東京医科大学八王子医療センター レシピエントインタビュー第4回目は、約6年前に奥様がドナーとなり、生体腎移植を受けられた串田泰宏さんです。串田さんはこれまで、糖尿病の合併症による目の手術から始まり、移植手術も含めて合計25回の入院を経験され、多くの厳しい状況を乗り越えてこられました。とても元気で豪快な串田さんと、串田さんを支えてこられた明るい奥様から、たくさんの楽しいお話をお聞きすることができました。

串田さんが移植を受けるまでの経緯

  • 1999年12月(37歳) 糖尿病のため眼科診療と内分泌科診療開始
  • 2006年5月(44歳) 腹膜透析導入
  • 2008年8月(46歳) 血液透析に変更
  • 2008年12月(46歳) 生体腎移植手術

糖尿病の発症

病状が出始める前から、病状が出始め移植手術に至るまでの経緯について教えてください。

串田さん

串田さん
20歳くらいまでは、特に大きな病気にかかったこともありませんでしたが、社会人になってからは、少しずつ体のだるさを感じるようになり、目がかすむようになりました。会社の健康診断で異常が見つかっていたのですが、仕事も忙しかったため、10年以上病院には行きませんでした。
37歳になってようやく、糖尿病で眼科に通院していた弟から、一度診察を受けることを勧められ、眼科に通院するようになり、その後、内分泌科の診察も受けるようになりました。既にHbA1c(ヘモグロビンA1c)※ はかなり高く、12.0%くらいありました。39歳ごろには、白内障(両目)や網膜症などで何度か手術を繰り返し、十二指腸潰瘍の手術も受けました。
42歳ごろになると、むくみなどの腎不全の症状が出始め、44歳の時に腹膜透析導入となり、その2年後には血液透析に変更しました。そして血液透析を開始した4カ月後に生体腎移植手術を受けました。

※ 赤血球の中にある酸素を運ぶヘモグロビンに血液中の糖が結合したもの。過去1~2カ月間の平均血糖値を表す。正常値は、NGSP値(国際基準値)6.2%以下。

移植に関しての情報や知識は、いつ、どのようにして得たのですか。

串田さん
腹膜透析導入の前とシャント手術の際に、先生から移植の話をお聞きしたことはありました。ただ、この病気になったのは自分の責任ですし、ましてや、健康な妻にドナーになってもらってまで移植をしたいとは思いませんでした。「透析導入して、自分が我慢すればいい」と考えていました。

奥様は、ご主人が腎不全と診断された時、腎移植についてどの程度ご存知でしたか。

奥様(ドナー)
主人が腎不全だと分かった時には、「目の合併症から始まって、まさか腎臓まで…」という気持ちでした。その頃は移植に関して全く知識がありませんでした。腹膜透析導入の際に、先生から、「移植を考えてみたらどうですか?」と軽い感じで言われたことがあったのですが、当時はそこまで真剣に考えていませんでした。主人には、「私がドナーになってもいいよ」と言っていましたが、なかなか首を縦に振りませんでしたので、移植の話は無くなり、腹膜透析導入となりました。


妻の愛情

移植手術を受けようと思ったきっかけを教えてください。

串田さん
腹膜透析を開始してから2年くらいたつと、老廃物の除去が不十分となり、週1回の血液透析を併用することになりました。シャントは作ったのですが、私は血管がとても細いので穿刺がうまくできず、毎回、動脈を探して穿刺をしなければなりませんでした。動脈を見つけるのが難しいので、何回も針を刺され、かなり痛かったですね。内出血による青あざがそこら中にできていました。透析が終わって22時ごろに帰宅すると、毎回ヘトヘトになっていました。透析を受けながら仕事もしていましたが、尿毒症のせいか、だるくて、常に「横になっていたい」という気持ちでした。
そんな私の様子を見ていた妻から、「もう、見ていられないし、移植しよう」という話がありました。


奥様
当時、主人は時間さえあれば横になっていましたね。本人もきつかったでしょうし、私も主人を見ているのがつらかったので、「移植をして、そのような状態から解放してあげたい」という気持ちになっていました。

透析導入当初は、「移植はしない」と言っていたご主人も、その頃には移植をする方向で考えていたのでしょうか。

串田さん奥様

奥様
そうですね。私が、「もう残っている手段は、移植しかないのだから、やっちゃおう、やっちゃおう」と軽いノリで話を進めていましたので(笑)、その流れに押されて、主人も、「移植を考えてみようか」という気持ちになっていたと思います。

その後、検査を受けて、ドナーになれると分かった時はどのような気持ちでしたか。また、ドナーになることへの不安はありませんでしたか。

奥様
ドナーになれると聞いた時はとてもうれしかったです。不安や心配は全くありませんでした。

串田さんは、移植手術を受けるに際し、奥様とどのようなお話をされましたか。

串田さん
妻とは、事あるごとに移植について話し合っていました。実際に移植を検討し始めてからも、私自身は目の手術から始まり、さまざまな手術を何十回も受けているので、妻に対し、「手術は痛いんだよ、だから移植手術もそんな簡単な話じゃないんだよ」という話をしたのですが、妻は、「私は、子どもを2人産んでるのよ。そんな手術、屁でもないわよ(笑)。」と言っていました。

移植手術が決まってから、実際の手術までの期間はどのくらいでしたか。

串田さん
移植の話が出てから4カ月くらいでした。