トップページ  >  移植コラム  >  MediPress編集部コラム  >  第20回 世界移植者スポーツ大会(アルゼンチン大会) NPO法人日本移植者スポーツ協会 副理事長 戸塚仁さんインタビュー

MediPress編集部 コラム

  • 第20回 世界移植者スポーツ大会(アルゼンチン大会) NPO法人日本移植者スポーツ協会 副理事長 戸塚仁さんインタビュー

    第20回 世界移植者スポーツ大会(アルゼンチン大会) NPO法人日本移植者スポーツ協会 副理事長 戸塚仁さんインタビュー

世界中から移植を受けた方々が集まり、2年に1回行われるスポーツの祭典、世界移植者スポーツ大会が、2015年8月23日~8月30日にかけて、アルゼンチンにて開催されます。2001年の神戸大会から選手として参加され、2009年のオーストラリア大会では陸上100m、200mで金メダルを獲得された戸塚仁さん(NPO法人日本移植者スポーツ協会 副理事長)に、大会の魅力についてお聞きしました。



― まず初めに、戸塚さんが腎移植を受けるまでのお話をお聞きしたいのですが、いつ頃から腎不全の症状が出始めたのですか。

戸塚さん:
17歳の時に高校の健康診断で蛋白尿を指摘されました。その後、大学病院を受診すると、慢性糸球体腎炎と診断され、約4カ月間入院することになりました。


― それまでは目立った症状は無かったのですか。

戸塚さん:
中学、高校と陸上をやっており、中学では長距離を走っていたのですが、腎機能が悪化していたためか、高校に入るとだんだん長い距離が走れなくなりました。高校2年生の時には血尿が出たのですが、あの有名な瀬古選手(元陸上競技・マラソン選手)も、過酷な練習で血尿を出したという話を聞いたことがあったので、「自分も瀬古選手と同じだな」などと考え(笑)、血尿自体も2日ぐらいで出なくなったので、病院には行きませんでした。


-4カ月間の入院中はどのような生活でしたか。

戸塚さん:
ベッドの上で絶対安静で、トイレにしか行けませんでしたので、入院前に68kgあった体重は、退院時には53kgぐらいになってしまい、普通に動く体力も無くなってしまいました。入院前は陸上をやっていましたので、太腿がかなり太かったのですが、退院するころには、女性が履くようなスリムのジーンズが履けるようになってしまいました。その頃は絶望感しかなく、「この先どうなってしまうのだろう?」という気持ちで一杯でした。
退院後、高校を卒業した後は、通信制の大学に行き、自宅で安静にして過ごす日々が約9年間続きました。


-自宅療養中はずっと安静にしていたのですか。

戸塚さん:
当時の主治医からは、「動くと腎臓が悪くなる」と言われていたので、安静にしているしかありませんでした。風邪を引くたびに砂時計の砂が落ちていくように、腎機能が少しずつ悪くなっていきました。
その後、28歳の時に透析導入となり、シャントを作製した際に母がドナーとして申し出てくれたため、透析導入から11カ月後の29歳の時(1998年)に生体腎移植手術を受けました。


-現在、移植後約17年ですが、いつごろから運動を再開したのですか。

戸塚さん:
移植3カ月後にはジョギングをしていましたね。
透析導入前は自宅療養が長かったので、体力もかなり無くなってしまい、普通に1km歩くだけでも、脚がぶるぶる震えて痙攣してしまうような状態でした。しかし、透析を開始するとジョギングができるくらいに体力が回復しました。移植後もその流れで、早い段階から運動を再開しました。


戸塚さん

-運動を始めるにあたり、移植の主治医からは何かお話がありましたか。

戸塚さん:
主治医の先生からは、「移植をしたら、これまでできなかったいろいろなことに挑戦しないと、何のために移植したのか分からないですよ。せっかく移植をしたのだから、運動してみたらどうですか?それと、移植後落ち着いたら、仕事を探して就職しなければだめですよ」と言われました。そのため、まずは体力を回復させることから始め、日常生活が普通に送れるようになったころには就職もしました。


-移植後、体力が戻るのには、どのくらいの時間がかかりましたか。

戸塚さん:
普通の生活ができる体力が戻ったのは、移植後半年~1年ですが、陸上部で走っていたころの感覚に近い状態に戻るのには10年ぐらいかかりました。


-運動を再開して、何か変化はありましたか。

戸塚さん:
風邪を引かなくなりました。移植後間もないころは、原因は分かりませんが、めまいなどの症状が出ることもありましたが、運動をするようになってからはそのようなこともなくなりました。


-運動をして体力が付いてくると良いことがたくさんありますね。その後、移植者スポーツ大会に参加されるようになったわけですが、どのようなきっかけで大会に参加されるようになったのですか。

戸塚さん:
透析導入前、既に腎臓がかなり悪くなっていたころに、テレビで世界移植者スポーツ大会の様子が放映されており、こんな大会があるのだと知りました。その頃は、まさか自分が移植するとは思っていませんでした。
移植後、そのことを思い出し、インターネットで検索したところ、たまたま神戸で世界大会が開催される前のプレ大会への参加募集が出ていたので、まずはそこに出てみようと思いました。


-初めての世界大会参加はいかがでしたか。

戸塚さん:
初めて陸上100mに出場した時には、恥ずかしながら転んでしまいました(笑)。頭の中には以前走っていたころのイメージがあったのですが、実際は脚の回転がついていかなかったのですね。


-海外の大会に参加されたのはいつ頃ですか。

戸塚さん:
初めて海外の大会に参加したのは、2003年のフランス大会ですので、移植5年後ぐらいですね。その後カナダ、タイ、オーストラリア、スウェーデンの大会に参加しました。


-海外の大会で印象に残っている大会はありますか。

戸塚さん:
フランスの大会は、ナンシーという場所で開催され、開会式が世界遺産のスタニスラス広場で行われました。広場での入場行進では、観光客から握手を求められたりして(笑)、かなり盛り上がりましたので、とても印象に残っていますね。


-世界移植者スポーツ大会に参加する楽しさはどのようなところにありますか。

戸塚さん:
参加する選手は皆さん移植者ですので、仲間意識があり、とてもフレンドリーです。国が違っても、言葉が通じなくても、皆で一緒に楽しむことができます。
また、開催地で1週間~10日ぐらい生活をしますので、観光とは違った異文化体験ができることも楽しみの1つだと思います。
私は語学があまり得意ではないのですが、フランスでは1人でコインランドリーに洗濯に行き、洗濯機の操作が分からないので、隣のお店のおばさんを呼んできて、洗濯してもらったこともありました(笑)。言葉ができなくても、伝えようとする気持があれば大丈夫です。


-これまで参加された競技で印象深かったことはありますか。

戸塚さん:
陸上競技で金メダルを取れたこともうれしかったのですが、陸上では、参加選手が30代、40代というように年代ごとに分けられているので、さまざまな国の同年代の選手と知り合いになることができます。
2009年のオーストラリア大会で金メダルを獲得した時の写真で、私の隣に写っているドイツ人選手は2011年のスウェーデンの大会でも400mを一緒に走り、その時は彼が3位で私が4位でした。
もちろん競技で勝利することも素晴らしいのですが、大会に参加することで、移植を受けて元気になれたことを再認識してドナーの方に感謝し、世界中の人と喜びと感動を共有できるという、二重三重の喜びがありますね。

オーストラリア大会の様子


-参加選手の最高齢は何歳ぐらいですか。

戸塚さん:
80歳ぐらいの選手もいらっしゃいます。「あの年齢までできるんだ」と、目標になりますね。また、陸上100mでは、60歳以上のベテラン選手が毎回出場されるのですが、その方が走ると、場内総立ちで拍手が起こります。


-これまでの大会で日本人選手が活躍したエピソードはありますか。

戸塚さん:
多くの選手がさまざまな競技で活躍されていますが、2005年のカナダ大会のバドミントン(ダブルス)の試合では、会場に大勢の人が集まる中で、日本チームも一丸となって応援し、大声援の中で日本チームが優勝しました。あの時は本当に感動しましたね。


-戸塚さんは2009年のオーストラリア大会で、陸上100m、200mで金メダルを獲得されていますが、その時の記録はどのくらいだったのですか。

戸塚さん:
100mは13.12秒、200mは27.76秒でした。もともとそこまで速いわけではないので、私が現役の時は、200mは23秒ぐらいで都大会予選落ちのレベルでしたね(笑)。オーストラリア大会の時も全力で走ったら転ぶのではないかという恐怖心がありました。今でも走るときにはそのような恐怖心があるので、常にリラックスして走ろうと思っています。


テニスをしています

-金メダルを取るまでには、トレーニングもかなりされたのですか。

戸塚さん:
1人で黙々とやるようなストイックなトレーニングは、自分には向いていないので行っていませんが、移植1年後(30歳)ぐらいからテニスを始めて、週2日スクールに通い、土日も含めて、週3回ぐらいテニスをしています。最初はコートの端から端まで走ると足ががくがくしていたのですが、今は3往復ぐらいは全く問題なく走れるようになったので、楽しみながらトレーニングできたのが良かったのだと思います。
長期間運動から離れていた場合には、徐々に鍛えていき、筋力を戻すことが大切ですね。


-これから大会に参加してみようとお考えの方にお勧めの競技はありますか。

戸塚さん:
ペタンク※という競技があるのですが、体力的にもあまり負担がかからず、これまで日本人はあまり出場していないので、お勧めかもしれません。
あとは大会初日にあるので、時差がある場合は少し大変ですが、5kmのジョギングの競技もあるので、そのような競技も良いかもしれません。
※テラン(コート)上に描いたサークルを基点として、木製のビュット(目標球)に金属製のブール(ボール)を投げ合って、相手より近づけることで得点を競うスポーツ。


-最後に、移植者スポーツ大会への参加を考えている移植者やそのご家族の方へメッセージをお願いします。

戸塚さん

戸塚さん:
移植後初めてスポーツをする方の場合は、長い目で見ながら徐々に体力を回復してくのが良いと思います。移植者スポーツ大会は、国内の大会は毎年、世界大会も2年に1回開催されますので、節目、節目で大会に参加し、日ごろの運動の成果を実感するのも良いのではないでしょうか。
世界移植者スポーツ大会では、競技の勝ち負けを競い合うだけでなく、世界の移植者の仲間とコミュニケーションを取り、たくさんの友達を作ることができます。皆さんとてもフレンドリーですので、言葉ができなくても心配することはありません。
一度きりの人生です。「移植」という他の人とは違った体験をしているのですから、「もっと違った体験をしてみたい!」という気持ちで、ぜひ楽しんで参加していただきたいと思います。
2015年はアルゼンチン、2017年はスペインで開催予定ですので、皆さんの参加をお待ちしています!


大会の詳細を知りたい方、大会参加希望の方は、日本移植者スポーツ協会のホームページをご確認ください。2013年の南アフリカ大会の様子もご覧いただけます。
これまでの大会の様子は日本移植者協議会のHPからもご確認いただけます。

第20回世界移植者スポーツ大会 チームマネージャー丸井先生のインタビューはこちらからご確認ください。


お気に入り記事に登録

MediPress編集部 過去のコラム

この記事を見た人が読んでいるのは