腎移植後の外来ではさまざまな検査が行われます。腎移植後に検査値をみる上で知っておくべきことや、移植内科医がどのようなポイントをみているのかについて、名古屋第二赤十字病院の後藤憲彦先生にシリーズで解説していただきます。
第5回目は尿蛋白についてです。

①尿蛋白とは

尿蛋白とは、尿中に含まれるアルブミン※1などの蛋白質成分のことです。通常、アルブミンのような大きい蛋白質は腎臓の糸球体でろ過されることはなく、尿中にはほとんど排泄されません。
しかし、腎臓に障害が起きると、蛋白質が尿中に漏れ出し、尿蛋白が陽性になります。
尿蛋白検査は試験紙や試薬を使って調べる定性検査、尿中に排泄される総蛋白量を調べる定量検査(24時間蓄尿)があります。試験紙による定性検査は主にアルブミンを検出します。これに対して、定量検査はアルブミン尿以外の蛋白尿の有無も評価できます。
24時間蓄尿が難しい場合は、随時尿を利用して、尿蛋白クレアチニン比を測定することにより、1日の尿蛋白の量を推算することができます。尿蛋白クレアチニン比(UP/Cr)は、随時尿中の尿蛋白と、尿中のクレアチニンの濃度比のことです。
尿蛋白クレアチニン比=尿蛋白(㎎/dL)/尿中クレアチニン(㎎/dL)
ただし、この推算値は1日のクレアチニン排泄量を1gと仮定した計算値です。

検査

尿蛋白は、健常者でもわずかに(1日尿で150㎎以下)尿中に排泄されており、通常は30㎎/dL以上で尿蛋白(陽性)と診断されます。

蛋白尿には病的なものと生理的なもの(生理的蛋白尿※2)があり、生理的蛋白尿は健常者でも一過性にみられることがあります。
病的な蛋白尿は、原因によって、1.腎前性(腎臓以外の臓器の障害や感染症、悪性腫瘍などにより、血中に増加した異常蛋白質が尿中に漏出する)、2.腎性(糸球体の障害によって蛋白質:主にアルブミンが尿中に漏出するものと、尿細管の障害によって蛋白質が尿中に漏出するものがある)、3.腎後性(尿管や膀胱、尿道の異常により蛋白質が尿中に排泄される)に分けられます。

※1 アルブミン:血液中の血清(血液が凝固して上ずみにできる淡黄色の液体成分)に最も多く含まれるタンパク質で、血清総タンパク質の60~70%を占める。血液の浸透圧の維持や、種々の物質と結合し、運搬する役割をもつ。
※2 生理的蛋白尿:腎臓自体に障害があるのではなく、一過性あるいは可逆的に蛋白尿がみられる状態。

②尿蛋白の基準範囲(*1)基準範囲は施設によって異なる場合があります。

定性検査:陰性(ー)
定量検査(24時間蓄尿):20~120(㎎/日)以下
定量検査(随時尿) 尿蛋白クレアチニン比 :0.15未満

③腎移植後に尿蛋白をみる上でのポイント

尿蛋白が陽性になった時は、移植腎に何か問題が起きた可能性が高いです。まずは本当に陽性になったかを確認する必要があります。

定性検査は、検査方法が簡便で結果がすぐに出るため、頻回に行う検査としては最適ですが、起立性蛋白尿や、運動などによる生理的影響を受けて陽性になることがあり、また、嘔吐や下痢、水分摂取不足、発熱などの脱水時の濃縮尿では擬陽性になることがあります。
そのため、定性検査で尿蛋白陽性になった時は、随時尿からの尿蛋白クレアチニン比を追加して、本当に蛋白尿が新たに出現しているかどうかを確かめなければいけません。24時間蓄尿からの定量検査も正確な評価ができますが、仕事などで蓄尿がきちんとできない時には、1日尿蛋白定量を評価できません。

定量検査で蛋白尿が陽性になった時は、再発腎炎や慢性の移植腎機能障害を考えます。再発腎炎を疑った時には、移植腎生検が必要です。慢性の移植腎機能障害の要因は、抗ドナー抗体陽性慢性拒絶反応、カルシニューリン阻害薬の毒性、長期生着によるFSGS(巣状糸球体硬化症)様病変などが多いです。抗ドナー抗体陽性慢性拒絶反応やカルシニューリン阻害薬の毒性を疑った時には、移植腎生検により鑑別します。また免疫抑制薬のエベロリムスも蛋白尿陽性となりやすく、その時は減量や中止も考慮します。

最近の免疫抑制薬の進歩により、急性拒絶反応は減少しており、長期移植腎生着のためには、慢性の移植腎障害をいかに抑えるかがポイントとなっています。
クレアチニンの項でも述べましたが、慢性の腎機能変化では、クレアチニンが上昇するより蛋白尿が出現するほうが早いです。そのため、蛋白尿出現時には原因をきちんと調べて、治療ができるものに対しては適切なタイミングで治療をする必要があります。治療後も定量検査で経過をフォローしていくことが大切です。

*1 日本臨床検査標準化協議会「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲案-解説と利用の手引き-2014年3月31日修正版」