社会への恩返し

移植後、ドナーの方に対しては何か特別にイベント等は行っていますか。

森さん
大きなイベントは何もしていません。ただ、移植記念日はビールかワインで乾杯しています。

移植をしてから一番良かったこと、うれしかったことはどのようなことですか。

森さん
良かったことは、思い立ったらすぐに、気楽に旅行に行けることです。以前は、透析液を事前に宿泊先に送ったり、持って行かなければならなかったので、準備が大変でした。長男の結婚式の時は腹膜透析中だったので、福岡へ日帰りで行ったところ、家に帰ると脚がパンパンにむくんでいました。次男の結婚式は移植後でしたので、神戸まで2泊で行きましたが、何事もなく元気に過ごせて、とてもうれしかったのを覚えています。
それと仕事に関しても、腹膜透析中は、腹膜炎になると約2週間の入院が必要で、職場のスタッフに迷惑をかけていました。移植後は何事もなく順調で、安心して勤務ができました。


ご主人との旅行(移植後)

ご主人は、臓器提供後、最もうれしかったことはどのようなことでしたか。

ご主人
手術後、妻の顔色がだんだんと良くなったことと、気軽に旅行に行けるようになったことです。また、妻が毎晩、腹膜透析の機械をセットして寝ていたのですが、時々機械のエラーでアラームが鳴ったり、腹膜炎を起こして夜中に病院に駆けつけることもありました。そのため、夜も気が休まる時がなかったのですが、それも過去のことになったのが、とてもうれしかったですね。

移植後の日常生活では、移植腎のために特にどのようなことに気を付けて生活をしていますか。

森さん
1年目は尿量、尿の回数などを記録していましたが、5年目の今は、普通の生活をしています。自分が移植患者であることを忘れていることが多いですね(笑)。


北田先生
薬以外のことを忘れて、健康的な普通の生活ができるというのが、一番の理想ですよね。

ご主人は、臓器提供後、特に気を付けていることはありますか。

ご主人
特にこれまでと変わったことはしていません。ただ、定期的に内科医で血液検査を受け、クレアチニン値は確認しています。

日常の服薬や、血圧、体重等の記録はどのような方法で行っていますか。

森さん
服薬は、携帯のアラームをセットしてきちんと管理しています。体重は、朝一番やお風呂上りなどに量っていますが、記録は付けていません。

移植後、新たに始めたことや、今後の夢はありますか。

森さん
人と関わることが好きなので、腹膜透析中は患者会の会長をしていましたし、予備校で教務補助の仕事を経験した後は、ニートや引きこもりの若者支援の仕事をしていました。今後はこれまでの経験や自らの実体験をベースに周囲になかなか理解されにくい若者の支援や、子育て中のお母さんの支援もしていきたいと思っています。いろいろな方のお話しを聴き、寄り添い、勇気や元気を与えること、それが私の天職だと感じますし、それが私にできる社会貢献だと思っています。


北田先生
私も森さんからよくメールをもらうのですが、患者さんが元気になっているということを改めて知らせてもらうと、私も元気になります。患者さんが元気になることが、私の原動力となっているところもあるので、私も森さんに助けてもらっていると感じていますね。

感謝とメッセージ

北田先生にお伝えしたいことはありますか。

森さん
とにかく、北田先生との出会いに感謝をしています。人との出会いにはタイミングも必要だと思います。先生とは、自分にとって一番良い、必要な時期に出会えて幸せだと思っています。患者に対して、これほどまで熱心に、親身に接してくださる人間味のある先生は初めてです。移植の手術に関しても、心配はありませんでした。「先生にお任せすれば大丈夫」という確信でしょうか。術後も経過をメールで報告しています。本当に、感謝の気持ちしかありません。

ドナーであるご主人への思いを教えてください。

森さん
言葉できちんと伝えたことはないですが、主人にも心から感謝しています。病気が判明してから、ずっと二人で話し合いながら、いろいろなトラブルを乗り越えてきたような気がします。優しく、物事をおおげさに取らずに、受け入れながら対応してくれたからこそ、今の自分があると思っています。いつも話をきちんと聞いてくれ、「なんとかなりそう」と思える雰囲気をつくってくれていることに感謝しています。

現在、移植手術を控えている、または移植手術を検討しているレシピエントやドナーの方へメッセージをお願いします。

森さん
不安や心配は誰にでもあります。でも、考えすぎても結論は出ません。自分を信じて、また先生を信じて、一歩前に進むしかないと思います。「自分は1人ではない」ということを認識することが、とても大切だと思います。

ご主人からも、メッセージをお願いします。

ご主人
ドナーになるためには、徹底的に術前の検査を行い、手術ができる体であることを確認されますので、安心して腎提供をすることができます。生体腎移植であれば、手術前の準備も念入りにでき、手術日もある程度調整ができますので、仕事の都合なども調整することができると思います。もし、移植をお考えなのであれば、私たち夫婦のように、実際に手術を行い、二人とも元気で透析をしない生活をしている姿を見てもらい、判断していただければと思います。

先生からも、今後、夫婦間の生体腎移植をお考えの方に、メッセージをお願いします。

北田先生
全国の生体腎移植件数は、一昨年までは、親子間の移植が一番多かったのですが、昨年は夫婦間の移植が一番となりました。夫婦間の移植ができるようになった一番の理由は、免疫抑制剤の進歩などでレシピエントとドナーが全くの他人でも拒絶反応がほとんど起きなくなったためです。

また、日本人の寿命が延び、定年後もお元気な方がとても多くなっています。老後に夫婦のどちらかが透析を受けながら生きていく人生と、そうではない人生というのは、全く異なるものだと思います。移植をすれば、森さんご夫婦のように、仲良く一緒に旅行して、おいしいものを食べながら過ごすこともできます。単に何歳まで生きられるのかということではなく、どのように生きていくのか、更に極端なことを言うと、どのような死を迎えるかということが、重要になってくると思うのです。そのような意味でも、現在腎不全で苦しんでいる方で、移植ができる可能性のある方には、移植を検討していただきたいと思います。そして信頼できる移植施設にご相談されることをお勧めします。

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