厳しい食事療法

移植手術が決まってから、実際の手術までの期間はどのくらいでしたか。またその期間の生活で特に気を付けていたことがあれば教えてください。

佐藤さん
移植が決まってから、実際の手術までの期間は、3~4カ月くらいでした。病院を受診した時には、すでに透析直前でしたので、透析導入せずに移植をするために、まずは食生活からガラッと変えました。仕事も、体を使う仕事から、事務仕事に変えていきました。

移植手術まで腎臓をもたせるために、食事療法を頑張られたのですね。

佐藤さん
そうですね。妻が管理栄養士の和田さんにお聞きしながら、移植までの間、頑張ってくれました。


奥様
最初に和田さんから食事療法について話をお聞きした時から、「こんなに制限があっては、食べさせるものがないな」と思ったのですが、移植が近づき、腎機能が更に悪化してくると、「一体何を食べさせたらいいんだろう?」と思うくらい厳しい制限でしたね。


和田管理栄養士
佐藤さんの食事療法を始めるにあたり、最初に検査数値を拝見した時は、「今から、食事療法って…」と正直びっくりしました。でも、透析導入を遅らせるために、少しでも長く腎臓をもたせなければならなかったので、「徹底的にやるしかない」と思いました。

奥様はどのような食事を作られていたのですか。

佐藤さん奥様

奥様
ご飯ものでは、低タンパク米でカレー味のチャーハンなどを作っていました。低タンパク米の中でも含まれるタンパク質があまりにも少ないものは本当においしくないので、食べられるレベルの低タンパク米と白米を少し混ぜて、油で炒めていました。チャーハンにまぜる野菜も、茹でこぼしをしているので、素材の味さえ無く、出がらしみたいでしたが、主人から、「味がない」と言われても、「ないんじゃなくて、薄いだけだから」と言って食べてもらっていましたね(笑)。

慢性腎臓病、特にステージ3~5における食事療法では、どのような点が重要なのでしょうか。

和田管理栄養士
やはり、おかずを減らすより、ご飯などの主食を変えることが重要ですね。佐藤さんにも、病院の近くのパン屋で作られている低タンパクのパンをご紹介しました。


佐藤さん
和田さんに紹介していただいたパンは、正直、助かりましたね。低タンパク食品でも、加工品のパンや麺の方がおいしかったです。低タンパクのお米は、食べられる感じではなかったですね。

末期の腎不全の方にとって、食事療法はどの程度効果があるのでしょうか。

和田管理栄養士

和田管理栄養士
慢性腎臓病のステージが早い段階から食事療法をスタートすれば、腎不全の進行を遅らせることができると言われていますが、進行した腎不全の状態から始めても、効果を得るのはなかなか難しいと思います。食事療法の中でも、カリウムだけは徹底的に減らすことが重要です。佐藤さんの場合もカリウムの値が高くなっていたので、どうやって減らそうかと一緒に悩みましたね。

佐藤さん
カリウムといえば、和田さんの食事指導の中で、一番印象に残ったのが、「イモ」の話です。「米は駄目、パンも駄目、そばも駄目です」と言われたので、「食べるものがないじゃないか!」と思い、最後に、「じゃあ、イモはいいでしょ?フライドポテトは?」とお聞きしたら、「イモは、絶対に駄目です」と言われたので、その瞬間に、机をガッとつかみましたね(笑)。


奥様
あの時のことはよく覚えています(笑)。


和田管理栄養士
危なかったですね、私(笑)。


佐藤さん
まさに、とどめを刺されたような感じだったので、顔では笑いながらも、ちょっとキレましたね(笑)。


和田管理栄養士
葉物の野菜でしたら、茹でこぼすことでカリウムを30~50%位減らせるのですが、じゃがいもや里芋は減りにくいので、腎不全の方には、「少なめに」とお話ししています。

移植手術までの3~4カ月の食事療法で、痩せましたか。

佐藤さん
痩せはしませんでしたが、むくみがひどかったです。移植手術後はむくみが取れ、手術直前まで履いていたズボンが、ファスナーを下げない状態で、ストンと落ちてしまうくらいでしたので、「本当にすごいむくんでいたんだなあ」と思いましたね。

ドナーであるお母様とは血液型が違ったということですが、術前に治療も受けられましたか。

佐藤さん
はい。血漿交換を何度か受けましたが、初めて受けた時は、開始した瞬間にじんましんが出始め、しばらくの間は耐えたのですが、途中で、「もう駄目だ」と言って、一度止めてもらいましたね。最初の1~2度は、治療後、病院から歩いて帰れませんでした。本当につらかったので、「早く手術したい」と思いました。


岩本先生
血漿交換は全く問題なく行える方もいらっしゃいますが、中には佐藤さんのようにアレルギー反応を起こす方もいらっしゃいます。