移植手術に向けて

ご主人からの生体腎移植が決まり、いよいよというころ、ご主人とは何か手術についてお話はされましたか。

ご主人
2人では特に話をしませんでした。


大和田さん
私もまな板の上の鯉で、入院してからは全く不安もありませんでした。

中村先生、東海大学病院での生体腎移植の入院スケジュールを教えてください。

中村先生
レシピエントの方は、血液不適合などで前処置がある場合は1週間前、ない方は2日前に入院してもらっています。ドナーの方は手術前日に入院してもらいます。術後、レシピエントの方は、通常3〜4週間入院していただいています。ドナーの方は5日~1週間程度で退院になっています。

移植手術が決まってから、実際の手術までの期間はどのくらいでしたか。

大和田さん
レシピエント、ドナーそれぞれの検査などで約6~7カ月間でした。

その期間の生活で、特に気を付けていたことがあれば教えてください。

大和田さん
風邪を引かないように、特に感染予防に気を付けていました。また、透析中の体調管理や検査データの確認はもちろん、歯科で虫歯の治療やブラッシング指導を受け、歯のチェックも欠かしませんでした。

ご主人はドナーとしての不安や心配はどのように解決しましたか。

ご主人
当時62歳になっていましたので、不安や心配は全くありませんでした。「多少はあったでしょう?」と人からよく聞かれるのですが、微塵もなかったです。腎臓は2つあるので、1つくらいなくても大丈夫だろうと思っていました。 妻の透析を間近で見ていて大変さが分かっていたので、楽にしてあげたい一心でした。万が一、手術で後遺症が残ったとしても、それはそれだと思っていました。

手術を乗り越えて

そして、いよいよ移植手術を受けられた後の心境はいかがでしたでしょうか。

大和田さん
移植手術そのものは順調だったのですが、術後ICUシンドロームになってしまい、せん妄や異常言動などが6日間くらい続きましたので、意識がはっきりした時のことかどうか分かりませんが、最初に先生から「尿がたくさん出ていますよ!」と言われたことは今でも鮮明に覚えています。意識がはっきりし、日がたつにつれ、感謝の気持ちが大きくなっていきました。
一つ残念なのは、せん妄や異常言動があったために、ベッド上で抑制され、鎮静薬のようなものをたくさん飲まされ続けたことです。これだけは今でも苦い記憶になっています。


中村先生
手術前のストレスや、手術後もいろいろな管につながれながら、機械の音が24時間鳴っている状態が続きますので、ストレスが知らず知らずのうちに体の負担になっていて、錯乱されてしまう方がたまにいらっしゃいます。私たちとしては、不本意ながらも、万が一管を勝手に抜かれてしまってはとても困るので、鎮静剤などを投与することがあります。


大和田さん
いろいろな管につながれながら寝返りもできませんし、背中も痛いし、さらに薬を飲まされたことで余計に混乱してしまいました。あれはつらかったですね。


ご主人
手術翌日に私もICUに会いに行ったのですが、わけの分からないことを言っていましたね。孫の名前を呼んで、「そこにいるでしょ」などと言っていました。あの時はとても心配しました。腎臓は良くなっても、このままの精神状態が続くようであれば、「移植をしなければ良かったのかな」と正直、少し思いました。
その後、先生から、「少し刺激を与えてほしい」と言われ、妻の勤め先も含めて、いろいろなところに電話し、友達にお見舞いに来てもらいました。


大和田さん
おかげさまで、友達が来るころには随分と良くなっていました。


中村先生
私たちからすると、やがて必ず落ち着いてくることは分かっていたので、そこまで心配はしていませんでしたが、ご心配をおかけしました。

術後の痛みはつらかったですか。

大和田さん
術後の傷がまだ痛い時期に、鎮痛薬などを飲まされて寝ていたおかげで、術後の痛みは特に感じませんでした。


ご主人
私は、最初の1日は痛かったですが、術後2~3日で点滴棒を持ちながら歩き始め、5日で退院しましたので、全然問題ありませんでした。

退院後の体調はいかがですか。

大和田さん
退院後はとても順調です。術後9カ月後くらいに、帯状疱疹になり服薬治療をしたくらいです。おかげさまで、軽いものだったので痛みも早く消えました。
ただ、免疫抑制剤の量が多かった時期には、副作用と言われる「ふらつき、めまい、時々眠気、手のふるえ」が長いこと続き、少し苦労しました。薬の量が減るに伴って、少しずつ軽くなっていきました。


ご主人
私の方は、全く問題ないです。

歩く楽しさ

移植後、ご主人に対しては何か特別にイベントなどは行っていますか。

大和田さん
いつも一緒にいるということもあり、イベントは特にしていません。主人は、私が血液透析をしていたころは、通院の送迎などでとても気遣ってくれていたので、これからは自分のやりたいことを心ゆくまでやってもらいたいと思っています。
主人は、今、ウォーキングの会に入り、仲間と遠方まで歩きに行ったり、一人で「五街道歩き旅」に挑戦したりしているので、家のことや私のことを心配せずに存分に楽しんでもらいたいと思っています。


移植後のウォーキング


ご主人
イベントは特にしていませんが、よく夫婦で旅行に出かけています。年に4〜5回は行くでしょうか。
私のウォーキングの方は、先日も東京の日本橋から八王子まで48km、翌日は八王子から大月の手前まで40kmを歩いてきました。途中お弁当を食べたりしますが、だいたいこれくらいの距離を7〜8時間で歩きます。ウォーキング仲間もいっぱい増えて、とても楽しんでいます。
ただ、一時期ウォーキングにはまりすぎて家を留守にすることが多かったのですが、その時には妻からの置き手紙があり、「もう少し私にも構ってください」と書かれていましたね(笑)。


ご主人のウォーキング1
ご主人のウォーキング1


大和田さん
せっかく移植して元気になったのに、主人があまりにも家を留守にしてウォーキングばかりしていましたので(笑)。

常に感謝の気持ちを持って

移植をしてから一番良かったこと、うれしかったことは何でしょうか。

大和田さん
たくさんありありますが、まずは時間や曜日を気にせずに主人と旅行に行けたり、孫と遊んだり、孫の学校や幼稚園の行事を見に行けることです。
また、好きな物を食べられること。家族全員で同じ物が食べられることや、飲んだ量だけ尿が出てくれることです。当たり前の日常生活が送れることでしょうか。
それから、感謝の気持ちを常に持っていられるようになったのもとても良かったです。主人だけではなく、全てのことに感謝できるようになりました。自分の状況を恨みこそすれ、感謝などしなかった透析時代とは気持ちが180度正反対になりました。
それと、この手術のおかげで主人自身が健康を気遣い、体を鍛えていることも何よりもうれしいことです。このままずっと健康で過ごしてもらえることが私の一番の願いです。


移植後の日々


ご主人
妻は、移植前までは自分の意見をあまり言わなかったのですが、移植後は、「あれは好きだ」とか、「あれは嫌いだ」とか、はっきりと意見を言うようになりました。今までは、言いたくても口にしなかったので、余計にストレスになっていたのだと思います。

ドナーとなられたご主人にとって、移植をしてから一番良かったこと、うれしかったことは何でしょうか。

ご主人
妻が何でも食べられるようになったことと、水分制限が無くなり体重が増えたことで元気になったことです。昨年は四国八十八ヶ所お遍路で5泊6日の旅行ができました。新婚旅行以来の長旅ができました。