平成27年2月4日から6日にかけて、名古屋にて開催されました臨床腎移植学会は、「賢腎移植への架け橋」というテーマで行われました。その本会前日に、東邦大学の相川厚先生と名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生の司会で、内科医が腎移植において果たすべき役割について議論が行われました。講師は国内各地で活躍する4名の腎臓内科医と、イタリアから招請された先生でした。聴講した内容と学会プログラムを元にレポートします。
※このレポートは2回に分けて掲載いたします。

第48回日本臨床腎移植学会 プレコングレスワークショップ
「長期生着を目指す上で、今、目を向けるべきこと -内科医の挑戦-」

■opening/オープニング
まず司会の後藤先生より、開催提言がありました。腎移植後の成績が改善され、今や10年後の生存率が90%以上、生着率が85%以上を達成できる時代になりました。数値が100%に近づいてきているため、これ以上の改善を求めるのは限界があり、今後は腎移植の適応を広げる時代になってきている、ということでした。
腎移植は、安全に実施するための検査をして、選ばれた人たちだけのために行う治療から、高齢化時代や糖尿病の増加を受けて、より困難とされてきたような条件でも移植ができるように工夫する時代になってきています。その条件には、高齢や糖尿病の他に、重い心血管系合併症や発癌リスク、抗HLA抗体を有する免疫学的ハイリスクや感染症のハイリスクが含まれます。日本の透析技術は世界一優秀ですので、それを凌ぐような安全性が、今後の腎移植に求められます。
このワークショップでは、「リスクの高い患者さんに安全な腎移植を提供するためにはどうしたら良いか」という問いに対して検討が加えられました。後藤先生は、「腎移植前の管理の仕方が、腎移植後の成績を決めると言っても過言ではない」と述べていました。

移植前のワクチン接種について(聖路加国際病院 長浜正彦先生)

腎臓内科が腎移植前の管理に果たすべき役割の一つである、各種感染症予防のための移植前のワクチン接種の実際についての講演でした。
日本人を始めとするアジア人に多いB型肝炎ウイルスは、ウイルスの活動性が高いと肝癌を発生させる危険なウイルスです。諸外国ではすでに、出生後の抗体検査で抗体が無い人にはワクチンを投与して抗体を獲得させ、肝癌を予防することが行われています。
日本でも今後は必須の予防接種として、検査・投与が行われることになるようですが、移植患者さんの抗体保有率はまだ半分程度であり、免疫抑制を始める前に抗体を保有しておくことが望ましいところです。病院に勤務する職員は、このB型肝炎ウイルスの感染を予防するために、抗体が無い職員はワクチン接種が必須になっておりますが、B型肝炎ワクチンは接種してもなかなか抗体が出来ない場合があります。従って、腎移植を予定される場合は、早くから調べて準備をすることが望ましいとされています。もちろん抗体が出来なくても移植を諦める必要はありませんが、可能であれば免疫抑制剤を使う前にワクチンを接種したいところです。免疫抑制剤の影響でワクチンによる抗体獲得率が数パーセント下がるからです。また、移植後には投与できない小児ウイルス感染症(後述)のワクチンを必要に応じて移植前に接種しておくだけでなく、移植後も接種できる肺炎球菌ワクチンやインフルエンザワクチンについても、移植前に準備ができるよう、腎機能悪化の早い段階から、腎臓内科がこれらのウイルス感染対策に関われるようにすることが重要であるとお話しされていました。


腎移植手術前後の感染症対策 (聖マリアンナ医科大学 谷澤雅彦先生)

ドナー、レシピエントの術前感染症検査項目と抗体陰性の場合の対策について、ならびに前述の小児ウイルス感染症に対する予防策の実際についての講演でした。
免疫抑制剤を内服することになるレシピエントは、移植後は、生ワクチンと呼ばれる生きたウイルスを含むワクチンを接種することができません。従って、小児ウイルス感染症(麻疹、風疹、水痘、おたふくかぜウイルス)の抗体検査をあらかじめ行っておき、抗体陰性の場合は移植前にワクチンを接種しておくことが必要です。なかでも水痘とおたふくかぜのワクチンは、麻疹、風疹などに比べて、接種しても抗体ができにくい傾向があるため、早めの対応が必要です。B型肝炎ウイルスも抗体の量が低ければ、ワクチンを追加投与するべきであるようです。
そのほか、若年女性に対する子宮がん予防のためのHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン投与や、結核、サイトメガロウイルスの検査と対策についても提案がありました。また、ウイルスだけでなく長期間の生命予後に影響する細菌感染予防も重要であることが説明されました。

解説・文責:北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生