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森田 研先生 コラム

2019年2月に3日間の日程で行われた第52回日本臨床腎移植学会にて、興味深い講演がございましたのでレポート致します。

第52回 日本臨床腎移植学会報告【1】
特別講演3「どこまできたのか 腎臓再生医療」
東京慈恵会医科大学 腎臓・高血圧内科 横尾 隆先生

第52回日本臨床腎移植学会


■iPS細胞樹立に端を発した再生医療研究

わが国でiPS細胞が樹立されたことをきっかけに始まった再生医療研究も10年が経過し、重度心不全(心筋シートによる治療)・パーキンソン病・血小板輸血・角膜・脊髄再生など、臨床応用が現実になったものが出てきました。
腎臓については、再生医療が可能になれば、透析や移植といった現在の治療法に取って代わる画期的な治療になると期待される一方で、血管・糸球体・尿細管・腎盂・尿管、といった性質の異なる複数の組織をどのようにして複合し、形成するのかが難しく、最も再生が困難な臓器とされてきました。
それらの組織を個別にiPS細胞から形成することは可能になりましたが、横尾先生のグループはこの10年間、糸球体や尿細管が立体構造を取って1つのネフロン(腎単位)になり、それが約100万個集合した腎臓を再生し、かつ尿を集めて尿管に流していく尿路組織を同時に作って複合させる、という大変困難な研究に日本医療研究開発機構(AMED)で取り組んでこられました。

本当にそのようなことが可能なのか、どうやってそれを実現するのか、会場の聴衆が固唾を飲んで講演に聞き入りました。横尾先生の研究をバックアップされている座長の相川厚先生が、「横尾先生は困難な場面に直面すると、それをバイパスする道を賢く探し当てて進んでいかれている」という紹介をされ、特別講演が始まりました。以前にも横尾先生の講演内容をレポートしたように、腎臓再生の困難さは知っておりましたので、その研究がどこまで進んでいるのか、最先端の報告に聞き入りました。
「ここまできた腎臓の再生」第49回日本臨床腎移植学会レポート(2016年5月)


■腎臓再生までの道のり

横尾先生は、腎臓の複数の組織を同時に形成するという困難な壁を、私たちヒトの腎臓形成の過程に立ち返って考えました。私たちの複雑な身体も、元はと言えばたった1つの受精卵が分裂を繰り返して出来てきます。腎臓(ネフロンの集合)と、尿路系の部分は別に作られて、お互いを刺激しながら最終的には繋がり、腎尿路になります。先生はその形成過程に注目して研究を進められ、2017年11月にはラットによる腎臓再生に成功、その後、ヒトサイズの腎臓を作成するための実験を立ち上げられました。遺伝子操作したブタの胎仔内にある尿路系の元になる尿管芽※1と呼ばれる組織に、透析患者さんのiPS細胞から作製した腎前駆細胞を打ち込んで腎臓への再生を促しながら、クローンブタの腹部にある大網という血流の豊富な脂肪組織のゆりかごで生体内培養します。すると一定期間経過後に、腎臓組織が出来てきます。腎臓組織と大網の間には液が溜まり、それは尿の成分であることが確認されました。
最終的には、薬剤によってブタ由来の細胞を消滅させ、患者さん由来の細胞だけを残すところまで成功しましたが、ここでもまた、溜まった尿をどうやって排出するのか、という壁にぶつかりました。
※尿管芽:腎臓の前駆細胞の1つで、将来、尿の排泄路である集合管や下部尿路系などに分化する。

そこで、横尾先生らは、ヒト胎児において腎臓だけでなく尿排泄経路を一緒に作っていく過程を、丸ごと豚の大網の中で再生させることを考えました。ネフロン前駆細胞だけではなく腎臓、尿管、尿排泄腔までを、ひとかたまりで再生させるのです。できるだけこれをヒトに近い組織で可能にするため、新世界ザルの一種であるマーモセット(頭胴長20~25cmの小型のサル)で実験を行い、実際に腹部に腎尿路・排泄腔が形成されることを実現しました。それを、あとはヒトの大網の中で生体培養する方法に移行することができれば、夢の治療が現実になるのです。

実際にヒトに応用するためには、動物の種による違いを乗り越えられるか、という問題もあるため、患者さん由来の細胞を残して動物の細胞だけを消滅させる薬剤を、できるだけ害のない薬剤へ変更(ジフテリア毒素からタモキシフェンに変更)したり、動物種の差による拒絶反応を抑えるための免疫抑制薬をヒトと同じ薬剤を使用できるよう、アカゲザル(頭胴長47~64cmのサル)で同様の実験が行われています。
動物実験においては、両側の腎臓を摘出して、再生医療で作製したネフロン前駆細胞と尿排泄腔を大網に植えつけ、一定期間経過後、成熟した腎臓にその動物の元々の尿管を繋ぐ手術を行い、尿が生成されてオシッコとして排泄されるところまで成功しており、その様子をテレビ局が数カ月に渡って取材したことがあるそうです。実験経過の取材を通じて、本当に再生が可能なことを目の当たりにした取材スタッフの驚きは大変なものだったそうです。


■臨床応用に向けて

腎臓の再生医療は臨床応用の直前まで来ていると実感させられる大変なインパクトがある内容です。あとは、これをどうやって人間に対する通常の医療として実現するか、です。透析を受けている患者さん個々のiPS細胞は、血液を採取して作ることができますが、iPS研究所のライブラリーから患者さんの遺伝子に合わせて供給する方法も考えられます。
また、いったん大網の中に再生臓器を植え付ける手術を行い、臓器ができた段階で尿管と繋ぐ手術をするといった一連の手術・治療に、どれくらいの費用がかかるのか、についても試算が始まっており、それには30億円ほどの設備投資が必要なようです。そのような問題に対しても解決策を模索されていました。製薬会社や医療関連企業が持っている施設を借用して、腎細胞センター・腎臓再生センターとして整備する。そのほか、法律の整備も必要です。
動物の体内で培養した組織を人間に移植して良いかどうかという問題は、国内ではまだ抵抗があるようですが、すでに欧米諸国では再生医療における動物からのウイルス感染の確率や安全性を政府が保証して法整備を進めている、ということが紹介されていました。
理化学研究所で臨床応用が開始された網膜のiPS細胞による再生医療は、これらの法整備に4年の歳月を要しています。腎不全で透析を余儀なくされている方々の生命予後を改善するために、日本でも法律で再生医療を認める準備を早急に開始すべきです。
いまや再生医療の臨床応用件数は、中国や米国はすでに日本の20倍以上となっており、ここでもわが国の法律・社会的環境整備が遅れている感があります。そのための解決策も横尾先生は用意していました。iPS細胞によって、多くの臓器不全を治療するための国家プロジェクトを主宰している山中伸弥先生(ノーベル賞受賞者)と対談を行い、増加している慢性腎臓病患者を再生医療によって治療することは、患者さんの生存率を上げることに繋がるのだ、ということを政府に訴え、研究予算を確保していくことも、ロビー活動として重要な仕事であると結ばれて、講演を終えられました。

最後に、数多くのメンバーによる貴重なチームワークがあるからこそ、日々の腎臓内科の診療と並行しながら研究を続けてこられているということで、さまざまな分野の専門家集団である研究チームのメンバーを写真で紹介されていました。


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