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吉田 一成先生 コラム

移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズでご解説いただきます。
第3回目は、腎移植におけるリスクについてです。


Q3.腎移植を受けることでどのようなリスクがありますか?


■透析患者さんの生存率

腎移植は透析により低下した生活の質(QOL)を向上させ、社会復帰を果たすために行われます。透析を長期間行うと、透析合併症のために命を落とす確率(死亡率)が上昇し、生き残る確率(生存率)は減少します。
日本の透析医療の質は非常に高く、透析患者さんの生存率は欧米に比べて格段に良いのですが、日本における透析導入年齢が高齢化しているために、透析導入から5年目、10年目の透析患者さん全体の生存率は、それぞれ60.8%、35.9%とかなり低くなっています(*1)。ただ、透析患者さんの年齢を考慮すると、透析導入に至る疾患により差はあるものの、驚くほど低い数字ではないようです。特に若い透析患者さんの死亡率は決して高くはありません。


■腎移植患者さんの生存率

では、腎移植患者さんの「生存率」はどうでしょうか。日本移植学会の統計によると、生体腎移植では5年目、10年目の生存率はそれぞれ97.2%と92.7%、そして献腎移植ではそれぞれ93.4%と80.8%となっています(*2)

生存率


この数字は透析に比べるとかなり良いのですが、透析導入の平均年齢が69.2歳であるのに比べ、腎移植レシピエントの移植時の平均年齢は、生体腎移植が45.5歳、献腎移植が49.1歳と若いので、単純な比較はできません。1990年以前の生体腎移植の10年目の生存率は81.0%だったので、この20年間で生存率は10%以上も改善されたことになります。腎移植後1年目の生存率は生体腎移植で99.1%、献腎移植では97.8%で、腎移植後すぐに亡くなることはほとんど無いと言えます。とはいえ、「生存率=100%」では無いので、死亡のリスクはほんの少し、ではありますが「ある」のが現実です。

また、時間をかけて十分な準備を行う生体腎移植に比べて、緊急手術となる献腎移植では、死亡の危険性はどうしても高くなってしまいます。特に長年透析を受けておられ、多くの合併症がある患者さんの場合は、心血管系の障害のために重篤な状態に陥ることがあるので要注意です。
透析導入の原疾患として糖尿病(これは血管を悪くする病気です!)が慢性腎炎より多くなってすでに十数年が経っていますし(*3)、高血圧性腎硬化症も増えているので、腎臓が悪くなっている患者さんの心血管系の障害は増加しています。

少し古い海外のデータなので単純に日本とは比較できませんが(海外なのでほとんどが献腎移植です)、腎移植直後の患者さんの心血管系障害のリスクは透析に比べて2.8倍高く、約3カ月で透析と同じになり、生存率も徐々に改善して術後約8カ月後に透析と腎移植が同じになり、その後は腎移植の方が透析に比べて優れるという結果が示されています(*4)


■腎移植後のリスク

慢性腎不全ではすでに免疫力が落ちていると言われており、腎移植に際して免疫抑制療法を行うため、齲歯(うし:虫歯)が重大な感染症を引き起こすこともあり、敗血症になると命の危険性があります。近年は免疫抑制療法が発達して、むしろ免疫抑制が強すぎる可能性が指摘されており、ウイルス感染や真菌(カビ)感染も増加傾向と言われています(*5)。昔に比べて感染症の診断法や治療薬は発達していますが、感染症を侮ると、とんだしっぺ返しを受けます。
また、残念ながら一般の人より、慢性腎不全の患者さんの方が、さらには移植後の患者さんの方ががんの発症率は高いことがわかっています(*6)。さらにがんの発症率は移植後経過年数が長くなればなるほど高くなります(*7)。日本では腎移植後に発生するがんとして、肝臓がん、大腸がん、胃がん、腎がんが多いと言われており、また、最近はリンパ腫が増加しています(*8)
実際、日本移植学会の調査では、2001年~2009年の腎移植レシピエントの死亡原因の上位4つは、感染症(19.4%)、悪性新生物(がんなど)(15.6%)、心疾患(心筋梗塞、心不全など)(14.7%)、脳血管障害(脳梗塞、脳出血など)(6.6%)となっています(*9)。2000年以前に比べると感染症、心疾患、悪性新生物はいずれも増えています。早期発見、早期診断、早期治療が重要です。

レシピエントの死亡原因


また最近、移植腎はきちんと機能しているにもかかわらず、別の原因で亡くなる、DWFG (death with functioning graft)が増加しています(*10)。腎移植後も、代謝障害による動脈硬化が原因で起こる心血管系障害やがんを早期に発見するために、定期的に検診を受けることが大切です。
なお、日本では献腎ドナーによる臓器提供が著しく少なく、献腎移植待機期間が長期になるため、透析合併症による死亡リスクや、献腎移植手術時のリスクが高くなってしまいます。献腎移植を希望して臓器移植ネットワークに登録している待機患者は12,623名(2016年9月30日現在)ですが、これまで献腎移植を待ちながら合併症で死亡した患者数は2015年9月30日現在3,445名となっており、同時期までに献腎移植を受けられた6,352名のほぼ半数となっています。これも大変残念な結果です。


*1 一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会 「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015年12月31日現在):27
*2 日本移植学会 2016臓器移植ファクトブック
*3 一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会 「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2015年12月31日現在):9
*4 N Engl J Med 1999; 341; 1725-1730
*5 Eur J Clin Microbiol Infect Dis 2002 21:173–180
*6 31st Annual ANZDATA Registry Report 2008.
*7 Apel H, et al. Clin Transplant. 2013;27:E30–E36
*8 JSCRT registration report 2010
*9 日本移植学会 2016臓器移植ファクトブック
*10 Ann Transplant 2001; 6(4): 17-20




長期生着のために知っておくべきこと Q&Aシリーズ 掲載内容

① 移植腎はどのくらいもちますか?

② どうしたら移植腎を長持ちさせることができますか?

③ 腎移植を受けることでどのようなリスクがありますか?

④ 移植した腎臓の機能が長続きしないのはなぜ?(次回掲載予定)


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