平成27年6月26日から28日にかけて横浜にて開催されました、日本透析医学会 学術集会・総会にて、透析を経ないで腎移植を行う「先行的腎移植(PEKT)」の現状と課題についてのシンポジウムが行われましたので、その講演内容と討論について、北海道大学の森田研先生にご解説いただきます。
※レポートの1回目はこちらからご確認ください。

第60回 日本透析医学会 学術集会・総会 シンポジウム6 
「透析医でもある移植医からみた先行的腎移植(PEKT)」

「長崎大学における先行的腎移植の現状」 長崎大学 錦戸雅春先生

長崎県でも、腎機能がかなり悪化するまで症状が出ず、腎臓病専門医への紹介が遅れ、腎機能がGFR 10ml/min以下に落ちた段階で移植を検討して紹介されてくる患者さんが相当数おられるそうです。このような場合、移植の紹介を受けてから実際の移植手術までの日数を調査すると、結果的に中央値166日で移植に至っていました。透析をすでに行っている場合の紹介から移植手術までの期間は中央値228日となっていますので、透析をしていた方が比較的ゆっくりと移植手術に向けての精査が可能という印象があるようです。PEKTを検討する場合は、移植までの精査のために一定の期間が必要であることを前もって考える必要があります。
未透析でPEKTを希望されて紹介されるケースは40%前後に増加してきているものの、結果的にPEKTで移植できなかった(つまり先に透析を行う判断になった)ケースの原因としては、GFRが低すぎて即透析が必要だった、腎機能がその後急激に悪化した、固有腎結石で摘出が必要だった、ドナーに対するHLA抗体が陽性であることが判明した、扁桃腺摘出が必要だった、などの理由があったそうです。
そのような状況をふまえ、腎不全患者さんを適正なタイミングで紹介していただけるように、県内の研究会でPEKTの最新知識を説明していく時間を作り、紹介元の病院と移植カンファレンスを定期的に行い、医療者間の意識を共有する努力をしているそうです。

「腎移植が浸透しつつある鹿児島県における先行的腎移植」 鹿児島大学 山田保俊先生

鹿児島では2010年からPEKT導入とともに、移植数自体も増加している傾向があります。以前は長期透析後に移植施設へ紹介されることが多かったようですが、PEKT導入で手術の合併症が減り、移植医にとっても取り組みやすくなったことで、移植数が増えるという良い循環になっているようです。今後をふまえ、腎不全医療を行う側の体制整備も必要であり、移植を推進しようという原動力が重要であると述べられていました。
また、PEKTを進めていく際の年金などの医療支援システムの問題や、日本ではPEKTの大部分が生体腎移植であるため、腎移植の準備のための検査を行う期間とともに、提供を考えているドナーの心理的配慮に十分に時間を割いて取り組めるかどうかを考慮すべきだということを強調されていました。このことは、レシピエントの医療を考える上で、ドナーへの配慮を行うという非常に重要な問題であり、他のシンポジストからも賛同する意見が出されていました。
PEKT啓発の具体策としては、「鹿児島市CKD予防プロジェクト」という会合で、PEKTの知識や経験が少ない医療スタッフを集め、情報交換や連携をするようにしているそうです。このような活動を通じて、血清クレアチニン値が 2~3mg/dlの段階で、外来で腎代替療法の治療選択肢を説明し、検討していただくことができるようにするのが理想とのことです。

「九州大学における先行的腎移植の現状」 九州大学 升谷耕介先生

九州大学病院では、2000年代から急激に腎移植数が増加しています。最近は、7~8割がPEKTとなっているとのことで、142人に対して行われたPEKTを分析されました。初診時の血清クレアチニン値は平均6.5mg/dlと高めであり、PEKTを行うのに理想的な紹介時の値とは言えない場合も多いようです。そして紹介状がない場合は特に血清クレアチニン値が高く、多くの患者さんはCKD Stage 5(末期腎不全、GFR 15ml/min以下)になっており、PEKTが間に合わないことが多くなるそうです。PEKTを検討する際には、腎不全の管理をしている主治医に相談し、適切な時期に移植施設に相談することが重要です。
腎不全治療の過程で様々な問題があり、治療がうまくいかない場合の要因としては、腎臓病についての知識不足があげられるため、紹介元となる病院での啓発指導が必要だと考えられるとのことです。
そのための対策として、移植報告会、勉強会を行い、紹介施設との連携を深める活動を医療圏である福岡県と佐賀県で随時行っているそうです。現在、透析導入原因の原疾患の第1位となっている糖尿病性腎症を診療する可能性のある医師への啓発が重要と考えており、糖尿病専門医、循環器専門医らにPEKTの方法があることを知ってもらい、どのCKD stageで腎臓専門医に紹介すべきかなどを説明しています。糖尿病患者数の急激な増加で新規開発薬、技術革新が進んでおり、そのような研究会で糖尿病性腎症治療に関する知識を広げることが重要です。

「自治医科大学附属病院での先行的腎移植およびbridging modality(橋渡しとなる治療法)としての腹膜透析」 自治医科大学 木村貴明先生

自治医科大学腎臓センターが2003年に設立された後、PEKTが増加しており、最近のPEKTの割合は25%になってきているそうです。PEKTの希望で紹介されても、移植予定までに期間を必要とする場合、Bridge(橋渡し)となる腎代替療法として腹膜透析の有効性を検討しています。腎臓センターでは内科医と外科医がすべての腎代替療法に対応しているそうです。その腎臓センターで患者さんへのRRT(腎代替療法)説明を十分に行うために、腎臓病教室を開催し、療法選択について講演会を行っています。教室参加者のCKD stageは 5や4に比べて3の比率が年々増えており、余裕を持って、より時間をかけて療法選択ができるようになってきているそうです。
また、療法選択を理解し実践するメリットとして、腎移植への橋渡しとして腹膜透析を選択する人が増えてきたようです。紹介後、様々な原因(ドナー、レシピエント各々の因子)でPEKTが難しい場合にはPD(腹膜透析)をBridge(橋渡し)として行い、十分に治療と対策を行ってから、腎移植とともに腹膜透析カテーテルを抜去するという選択肢は安全性も高く、移植精査に時間的余裕のないPEKTでは選択すべきオプションであるということでした。

総合討論

PEKTの理想的条件としては、GFR 15 ml/min 前後で紹介されるように啓発活動を行い、紹介後に、炎症所見、SLEなどの注意すべき原疾患が沈静化しているかどうかの判断、冠動脈リスクの正しい判定、精神神経科の十分な術前カウンセリング、自己管理、肥満、疾患理解などのアドヒアランスの確認などに十分に時間をかけて行うことが重要です。ひとりひとりの患者さんの考え方や性格、腎疾患や生活環境などをきちんと評価した上で、PEKTが可能か判断する、という治療方針が望ましいと考えられます。PEKTは生体腎移植が多いため、腎の提供判断におけるドナーの心理的余裕を担保する配慮が必要である、ということを再確認し、シンポジウムの結論としてまとめられました。