トップページ  >  移植コラム  >  ドクターコラム  >  腎移植後は糖尿病になりやすいですか?<腎移植後の糖尿病 前編>:長期生着のために知っておくべきこと Q&Aシリーズ⑦

吉田 一成先生 コラム

移植腎の長期生着のために知っておくべきことについて、北里大学病院の吉田一成先生にシリーズで解説していただきます。
第7回目は、移植後の糖尿病についてです。<前編>腎移植後は糖尿病になりやすいですか?、<後編>腎移植後の糖尿病の治療はどうすればいいですか? の2回に分けて解説していただきます。


Q7.腎移植後は糖尿病になりやすいですか?<腎移植後の糖尿病 前編>


■透析導入患者の原疾患 第1位は糖尿病

近年、慢性腎不全の原因として糖尿病(diabetes mellitus,DM)が増加してきており、1998年にはそれまで透析導入患者の原疾患として最多であった慢性糸球体腎炎を抜いて第1位になり、その後も増加の一途をたどっています。2016年の統計では透析導入患者の原疾患の43.2%は糖尿病性腎症で、慢性糸球体腎炎の16.6%を大きく上回っています(*1)

以前は糖尿病から腎不全になった患者さんの予後は非常に悪く、腎移植は無理だと考えられていました。実際、糖尿病患者の腎移植の成績は芳しいものではありませんでした(*2)。しかし、20年前ごろから糖尿病から腎不全となった患者さんに対しても腎移植が行われるようになり、この10年間で、日本では腎移植の約15%が糖尿病患者に行われ(*3)、その成績も向上してきています(*4)


■糖尿病とは

もともと糖尿病(ここでは2型糖尿病)は、インスリン※に対する抵抗性が原因で、血糖(ブドウ糖)が細胞でうまく使われず、血液中に残ってしまうために高血糖になる病気です。
※インスリン:膵臓に存在するランゲルハンス島(膵島)のβ細胞から分泌される、血糖値の恒常性維持に重要なホルモン

そのため、血液中の糖がたんぱく質と結合して種々の血管障害物質をつくり、血管内皮細胞が障害を受け、組織の血流障害を起こします。腎臓は血管の塊であるため、腎障害が進みますし、目の網膜を養っている血管の障害のために視力低下が、そして神経を養っている血管の障害により末梢神経障害が起きます。また、心臓を養っている冠動脈や、脳血管の障害から心筋梗塞や脳梗塞、脳出血を起こして生命が脅かされます。以前は血糖が著しく高くなり、糖尿病ケトアシドーシスという状態を起こして死亡することがありましたが、現在そのようなことは稀で、死亡の原因はほとんどが動脈硬化による合併症です。この合併症は全身の血管が障害されておきますので、先に述べた腎障害、網膜症、末梢神経障害、は糖尿病の三大障害ですし、四肢の血流障害が進めば最終的に四肢の切断に至ることもあります。


説明


ただし、初期の糖尿病はほとんどが無症状のまま進行し、症状が現れる頃にはかなり悪化しているので、普段から定期的な血糖検査などをする必要があります。また、血糖が170mg/dl程度に高くならないと尿糖(尿に糖が出てきて、尿検査でわかる)が陽性にならないので注意が必要です。なお、尿糖が陽性だからといって全てが糖尿病というわけでもありません。


■腎移植後の糖尿病

さて残念ながら、以前にも少し触れたように、腎移植の際に使用する免疫抑制薬は副作用として血糖コントロール障害、高血糖を引き起こします。ステロイド(プレドニンやメドロール)やカルシニューリン阻害薬 (calcineurin inhibitor、CNI)、は腎移植では非常に多く使われますが、副作用としての高血糖、糖尿病、その悪化は無視できないものです(*5)
ステロイドは肝細胞における糖新生作用の亢進、末梢組織のインスリン抵抗性の亢進、さらに中枢神経系を介する食欲亢進によって高血糖を起こしますし、CNI、特にタクロリムスはインスリン分泌を阻害し、インスリンが少なくなるために血糖が上昇します。
腎移植後半年(特に3カ月)は糖尿病の発症が多いのですが、その後はステロイドやタクロリムスの使用量が減るので発症頻度は減少します。その発症率は4~20%と様々ですが、移植3年後では22.3%が糖尿病を発症しているとの報告もあります(*6)
腎移植後の糖尿病のことをPTDM (Post-Transplant Diabetes Mellitus)と言い、移植前から糖尿病だった場合を含みますが、腎移植後に初めて糖尿病を発症したものをNODAT (Newly Onset DM After Transplantation)と分けて言います。

糖尿病の検査としては、尿糖、血糖、HbA1cやglico-albumin (GA)があります。また、血糖検査には空腹時に採血するものや食事後2時間で行うもの、食事の前後など1日で何回か測定するもの、あるいは決まった量の糖分を摂取して、時間ごとに血糖を測る検査(糖負荷試験)(OGTT)もあります。この場合は血中のインスリン量を測ることもあります。
腎移植を受ける患者さんは移植前に移植後の糖尿病の危険性がどのくらいあるかを検査である程度予測しておく必要があります。また、糖尿病から腎不全になってしまった患者さんは移植腎機能を長く温存するために糖尿病を悪化させないよう細心の注意を払う必要があります。


*1 一般社団法人 日本透析医学会 統計調査委員会 「図説 わが国の慢性透析療法の現況(2016年12月31日現在)
*2 Transplant Proc.2012; 44(1): 77-9
*3 日本臨床腎移植学会・腎移植臨床登録集計報告
*4 Transplant Proc.2015; 47(3): 608-11
*5 Transplantation 64: 979, 1997, Am J Transplantation 3:178, 2003 *6 J NEPHROL 2003; 16: 626-634
  Kasiske BL, et al. Am J Transplant. 2003;3:178-85




長期生着のために知っておくべきこと Q&Aシリーズ 掲載予定内容

① 移植腎はどのくらいもちますか?

② どうしたら移植腎を長持ちさせることができますか?

③ 腎移植を受けることでどのようなリスクがありますか?

④ 移植した腎臓の機能が長続きしないのはなぜ?

⑤ 移植後にかかる感染症にはどのようなものがありますか?<前編> 移植手術前~移植手術時

⑤ 移植後にかかる感染症にはどのようなものがありますか?<後編> 移植手術後

⑥ 移植後はがんになりやすいですか?<前編> 腎移植後のがんの発生率

⑥ 移植後はがんになりやすいですか?<後編> 早期発見、早期診断、早期治療のために

⑦ 腎移植後は糖尿病になりやすいですか?<腎移植後の糖尿病 前編>

⑦ 腎移植後の糖尿病の治療はどうすればいいですか?<腎移植後の糖尿病 後編>

⑧ 移植腎機能が悪くなってしまったら?<前編>


お気に入り記事に登録

吉田 一成先生 過去のコラム

この記事を見た人が読んでいるのは