おなかに入った大事な命

移植後の日常生活では、移植腎のために特にどのようなことに気を付けて生活をしていますか。

ご夫婦

大和田さん
腎臓に負担がかからないように、内服薬などを処方してもらうときは、移植を受けたことを知っている医師に受診するようにしています。また、尿をため込まないようにすることと、移植腎の入っている部位に強い力がかからないように大事にしています。移植をしたおなかには、「命が入っている」、「命を預かっている」と思って過ごしています。

おなかにご主人の命を預かっているということですね。

大和田さん
それもありますが、亡くなった息子がここに宿っていると思っています。自分の代わりに、「お父さん、頼むよ」と言って戻ってきてくれているものだと思っています。ですから、余計に、頂いた腎臓を大事に、大事にしています。

日常の服薬や、血圧、体重などの記録はどのような方法で行っていますか。

大和田さん
服用する薬は1週間分を朝、夕と小袋に分け、食卓のテーブルに必ず置いて忘れないようにしています。時間で飲む薬も、いつも目のつくところに置いて時間通りに服用しています。
血圧と体重は朝、夕忘れず測定し、尿量と水分量もそれぞれ計量カップで測定し、全て記録用紙に記録しています。その記録を見ながら、自分の体調を意識しています。また、何かあったときにも役立つと思っています。

中村先生、このような家庭での自己管理は病院から特別に指導されているのでしょうか。

中村先生
退院の時に看護師から指導しています。

ご主人は、臓器提供後、どのような生活をしていらっしゃいますか。またどのようなことに気を付けていらっしゃいますか。

ご主人(ドナー)
2012年1月に移植し、健康増進のために3月に藤沢ウォーキング協会に入会し、月に500km近く歩いて充実した日々を送っています。晩酌はしますが、飲み過ぎないようにすることと、体重の増加には特に気を付けています。

大きな変化

移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。

大和田さん
術後1年を過ぎたころにスイミングスクールに入会しました。実はこれは私にとってはとても画期的なことです。透析中は運動をする気もなく、体操どころか、腕も上げませんでした。今は、衰えた筋力アップと体力向上のために始めた「水中ウォーク」にはまってしまい、楽しくて仕方ありません。水中だと水の抵抗はありますが、浮力があるので陸上よりも歩き易く、痛めていた膝への負担も少ないためだと思います。週1回、専門のインストラクターのもとでレッスンを受け、その他は自主トレで週2~3回は通い、だいぶ筋力もついてきました。これからも続けて、アンチエイジングに努めていきたいと思います。


ご主人(ドナー)
寒くて私が動きたくないと思うような冬の日でも出掛けて行くので(笑)、本当にはまっているのだと思います。


中村先生
水中ウォーキングはリハビリにも使われる運動なので、大和田さんのお話を聞いて、私の外来でも膝の悪い他の患者さんにも勧めるようになりました。


大和田さん
とにかく気持ちがいいですし、プールに行った日は体も温かく、代謝も良くなります。心肺機能にもいいような気がしています。

移植をして、ご主人は陸を、奥様は水中を歩かれて、夫婦ともに健康を意識して運動されているのですね。

大和田さん
普段は、「よっこらしょ」と歩いている人が、水中ではすいすいすい、ですからね。運動していることで、やる気も湧いてくるので、水中ウォークは楽しくて仕方がありません。
また、これからは体力をつけ、12年間の透析生活を取り戻すべく、以前のように社会と関わりをもって生きていきたいです。仕事まではできませんが、少しずつ継続してきたボランティア活動をより充実したものにしていきたいです。
あとは、主人との小さな旅を続けながら、3人の孫の成長を見届けたいです。できれば、ひ孫まで見たいと思っています。

ボランティア活動はどのようなことをされているのですか。

大和田さん
重度障害のあるお子さんの医療的ケアをしています。経管栄養や吸引など、いつもつきっきりのお母さんの代わりに数時間見守る、訪問看護のようなボランティアです。透析のころも続けていたのですが、これからはもっと積極的に行っていきたいと思っています。移植でいろいろな方にお世話になったので、今度は私がサポートする側にまわりたいと思っています。

ドナーへの思い・メッセージ

中村先生とのエピソードがあれば教えてください。

大和田さん
とても素晴らしい出会いに感謝の言葉しかありません。
術後、私の意識がおかしかった時にも「中村先生だけは分かってくれている」と姉に話していた記憶があります。手術のみならず全てを信頼して、手術を受けることができたからだと思います。

ドナーへの思いを教えてください。

大和田さん
突然のドナー宣言から始まり、私が手術を決断できずにいた時も「早くやってもらおう!」と常に言い続け、大きな心と体でどーんと受け止め、背中を押してくれた主人。その後も健康で動き続けている主人の腎臓が私の体でしっかり生き続けている・・・という事実。ありがたい気持ちを胸に、感謝の言葉と共に、私がいつまでもこの命を大切に生きていかなければと思っています。それが夫の誠意に応える道だと信じています。

最後に、現在、移植を検討している方や移植を待っている方にメッセージをお願いします。

大和田さん
血液透析は人によって感じ方は違うと思いますが、私にとっては、いろいろな面でつらい治療でした。腎移植も昔に比べれば成功率も高く、手術が与える心身への負担も少なくなっていると思います。でも、手術は手術です。予後の保証は100%ではないはずです。それでも挑戦してみる価値はあると思います。私のように人生を投げ出して消え去りたいと一瞬でも思っていた60代の人間でも、今は大きな夢が持てるようになりました。また、全ての人に感謝の心が持てる温かい心を感じることができています。可能ならば、ぜひ、チャレンジしてみてください!!

ご主人からもお願いします。

ご主人
事前検査をしっかりと行って、先生方との信頼関係を築いていってください。ドナーは手術後5日で退院できます。私は3日後に自由に歩くことができ、1週間後には仕事に復帰しました。
移植する覚悟を持ったら、後は先生を信じてお任せすることです。不安がある方は心配事を一つ一つ取り除いていってください。


中村先生
移植を検討いただけるところまでくれば、私たちの施設で現在の移植の成績など患者さんに安心いただける材料をいくらでもご提示できますので、まずは腎不全治療の選択肢として移植医療があることを知っていただきたいと思います。

3人で