構成することが出来た段階で、国内施設で早ければ、平成31年に臨床研究として実際に行うことを目標にしているそうです。