手術を乗り越えて

移植手術を終えた時の心境を教えてください。

築田さん
麻酔から覚めた瞬間、「あ、生きてる」と思いました。「ありがとうございます」と言ったつもりですが、周りの方に聞こえていたかは分かりません。ITPのことがあったので、「何があっても文句は言えないなというか、何があっても仕方がないな」と思っていたので、手術室に入る時は覚悟していました。


平光先生

平光先生
築田さんは、それまでの輸血によって抗体ができており、移植の際に拒絶が起きる可能性もありましたので、入念な事前準備が必要でしたが、当院では、そのようなリスクが高い移植にも対応できる体制が整っていますので、問題ありませんでした。

手術後の経過はどうでしたか。

築田さん
専門的なことは分かりませんが、体感としては順調だったと思います。
血小板が少ないせいか、術後すぐは、ひどい痔に悩まされたり、両足が2倍くらいに腫れあがったりしたこともありました。また、膀胱が縮小していたため、1日70回以上もトイレに行き、ほとんど寝られませんでしたね。でも、それらの症状は、長期透析後の献腎移植としては、仕方がないと思っていました。移植後は3週間で退院できましたが、移植2年目に副甲状腺の手術が必要となり、再入院しました。

通常、献腎移植手術の際の入院期間はどのくらいですか。

山本先生
通常は最短で3週間です。


築田さん
私は移植後、早いうちから尿漏れがありましたが、何回か透析をしながら調節していただいて、当時、移植手術のために入院していた患者さんの中で 一番早く退院できたというお話でした。


山本先生
確かに、献腎移植をされた方の中では一番早かったと思います。生体腎移植の方と同じくらいの入院期間でしたね。

幸運を受け入れて

移植をしてから一番良かったこと、うれしかったことはどのようなことですか。

築田さん
日々の生活に関して言えば、よく汗が出るようになって、夏のうつ熱から解放されたこと、料理が楽になったこと、生野菜や果物、チョコレートが食べ られるようになったこと、吹き出物がなくなり、肌や爪の調子が良くなったことなど、いろいろあります。
でも、そのようなこと以上に一番うれしかったのは、「自分が生きてきたことを、肯定的に受け止められるようになったこと」です。

それはどのような意味でしょうか。

築田さん
移植前は、「透析施設に行けば、先生や看護師さんに見守られながら寝ていていいのね」という状態になっていたので、透析を受けること自体は、嫌いだとか、嫌だということではなかったのですが、やはり、「透析がないと生きられない」とか、「透析しか選択肢がない」と考えると、精神的にものすごい圧迫感がありました。自分の足の下には地面がないような感覚が常にあったため、いつもピリピリしていたと思います。どこか、気持ち的にも突っ張って、頑張ってしまっていたのだと思います。

移植後は、そのような気持ちも和らぎましたか。

築田さん
移植後は、精神的にもわりと余裕が出てきたと思います。献腎移植という、すごく稀な機会に恵まれ、僥倖(ぎょうこう)にめぐりあったというか、めったにないようなことに当たったということ自体が、無条件に自分自身を認めてもらえたように感じました。
私の移植は、本当にさまざまな幸運や偶然が重なり、可能になったものだと思うので、いろいろなことが重なって今があるということに対して、「これでいいんだな」という気持ちになれました。

移植後の日常生活では、移植腎のために、どのようなことに気を付けて生活をしていますか。

築田さん
できる限り排尿の機会を得る、疲れたら休む、薬は飲む、の3つには気を付けています。

薬はどのように管理されていますか。

築田さん
今、服用している薬は十数種類もありますので、普段は小分けにして、1日分のピルケースと、それとは別に何かあったときのために、1週間から10日分くらいを持ち歩いています。多めに持ち歩くのは面倒くさいですけれど、薬がなければ本当に困るので、いつも持ち歩いていますね。


日々の管理