兵庫医科大学病院における小児の移植

先生、小児の移植の場合、兵庫医科大学病院ではどのように診察していらっしゃるのですか。

野島先生
小児の腎不全の患者さんは基本的には小児科で診ていただいています。泌尿器科は移植手術のための術前評価と手術を担当しています。移植後のフォローも小児科で診ていただいています。

小児の移植手術は大人の手術と、どのような点が異なるのでしょうか。

野島先生

野島先生
他の手術でもそうですが、小児の場合は特に、術前の小児科での治療、術中の麻酔、移植後のICUでの処置などがとても大事になってきます。
大人の腎臓を子どもに移植するのは、軽自動車に大型車のエンジンを積むようなものですので、特に移植直後は移植腎に十分な血液を循環させるため、特殊な治療が必要になります。そのため、小児移植の場合は、移植手術の前に小児科、泌尿器科、腎臓内科、麻酔科、集中治療室のスタッフにも加わっていただき、1人の患者さんのための合同カンファレンス(会議)を実施しています。小児の場合には特に、些細なことから大きな合併症がおこることがあるので事前に細かい事まで相談することが重要と考えています。
また、小児の場合は、早く移植をしたほうがいいケースが多いのですが、同時に手術に耐えうる体のサイズになっていただくことも大事ですので、小児科の先生にできるだけ体を大きくしてもらっています。よって、手術の時期は、手術を待てるタイミングと、体が大きくなるタイミングとの妥協点で決まります。泌尿器科では移植ができるかどうかの判断をしますが、最終的な移植の時期の判断は小児科の先生が行っています。

小児の移植をするにあたっての基準というのはどのようなものなのでしょうか。

谷澤先生
まず体重で8kgは欲しいですね。光希君は割と大きかったので良かったのですが、以前移植を受けた生後10カ月から透析をしていたお子さんのケースでは、体重が8kgを超えるのに2歳までかかり、2歳でようやく移植を受けることができたということもありました。
子どもの腎不全は成長障害が出ますので、いかにカロリーを摂ってもらって体を大きくするのか、同時に骨の問題など、合併症をいかに少なくするのかが小児科医の腕の見せ所でもあります。ただ、現在は造血ホルモンなどのいい薬も多いので、昔よりはまだいいです。

移植手術に向けて

移植手術が決まってから、何か特別に気を付けていましたか。

お母様
移植手術の2カ月ほど前には口から食べる量が少なくなっていましたので、少しでも体を大きくするために、鼻からチューブで栄養を摂っていました。
手術直前になると、ほとんど口からは食べられない状態でした。


谷澤先生
おそらく神経症状も出ていて、味もおかしくなっていたのかもしれません。お子さんは大人と違って我慢して食べることができませんので。

移植手術を目の前にして、ご家族でどのようなお話をされましたか。

お母様
みんなで頑張ろうという話をしていました。


御祖母様
とにかく私に異常が見つかっては手術を受けられないので、私の方はそのようなことがないように祈っていました。

先生、小児の移植手術時間はどのくらいかかるのでしょうか。

野島先生
我々の施設では、大人の手術の場合、午前11時半くらいにレシピエントに手術室に入ってもらい、早い人だと午後1時頃には臓器を移植出来ることもあります。ただ、小児の場合は、いろいろな管を入れたり、体を温めたりと、大人とは比べ物にならないほどの事前準備がありますし、またお腹を閉じるにあたっても、ただ閉じればいいというわけではなく、腎臓の場所を見ながら、かなり慎重に行う必要があるので、大変時間がかかります。光希君も手術が終わったのは夜の11時半頃でした。

ほっとした瞬間

移植手術を終えた時の心境を教えていただけますか。

御祖母様
実はこれまで自分の病気で入院したことが一度もなかったもので、「全身麻酔の後はこんななのかあ」とか思っていました。意外にとても冷静だったのを覚えています。


お母様
夕方には母に会えたのですが、私も母がとても冷静だったのを覚えています。光希も母も無事に帰ってきてくれて、まずはほっとしました。


お父様
私も当時のことはよく覚えています。かなり高い確率で無事に戻ってくるとは思っていましたが、わずかでも何か問題がある可能性もあるのが手術ですので、その分無事に帰ってきた時には、非常にほっとしたのを覚えています。
同時にこれからは感染症に気を付けたりと大変なので、今後のことをいろいろと考えていました。


御祖母様
私の方は、気持ちはかなり冷静でいたのですが、一方で、「腹腔鏡の手術でも意外に痛いな」とも思っていました。


野島先生
腹腔鏡の手術は、創(きず)は小さいですが、体内では開腹手術と同じ範囲の手術をしますので、(人にもよりますが)術後は結構痛みを感じる方が多いようです。ただ、開腹手術に比べて創が小さいことで、回復スピードが早く、社会復帰も早い方が多いです。
ほとんどの場合、術前に我々が説明する期間で痛みがおさまり、日常生活に戻られています。

ドナーの方はどのくらい入院するのですか。

野島先生
我々の施設では、遠方の方も多いため、退院後の通院の負担を抑えるために10日位は入院していただいています。

移植手術後の経過はどうでしたか。

手術後のおばあ様と光希くん

御祖母様
術後は順調で、しばらく自宅療養したあと、手術1カ月後には普通に仕事に復帰していました。10月末の手術の後、年明けには大好きな、さだまさしさんのコンサートにも行きました。


お母様
光希の術後の経過もドナーの祖母と同様にとてもよかったです。術後3日目には集中治療室を出て、一般病棟の個室に移りました。

野島先生、兵庫医科大学での移植手術では、術後、集中治療室にはどのくらいいるのでしょうか。

野島先生
大人の場合は術後1日だけ集中治療室にいてもらいますが、小さな小児の場合は血圧と尿量のバランスが取りにくいので、より慎重に長めにいてもらっています。
光希君の場合は1時間に1回くらいの(血圧や尿量の)確認で大丈夫だったのですが、私が担当した最初の小児の移植の時は、15分に1回の確認を行っていたので、自分の部屋にも帰れない状態が続いて本当に大変でした。