厳しい状況を乗り越えて

山下さんの移植に向けての検査は順調でしたか。

川端先生
移植に向けて、最初に血液型、HLA、ダイレクトクロスマッチなどの検査を行うのですが、山下さんは出産されているので、ドナーであるご主人に対する抗体価が高く、移植しても抗体が関連する拒絶反応で移植腎を喪失する可能性が高いということが分かりました。そのため、ご本人には再度、そのリスクを承知の上で、移植をするかどうかを考えていただくようにお話ししました。
※ダイレクトクロスマッチ:
レシピエントの血清中にドナーに対する抗体が無いかどうかを調べる検査。検査の結果が陽性の場合は、移植後に強い拒絶反応が起きることが予想されるため、移植手術前に薬剤などで抗体産生を抑制したり、血漿交換などで抗体を除去したりする処置などが必要になる。

山下さん
最初の検査結果を伺った際、先生に、「(移植された)腎臓は何年もちますか?」とお聞きすると、「山下さんの場合、5年くらいかもしれません」と言われました。私には主人に対する抗体があり、ハイリスクだということでした。
その話を受けて、またかかりつけ医に相談したのですが、先生は、「5年ももつなら良いと思いますよ。5年もたせて、それから透析をすればいいのではないですか。」と言ってくださったのです。
主人も、「提供した腎臓を少しでも長くもたせて、その間に2人でいろいろな所に旅行できたらいいじゃないか。もし腎臓が駄目になってしまったときにまた一緒に考えればいい。」と言ってくれました。
先生と主人の後押しがあり、私も迷いはありませんでしたので、やはり移植をしようという話になりました。

山下さんのようなハイリスクな腎移植を行うことは多いのでしょうか。

川端先生

川端先生
当院では、レシピエントにドナーに対する抗体があるなどのハイリスクな腎移植は、2011年ごろから行っており、これまでに10例の移植手術を行っています。ハイリスクの場合、他にドナー候補がいないケース以外は、基本的にはドナーチェンジを検討してもらうようにしています。

山下さん
先生からはドナーを変えた方が良いとは言われましたが、私には主人の他にはドナー候補はおりませんでしたので、厳しい状況はありながらも主人がドナーとなってくれるということで、移植に向けて進めていくことにしました。

その後、移植手術までの生活で特に気を付けていたことはありますか。

山下さん

山下さん
手術までの期間は3カ月位でしたので、風邪を引いたり、怪我をしたりしないように注意して生活をしていました。手術までには本当に色々な検査があり、採血もたくさんしました。手術前には一時的に透析が必要でしたので、首からカテーテルを入れて透析をしたり、血漿交換をしたりと、さまざまな準備が必要でした。

こちらの病院では、移植手術のどのくらい前に入院するのですか。

坂本レシピエント移植コーディネーター
レシピエントは血液型不適合移植のときは2週間前、ドナーは2日前に入院します。

手術前にご主人とはどのようなお話をされましたか。

山下さん
お互いに頑張ろうという話をしたくらいです。ここまできたのだから、あとは頑張るしかないという感じでした。手術前の体調管理は自分でできますが、手術は先生にお任せするしかないので。