3生体腎移植の流れ
1. 生体腎移植の流れ
生体腎移植を希望する場合の、流れを教えてください。
6親等以内の血族・配偶者・3親等以内の姻族内にドナー(臓器を提供する人)候補者がいる場合、ドナー候補者とレシピエント(臓器移植を受ける人)の適合性を調べるために、組織適合性検査などを行い、詳しい諸検査によって手術の可否を判断します。一般的には初診から移植手術実施までには2~3カ月程度の時間が必要です。
透析をしないで、腎移植をすることができますか?
透析導入前でも腎移植を受けることは可能です。これを先行的腎移植とよびます。先行的腎移植は、透析を経てから移植する場合と比較して、生着率や生存率がよいとされています。また、透析をする場合でも、その期間が少しでも短い方が合併症は少なくなります。最近は腎移植の40~50%がこの先行的腎移植となっています*1。
*1 日本臨床腎移植学会・日本移植学会 腎移植臨床登録集計報告(2023)「移植」Vol.58,No.3
ドナーとレシピエントには、どのような検査が必要ですか?
組織適合性検査の後、下記のような他科の受診や各種検査を受けていただきます。ドナーは下記以外にも、必要に応じて全身の検査を行う必要がある場合もあります。
<レシピエントの検査(一例)>
・ 採血・再尿検査
・ 組織適合性検査(HLAタイピング、リンパ球交差試験など)
・ 生理機能検査(心電図、呼吸機能検査)
・ 感染症検査(肝炎、サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)
・ 画像検査(X線、CT、膀胱造影、上部消化管内視鏡検査など)
・ 管理栄養士による栄養指導 など
<ドナーの検査(一例)>
・ 採血・再尿検査
・ 組織適合性検査(HLAタイピング、リンパ球交差試験など)
・ 生理機能検査(心電図、呼吸機能検査)
・ 感染症検査(肝炎、サイトメガロウイルス、EBウイルスなど)
・ 画像検査(X線、CT、腹部超音波、腎動態シンチグラフィー、上部消化管内視鏡検査など)
・ 管理栄養士による栄養指導
・ 精神科受診 など
2. 生体腎移植ドナーについて
生体腎移植ドナーになるためには、どのような条件がありますか?
生体腎移植においてドナーになれるのは、親族(6親等内の血族、配偶者と3親等内の姻族)で、自らの意思で腎臓の提供を希望されている方であり、提供に強制、および金銭その他の金品の授受がないことが大原則となります。
ドナーの適応基準は下記の通りとなります。
<腎臓提供者(ドナー)適応基準>
1.以下の疾患または状態を伴わないこと
・全身性の活動性感染症
・HIV抗体陽性
・クロイツフェルト・ヤコブ病
・悪性腫瘍(原発性脳腫瘍及び治癒したと考えられるものを除く)
2.以下の疾患または状態が存在する場合は、慎重に適応を決定する
a. 器質的腎疾患の存在
b. 70歳以上
3.腎機能が良好であること
日本移植学会「生体腎移植ガイドライン」2008年
血液型(ABO)が違っても、ドナーになることができますか?
血液型(ABO)が違っても、腎移植を行うことができます。その成績も非常に良好です。
ドナーとレシピエントの関係において、血液型(ABO)は下記表のように「適合(一致)」「適合(不一致)」「不適合」に分類されます。
血液型不適合移植の場合は、レシピエントの血液中に持っている自分以外の血液型に対する抗体が、移植された腎臓に標識されているドナーの血液型抗原に結合反応することで拒絶反応が生じます。そのため、移植手術前にレシピエントの血液型抗体量を少なくする処置(血液浄化療法による抗体の除去、免疫抑制薬による脱感作療法)を行うことにより、ドナーとレシピエントの血液型が違っても腎移植が可能となっています。
HLAとは何ですか?HLA不適合でも腎移植はできますか?
HLA不適合でも腎移植はできます。その成績も非常に良好です。
HLA(Human Leukocyte Antigen)とは日本語では「ヒト白血球抗原」といい、両親から遺伝的に受け継がれる白血球の型のことです。HLAは一対となっており、両親からその半分ずつを受け継ぐため、子供同士では4つの組み合わせがあり、兄弟姉妹間では4分の1の確率でHLA型がすべて一致します。しかし、他人同士でHLAの型がすべて一致する確率は、数百人から数万人に1人となり、極めて低いです。
HLAの不一致数の少ない方が腎移植の成績はよいとされていますが、現在では免疫抑制薬の進歩により、HLA不一致数が多い場合でも、一致しているケースと遜色ない生着率が得られるようになっています。なお、腎移植では、A、B、DRの適合性が重視されています。
ドナーは、腎臓が1つになっても大丈夫ですか?
腎臓が1つになると、腎機能は約2〜3割程度低下するといわれています。生体腎ドナーの腎提供後の生存率や健康状態の変化に関しては、世界中でさまざまな研究が行われてきました。
その結果、生体腎ドナーの生存率や腎機能は、一般人と比較して差が無いとする報告1)がある一方、生体腎ドナーの適応基準を満たす健康な一般人と比較して、一定のリスクがあるとする海外での報告2)3)もあり、腎提供後の長期フォローアップが国内外で重要視されています。
ただ、日本においては、諸外国に比較して職場健診も含めた健康管理が行き届いており、肥満、喫煙率などが低いことを考えると、生体腎移植ドナーとして腎臓提供後、腎機能が悪化して透析になる可能性や、寿命が短くなる可能性は低いのではないかと推察されます。
腎提供後は、最低1年に1回はドナー外来を受診し、長期にわたって腎機能や全身のチェックを受けていただくようにしています。
1)Ibrahim et al, N Engl J Med 2009;360:459-69.
2)Muzaale AD. et al, JAMA. 2014 Feb 12;311(6):579-86.
3) Mjøen G,et al, Kidney Int 2014;86(1):162-167
監修:湘南鎌倉総合病院 腎移植・ロボット手術センター長 泌尿器科 統括部長 田邉一成先生(情報更新:2024年3月)