臓器移植の現場から シリーズ2回目では、「献腎移植希望登録者として気を付けておくべきこと」についてお話ししました。今回は、「献腎移植の候補になった場合の実際の流れ」について、お話ししたいと思います。

「○○病院 脳外科の○○です。臓器提供を希望している患者さんがいらっしゃいます」
という1本の電話から、献腎は始まります。

「患者さんの状況をうかがってもよろしいですか?年齢は…原疾患は…入院したのはいつですか?今の血圧は?…」といったことを聞き、献腎の適応があるかどうかを私たちコーディネーター(以下Co)が確認します。
電話で情報収集した段階で、献腎ドナーの適応があり、患者家族がCoとの面談を希望している場合、病院に向かいます。Coから家族に献腎について説明し、家族の総意で献腎についての意思決定がなされます。臓器摘出承諾書を作成したら、移植患者の選定に関わるHLA(組織適合性:白血球の型)や感染症などの検査のための採血を行います。検体が検査センターに届いてからHLAの結果が出るまでには4~6時間かかります。
HLAの結果が出たら、日本臓器移植ネットワークのレシピエント(移植者)選定用のコンピュータに入力します。必要事項を入力し、「適合者検索」のボタンを押すと、腎臓移植希望者選択基準に従って(詳細は連載第1回をご覧ください)、移植候補者の一覧が印刷されます。その順位に従って、1位から連絡(移植を受ける意思の確認)を始めます(地域によっては、移植施設経由で候補者に連絡するところもあります。以下の話は、ある地域の例として、Coから候補者に直接連絡をする場合と理解してください)。

1位候補者の登録情報から、自宅や携帯電話の番号を確認し、また今は透析の時間かどうか(もし、透析の時間帯であれば、透析施設に電話をかけると確実につながります)などを確認します。
7月○日 日曜日の午後1時です。この時間帯ならば、自宅にまずかけてみます。1位候補者は50歳代の男性です。


「臓器移植ネットワークの朝居と申します。Aさんのお宅でしょうか?Aさんはご在宅でしょうか?」
「主人は家にいますが、何のご用件でしょうか?」とちょっと怪訝そうに奥様に言われました。「臓器移植ネットワーク」と言われても、登録して10年以上もたって初めて連絡が来るのであれば、「どこのだれ?」と思われても不思議はありません。
「今、ご主人さまが腎臓移植の候補に挙がられていまして、移植を受けるお気持ちがあるかどうか、ご本人に確認させていただきたくて…」
「あ、そうなんですか!今、代わります。おとうさん~、おとうさん~~、移植だって~~」
バタバタとあわてる足音がして、ご本人が電話口に出られました。
「Aさんですか?」
「はい、そうです」
「献腎移植の登録をされていますよね?」
「はい」
「今、実際に移植の候補に挙がられていまして、移植を受けるお気持ちがあるかどうかの確認なんですけれども…」
「え、そうなんですか。…タイミングが悪いなあ~。今、会社で新規の事業が立ち上がったばかりで、休むことができないんです。移植になると職場復帰まで数カ月かかるんですよね?」
「そうですね。人によりけりですけど、退院までに1~2カ月、その後少し経ってからということになれば、復職までに数カ月は見ておく必要がありますね」
「うーん…今回は残念ですけど、見送ります。連絡が来たということは、チャンスが近づいてきたということですよね?」
「そうですね。Aさんの場合、待機期間が16年なので、今後適合するドナーが出れば、当たる可能性も高いと思いますよ」
「これまで一度も連絡がなかったから、毎年、更新は続けていたけど現実味がなくて…。でも、今日連絡をもらって、なんだか希望がわいてきました。今はとてもタイミングが悪くて、ダメだけど」
「じゃあ、今回は仕事が休めなくて辞退ということで」
「はい。あ、でも、今回断ったら、順位が下がること、ありますか?」
「ないですよ。辞退したことが次の機会に影響することはありません。では、次の機会までお大事にお過ごしください」
といって、電話を切りました。


「1位辞退です」と、一緒に候補者への連絡をしているCoに伝えます。上位が辞退すると順位が1つずつ繰り上がるので、2位候補者に連絡しているCoは、その人が1位になったということを理解します。


さて、私は別の候補者に連絡を始めます。この方は、自宅の固定電話がなく、携帯電話番号だけが登録されています。30歳代の女性です。
「Bさんでしょうか?」
「はい」
「臓器移植ネットワークの朝居と申します。今、お話ししてもよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「今、移植の候補に挙がられていますが、移植を受けるお気持ちはありますか?」
「ええっっ?!本当ですか?」
「ええ、本当です」
「今すぐですか??」
「移植自体は、まだ腎臓の提供が終わっていないので、すぐではありませんが、移植を希望されるなら、クロスマッチという拒絶反応が起こるかどうかを確認する検査を透析施設で採血した血液で行います。それが陰性であれば、Bさんに移植病院に来ていただいて移植前の精査をすることになると思います」
「あ~~、もう、ぜひ受けたいです」
「じゃあ、希望ということで。確認させていただきたいことがありますが、透析施設での採血が今年の6月ですが、その後に輸血はありますか?」
「ないです」(注:クロスマッチ用検体採取後に輸血歴があると、その検体は使えないので、再採血が必要になります)
「失礼ですが、女性なのでお尋ねしますが、妊娠はありますか?」(同上の理由)
「ありません。…ああ~~、でも本当に移植ですかぁ。今後どうすればいいですか?」
「クロスマッチの検査を進めて、結果が出るのが今から5時間後くらいだと思います。Bさんの移植の希望病院にも連絡を入れますから、お医者さんからBさんに連絡が入るかもしれないので、携帯はつながるようにしておいてくださいね。今後お出かけの予定とかはありますか?」
「ないです。あっても、近くだけで。今も、スーパーで買い物中だったんです」
「じゃあ、電話を受けられるようにして、次の連絡を待ってくださいね。待っている間に不安や疑問とかがあれば、いつでもこちらにかけてくださいね。番号は052-××です。ところで、体調は問題ないですか?」
「はい、大丈夫です。透析もすごく順調です」
「それは良かったです。じゃあ、次の連絡待ちということで、落ち着いて過ごしてくださいね」
「はい、わかりました。ありがとうございます!」

移植の候補にあがって最初の連絡は、こんな感じで行われます。この後、クロスマッチの結果で候補を2人に絞り(腎臓が2つ提供される場合)、候補者は移植病院に行き、術前の精査を受けます。術前の精査で問題がなければ、ドナー予定者の状態によっては入院待機、またはいったん帰宅して自宅待機となります。(図1:「献腎移植までの流れ」)
脳死での献腎であれば臓器摘出の予定が立っていますので、この意思確認の連絡の通常1~2日後には移植になりますが、心停止後の献腎の場合は、ドナー予定者の容態によっては移植が数日後のこともあれば、数週間後になることもあります。
逆に、移植候補者への連絡の前に腎摘出が終わっている場合もあります。この場合は、とても急ぎます。腎臓の保存時間は24時間がリミットなので、早く候補者を見つけて移植しないといけません。たとえば、一定時間連絡し続けてもどうしても連絡がつかない場合は、候補から外されることもあります(連載第2回参照)

流れ

さて、私が連絡した30歳代の女性は、クロスマッチも陰性で、移植病院での術前精査も問題なく、入院待機をして4日目に献腎移植を受けられました。移植後1週間で透析を離脱され、1カ月半で退院されました。今では週1回、元気に外来通院されています。


「献腎移植を受ける/受けない」の意思決定では、迷いが生じる方も多くいらっしゃいます。移植の機会が圧倒的に少ないので、断ったら次はいつになるのだろうか。もしかしてこれが最初で最後のチャンスかもしれない。でも今透析がとても順調なので、移植して必ずうまくいくのだろうか。新たなリスクも怖い、等々、様々な思いを抱くことでしょう。
移植候補者に連絡したとき、「どうしよう、どうしよう…」と迷う方と長電話になることもあります。家族と相談して、移植医から移植のメリットデメリットも聞いて、本人が最終判断するしかなく、私はその方の迷う気持ちに添って話を聞くことしかできないのですが、突然の電話での戸惑いも話をゆっくり聞くことで落ち着いてこられることもあります。
移植の電話はある日突然来る。そんな覚悟と日頃の準備(連載第2回参照)をしておくことは本当に大事だと思います。


さて、次回は、献腎されるドナーのご家族の思いについてお話ししたいと思います。
献腎移植は、腎臓を提供される方とそのご家族の存在なくしては成立しません。移植を待つ方に提供される方たちの思いを理解していただきたい、というのは私の切なる願いです。