夫婦だからこそ、喜びあえること

打田先生
山本さんのご主人は年1回きちんと検査に来ていますね。移植手術後、ご主人は、奥様に腎提供した事について何かおっしゃっていますか?

山本さん
私の方が元気になりすぎて困ると言っています(笑)。夫は、恩着せがましい事は一切言わないですが、仕事も一緒にしており、ずっと一緒にいますので、時々口げんかをした時に、「誰のおかげで・・」 みたいな事は冗談めかして言います。それに対しては、「あなた様のおかげで」と言っています(笑)。

打田先生
二人が移植のドナーとレシピエントだという事を外の人に対して話をされますか?

山本さん
割と積極的に話をしていると思います。夫が法人会(全国法人会総連合)の女性部の方向け講演でドナーとなった事も含め、お話をさせて頂いた事もあります。

打田先生
ドナーとレシピエントだという事をオープンにするのは、特別な目で見られて嫌だという人もいますが、その様な事はないですか?

山本さん
話を聞く側の反応にもよると思いますが、変に隠す必要はないかと思っています。ただ、自分達の知らないところで、事実と異なった話をされるのは嫌ですね。

打田先生
最近は、多くの生体腎移植症例を経験して、なかでも夫婦間移植はいいな、と思うケースが多い印象です。
親子間移植の場合は、ドナーとレシピエントが同じ場所に住んでない事が多く、透析治療がどれだけ大変なのかも分からないですし、移植を受けた方の喜びを術後近くで見て実感する事も出来ません。一方、夫婦の場合は、移植前の大変さも目の当たりにしていますし、移植後、みるみる元気になっていく姿を間近で見て、一緒に喜びあう事が出来ます。
山本さんのご夫婦の場合も、移植をされて、一緒に食事が美味しく食べられるようになったり、外食も出来るようになったり、又、夫婦で共同で仕事をされています。山本さんだけでなく、ご主人自身も楽になった事もたくさんあったと思います。

山本さん
慢性腎不全の時から、ずっと減塩、低タンパクの食事でした。家族の食事も私が作るので、どうしても全体的に塩分が少なめの、薄味でボリュームが無い食事になりがちだったので、本当に申し訳ないと思っていました。移植後はその様な事もなくなり本当に良かったと思っています。

8月18日、もう1つの誕生日

打田先生
移植後、何かご主人に対する心境の変化はありましたか?

山本さん
とにかく夫には元気でいてもらわないと、という気持ちはいつもあります。腎臓を提供した事で体調が悪くなってしまったら困りますので、夫に対して少し口うるさくなってしまっています。夫からは、「腎臓を提供した事はもう終わった事なのだから、その事で色々と気にするのはやめてほしい」と言われます。

記念日などに感謝の気持ちを表したりされているのですか?

山本さん
毎年、8月18日の移植した日には私の生まれ変わった○回目の誕生日という事でお祝いし、感謝の気持ちを伝えています。
8月18日は偶然にも、棚橋さんご夫妻(奥様は現在、生体腎移植ドナーの会 代表)と同じ移植日なのです。棚橋さんご夫妻とは、移植手術前に棚橋さんのご主人にお手紙を書かせて頂き、ご主人からは、「名古屋第二日赤の先生は本当に信頼出来るから、安心して大丈夫だよ」とお返事を頂きました。その様なやり取りを2回ほどさせて頂きました。移植後は、奥様とも親しくさせて頂いています。
移植をした事により、打田先生にも出会え、棚橋さんご夫妻にも出会えて、縦や横の素晴らしい繋がりが出来ました。小さい頃から病と共に生きてきて、本当に大変なこともありましたが、今の時点では、この病があったからこそ、こんなに素晴らしい方と会えたという気持ちです。

打田先生
2000年代から夫婦間の生体腎移植を始めました。当初は、奥さんからご主人への移植が多く、ご主人から奥さんへの移植はないのではないか、あるいは、強制になってしまうのではないかと心配をしていたのですが、その様な心配は杞憂に終わりました。実際は、夫婦間移植を受けられたご夫婦は、手術後のフォローアップでお互いに見守りあい、移植した喜びをお互いに感じあう事が出来ています。移植はレシピエントにとっていい事ですが、ドナーにとってもいい事なのだという事を、夫婦間移植では、より感じる事が出来るのではないでしょうか。夫婦間移植をされたご夫婦は皆さん仲が良いですよね。
ただ、少し悪い話をしてしまうと、移植腎は有限で、平均生着年数で20年、最高でも海外の記録で40数年ですので、どこかのタイミングで悪くなっていく、という事を認識しなければならないという事です。それを受け入れ、腎臓病を通じて、夫婦2人が1人の様な気持で一緒に頑張っていく、という事が大事ですね。