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MediPress編集部 コラム

  • 沖永良部島における腎移植医療 -離島における腎移植医療から学ぶ-

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    沖永良部島における腎移植医療 -離島における腎移植医療から学ぶ-

腎移植医療推進のためには、献腎移植の普及啓発や、末期腎不全の腎代替療法選択における患者さんへの適切な情報提供など、さまざまな取組みが必要です。

今回MediPress編集部では、移植専門医が不在の離島でありながらも、移植専門医と地域医療機関の密な連携と、適切な腎代替療法の選択提示により、腎移植数や腹膜透析導入数が増えている沖永良部島の事例を紹介します。

沖永良部島は鹿児島県の奄美群島の南西部に位置し、九州本島から南へ552km、沖縄本島から北へ約60kmに位置します。人口は約1万3千人で、年間平均気温22度という温暖な気候に恵まれ、四季を通じて熱帯、亜熱帯の花々が咲く、美しい海に囲まれた島です。

沖永良部島


島への主なアクセス方法は、空路は、鹿児島空港から1日3便(約1時間10分)、那覇空港から1日1便(約1時間)、海路は、鹿児島新港から1日1便(約18時間)、那覇港から1日1便(約7時間)となっています。

沖永良部島へのアクセス


この沖永良部島で10年前に地元施設との連携によって腎移植外来を創設され、以来、島の腎移植医療を推進してこられた大阪医科大学の平野一先生と、島内においてCKD患者さんのフォローアップをされている沖永良部徳洲会病院の林香織看護師に、離島における腎移植医療の推進についてお聞きしました。
(取材日:2018年8月4日)




■沖永良部島における腎不全治療について

-まず、沖永良部島における腎不全患者さんの診療体制についてお聞かせください。

平野先生:
沖永良部島には常勤の透析医や腎臓内科医はおらず、血液透析施設は1施設のみとなっています。腎移植については、以前は啓発がされていなかったことや、移植後の受診の際には島外への渡航が必要であったこと、専門医が不在のため、緊急時の対応ができないことに対する不安感などがあり、積極的に行われず、腎代替療法については血液透析が主でした。


-平野先生は10年前から沖永良部島で腎臓内科、腎不全・腎移植外来を始められたということですが、現在はどのくらいの頻度で外来を行っているのですか。

平野先生

平野先生:
現在は、島内唯一の総合病院である沖永良部徳洲会病院で、金曜、土曜、月曜の外来を月に1~2回行っています。沖永良部徳洲会病院の常勤の医師は内科(院長)、外科、産婦人科の3名しかいませんので、糖尿病内科や循環器内科、神経内科、小児科、眼科、皮膚科、胸部外科、泌尿器科、心療内科などの科でも、島外から定期的に医師が来て外来を行っています。


-腎臓内科、腎不全・腎移植外来では、現在何人の患者さんを診ていらっしゃいますか。

平野先生:
腎臓内科外来で43名、血液透析外来で45名、腎移植外来で13名、腹膜透析外来で4名の患者さんを診ています。


-先生がこちらの病院で外来を開始されてからどのような変化がありましたか。

平野先生:
CKD患者さんに対して、適切なタイミングで3つの腎代替療法についてきちんと説明するようになり、代替療法選択後のフォローアップもこちらの病院で行う体制ができましたので、代替療法の中でも腎移植と腹膜透析を選択される方が増えました。現在では、代替療法を選択されている方の72.6%が血液透析、21%が腎移植、6.4%が腹膜透析となっており、全国におけるおおよその割合(血液透析91%*、腎移植6%、腹膜透析3%*)と比較しても、腎移植や腹膜透析を選択している方が多くなっています。
*日本透析医学会 統計調査委員会「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2016年12月31日現在)」


治療選択比率


■腎移植後のフォローアップについて

-こちらの島で腎移植を希望する患者さんがいらっしゃった場合、移植手術を行う病院はどのようにして決めるのですか。

平野先生:
患者さんのご親族などがお住まいの地域の方が安心して手術を受けられると思いますので、患者さんが希望される地域の病院を紹介しています。もちろん大阪での手術を希望される場合は、私が所属する大阪医科大学病院で移植手術を行うこともあります。


-移植手術までの流れはどのようになりますか。

平野先生:
レシピエント、生体腎ドナーともに、術前のスクリーニング(合併症の確認など)はこちらの病院で行い、移植手術を行う施設にて、組織適合検査や医学的適応検査などの術前検査を行います。


-腎移植手術後の患者さんはどのくらいで島に戻るのですか。

平野先生:
患者さんにもよりますが、術後退院し、体調が安定するまで4~8週間程度は移植手術を行った病院の周辺に滞在してもらい、その後、島に戻るようにしていただいています。


-島での腎移植外来は、現在どのような体制で行っていますか。

平野先生:
私と看護師の林さんともう1名の看護師でフォローアップを行っています。


-林さんはいつ頃からこちらの病院に勤務されているのですか。

林看護師:
8年くらい前からです。もともと名古屋や東京で看護師をしていましたが、結婚を機に沖永良部島に来て、こちらの病院に勤務するようになりました。


-腎移植外来はどのような流れで行われていますか。

林看護師

林看護師:
腎移植患者さんには、定期外来の4~5日くらい前に来院してもらい採血しています。免疫抑制薬の血中濃度測定などは島外の施設に依頼が必要で、台風や天候不良で飛行機が欠航することもよくあるので、余裕をもって事前採血をするようにしています。


-皆さんきちんと外来受診されていますか。

林看護師:
皆さん必ず月1回来てくれます。島は広くありませんので、病院から遠い方でも、車で30分で通院できます。外来を受診しなかったり、先生の指示を守らなかったりで、何かが起こったら怖いというのがあるのかもしれません。離島なので飛行機代が高く、島外の病院で診察を受けるのは移動だけでもとてもお金がかかるので。

平野先生:
こちらの病院では移植後の腎生検も行っています。何か異変があった場合の治療に関してはここで行うこともありますし、患者さんが移植を受けられた施設で行うこともあります。
また腎移植患者さんには万が一のこともあるので、最低2週間分の免疫抑制薬を自宅などに予備で持ってもらうようにしています。


-平野先生が不在のときは、林さんが腎移植患者さんの対応をしていらっしゃるのですか。

林看護師:
何かあった場合は、まずは外来に電話してもらい、私かもう1人の看護師に繋いでもらっています。状況を確認し、分からないことがあれば平野先生に電話やメールなどで確認して対応しています。
この病院には常勤医師が3名しかいませんし、腎臓に詳しい先生がいらっしゃらないときもありますので、やはり平野先生に聞くのが一番だと思っています。


-何か症状が出た場合の対応については、患者さんにどのような指導をされていますか。

林看護師:
腎移植患者さんには、風邪でもすぐに受診してもらうようにしています。この病院は24時間体制で患者さんを受け入れており、緊急の場合は皆さんここを受診されるので、診察しなければならない患者さんが増えてしまうという点では大変ですが、こちらの病院で対応できないような状態になってしまうと、ヘリで搬送(奄美大島または沖縄からドクターヘリを呼ぶか、夜間は自衛隊による空輸)するしかなくなるので、島民の方は重症になってはいけないという意識が強いと思います。そのため、何かの症状を放っておくような患者さんはいらっしゃらないですね。


-こちらの病院で生体腎ドナーの診察も行っているのですか。

平野先生:
定期的に診察しているドナーの方はいらっしゃいますが、レシピエント、ドナーともにこちらの病院に通院しているケースは少ないので、基本的にはドナーの方がお住まいの地域の病院で診てもらうようにしています。


■へき地における腎移植医療の推進について

-離島など、腎移植施設が近くにない地域における腎移植医療の推進のためにはどのようなことが必要だと思われますか。

平野先生:
移植専門医とその地域の医療機関との密な連携、看護師や他医療スタッフの指導と理解、そして、腎臓内科医や移植専門医によるCKD患者さんへの適切なタイミングでの腎代替療法の説明が必要だと思います。それによって、腎移植を選択する患者さんが増え、腎移植後の安全なフォローアップも可能となります。

林看護師:
平野先生に毎月この病院に来ていただくようになり、慢性腎臓病から腎代替療法の選択、その後のフォローアップまで、すべてを診ていただけるようになりました。先生がいらっしゃらなければ、患者さんも島外の施設に行ってまで腎移植手術を受けようとは思わないと思います。他の地域でもこのような腎臓内科医、移植専門医と地域医療機関の連携が増えていけば、多くの患者さんがより自分に合った腎代替療法を選べるようになるのではないかと思います。

平野先生:
このような医療連携によって、腎臓内科医や移植専門医がいない地域においても腎移植医療が普及していくことを期待したいですね。
そして離島に限らずどの地域においても、適切なタイミングで適切な情報を提供することによって、多くの患者さんがよりご自身に合った腎代替療法の選択ができるようになると思います。

平野先生林看護師
左から原口看護師長、平野先生、林看護師(手の形は沖永良部島を表しています)


次回、沖永良部島外で腎移植手術を受け、島で移植後の生活を送っていらっしゃる腎移植者の方々へのインタビューをお届けします。


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