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森田 研先生 コラム

 

 今回からシリーズで、2013年4月25日~28日に札幌市にて開催された、第101回日本泌尿器科学会総会での主な演題について、北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 講師 森田研先生にご紹介・ご解説頂きます。



 2013年4月25日(木)から4日間、札幌市で行われました上記学会で腎移植に関係した講演を聴講致しました。各部門の専門家を招いて行われた企画講演(特別講演やシンポジウムなど)を今回ご紹介致します。毎度のことながら、内容についての解釈や文責は私にあります。事実と違う点がございましたらご容赦下さい。学会のホームページは以下です。プログラム、抄録集が閲覧できます。
第101回 日本泌尿器科学会総会


ハイリスク腎移植(様々な合併症をかかえる方の腎移植について)

【講演内容解説】


 大阪市立大学の仲谷達也教授、東京女子医大の田邉一成教授の司会により行われました。腎移植を待つ患者さんが年々増加していますが、献腎移植はなかなか急には増えないために、待機期間の延長、高齢化が進んでおり、多くの合併症を持つ方々が増えている一方、様々な壁を突破する為の医療技術も進歩しており、ますます困難(ハイリスク)な移植に挑戦するケースが増えています。これらの問題を高感作(他者に対する抗体が過剰に産生され、反応性が高まっている状態のこと)、長期透析、その他の合併症、にわけて、3名の専門家に解説頂きました。


(1)高感作症例に対する腎移植(東京女子医科大学 乾 政志先生)

 移植前の輸血、妊娠、移植歴、などにより形成される抗ドナーHLA抗体は、移植後の腎臓の血管内皮と反応して血栓症を起こすため、移植後早期に腎機能が喪失する原因になります。そのため、予めその抗体価の量がどれぐらいあるかを知っておくことが重要であり、より鋭敏な検査方法が開発されてきています。
 レシピエントの血液中の抗体量を調べる最も詳細な方法として、Luminex 法とMESF法があり、どちらも3000程度がその基準値になります。
 通常、抗体陽性と判断される場合は移植を中止しますが、抗原に対するTリンパ球の反応性や、既存抗体と補体のカスケード反応(各段階の反応生成物が次の段回の反応を活性化することの積み重ねにより全体の反応が増大すること)、抗体を産生する細胞の数、などを抑制する方法が開発されてきています。具体的には、主な免疫抑制療法の強化、血漿交換、血漿吸着、大量免疫グロブリン療法, 新規薬剤であるエクリズマブやリツキシマブ、ボルテゾミブなどで抗体を産生する細胞を消去する方法、などです。我が国では健康保険が適応できない薬剤や、実施が難しい免疫吸着療法もあります。
 このうち大量免疫グロブリン療法の働きについては不明な点も多く、今のところ形質細胞抑制、抗体の中和、補体の抑制、サイトカイン(免疫システムの細胞から分泌されるタンパク質で、特定の細胞に情報伝達をするもの)の中和、抗炎症性サイトカイン作用、などが想定されています。東京女子医大でのプロトコールは、30日前からの免疫抑制剤内服開始、リツキシマブの2回使用、血漿交換を2週間前から3回施行して大量ガンマグロブリン療法を6日間行う、というものです。実際に治療を受けた方の経過紹介では、このように抗体への対策を行っても抗体関連拒絶反応が発生する場合があり、その治療としてステロイドパルス療法と大量ガンマグロブリン療法を4~5回繰り返す必要が出て来ます。移植腎機能が良好に経過しても基本的に免疫抑制は強化されることになるため、それに伴って感染症などの合併症も増え、長期間にわたる治療の覚悟が必要であると感じました。


(2)長期透析患者の腎移植(市立札幌病院 原田 浩先生)

 腎の臓器配分ルールの変更で長期待機患者に対する献腎移植が増えています。長期透析が原因と思われる合併症の実際について解説が行われました。
 症例提示:29年透析後の52歳男性で、これまで2回の腎移植を受けていました。C型肝炎の既往があり、かなり動脈硬化が強い状態でしたが、幸い脊椎手術(破壊性脊椎感染症)、大動脈弁手術、二次性副甲状腺機能亢進症、感染症などの移植後合併症を乗り越えておられました。
 長期透析により、拒絶反応の危険性は上昇し、C型肝炎の罹患、膀胱の萎縮、などの問題があるため、一般的に治療は長期化しやすいと考えられます。動脈硬化は移植によりその進行を止めるところまでが限界であり、心機能は移植で改善する可能性がありますが、心肥大が余りにもひどい場合は改善が難しい場合もあります。これらを防ぐためには透析時代から厳格な水分管理が必要です。
 長期の対策としては、移植前のC型肝炎治療、透析骨症の管理(リンや水分の自己管理が重要)、移植前の副甲状腺機能亢進症の治療、などをしっかり行い、定期的な移植施設への通院、早期の移植検討が重要であります。透析中のカルシウム・リンの値を適正値に管理することは 移植後の感染、拒絶の制圧上も重要です。また、長期透析の場合は移植後も腎臓癌を始めとする発癌に注意が必要になります。


(3)血管系、尿路系以外のその他の合併症に対するマネージメント(大阪市立総合医療センター 浅井 利大先生)

  1)感染症の管理 : 移植までに感染に対する治療が終了していることが必要です。注意すべき感染症としては、結核は9~12ヶ月の長期間治療後、治癒を確認する必要があります。
 B型肝炎ウイルスのキャリアの方はリツキシマブ使用後に肝炎が再発することがあります。
 C型肝炎は出来るだけ移植前に治療しておくことが必要ですが、透析中は治療薬の選択が難しいものがあり、ケースバイケースの対応となります。
 日本ではまだ珍しいHIV関連腎症にて腎不全になった方の移植例が提示されました。HIVの感染があると拒絶反応が多くなりステロイド抵抗性が高くなるようです。ヘルパーTリンパ球が少なくなるため、新しい拒絶反応治療薬であるATGが使用しにくいという問題や、免疫抑制剤の一部とHIV治療薬(ラルテグラビルなど)との相互作用の問題があるようです。

  2)原疾患の問題 : 巣状糸球体硬化症やメサンギウム増殖性腎炎、抗基底膜抗体陽性腎炎(ANCA関連腎炎など)が腎不全の原因疾患の場合は、移植後の再発の面で注意が必要と言われています。
 稀な原因疾患として、血液を凝固させる働きを担う補体のファクターHという部分が欠損する変異を持った溶血性尿毒症症候群が原疾患と考えられる方に対して、腎移植を計画しエクリズマブ投与が検討されたものの、その欠損を修復する根本治療は肝腎移植であるというようなケースもあり、なぜ腎不全になったかを移植前にしっかりと検討することの重要性を感じました。

  3)精神発育遅滞による知能障害 : 自己管理や内服の管理が難しい場合が多いですが、ご家族のサポートが受けられていて、腎臓以外の合併異常に対する問題が解決されれば移植は可能と考えられます。免疫抑制剤のみならず抗痙攣剤の内服管理などが重要になります。

  4)併存疾患の問題 : 糖尿病の合併症は心臓合併症と密接に関連しており注意が必要です。心臓疾患、高度肥満では移植前の透析量、効率が問題になります。
 肥満の方で、心血管系機能が低下していたため、入院によるカロリー制限、減量を行って移植を行った方が紹介されていました。提示されたケースでは移植後の腎機能は良好に推移していますが、急激な減量は皮下脂肪減少で逆に創部感染を起こしやすくなるという報告もあるようです。

  5)高齢者の場合 : 加齢により、感染症や心血管系合併症のリスクが高くなります。シクロスポリンやタクロリムスなどによる腎毒性も出やすく、拒絶反応、感染症、悪性腫瘍などのリスクに特に注意が必要とのことです。移植後経過も若年者に比べて様々な術後合併症が多くなるようです。


 解説・文責:北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生

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