2014年4月24日~27日に神戸市にて開催された、第102回日本泌尿器科学会総会での主な演題について、北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 講師 森田研先生にご紹介・ご解説頂くシリーズの第2回目です。



平成26年4月24日から4日間、神戸において第102回日本泌尿器科学会が開催されました。その中で、腎移植に関係した興味深い講演や企画を選びレポートしました。なお、私の理解不足で発表者の意図した内容と多少異なる解釈や、表現を変えたことによる微妙な違いがあるかもしれません。このレポート内容についての責任は全て私にありますのでご了解ください。

名誉会員企画4 「記銘すべき20世紀の業績」残腎機能とドナーの予後

泌尿器科学会の名誉会員により、将来に残すべき20世紀の医学研究が推薦され、その中で腎臓病関連の講演が行われていたセッションを聴講しました。慶応大学名誉教授の村井 勝先生の司会で行われた二題の講演を紹介致します。

進行性逆流性腎症におけるHyperfiltration theory(過剰濾過の法則)(福岡大学 松岡弘文先生)

1982年に米国ボストンのブリガム病院のブレンナーが発表した、進行性腎疾患に共通するHyperfiltration theory(過剰濾過の法則)は、当時の腎臓病治療に革命的な変化をもたらしました。それまでは食事指導は高タンパク食で行われていましたが、この報告を機に低タンパク食に変更されました。
腎臓の機能が低下してくる原因は様々ですが、腎不全が進むとネフロンと呼ばれる腎臓の構造上の微細構造(糸球体と尿細管を含む腎単位)の数が減ってきます。生体の正常な防御機構として、残った部分が頑張って全体の腎機能を保とうとするのですが、それによりネフロンの負担を増加させてしまい、腎臓の構造破壊が進むという発見でした。
これはどのような腎疾患にも共通して起こる腎不全悪化因子であり、高タンパク食が状況をさらに悪化させることが判りました。その論文では、ラットの腎臓を手術で摘出して、5/6腎摘出モデルを作り、正常のラットと比較したところ、単位あたりの腎臓にかかる負担が増加していました。さらに、この5/6腎摘出モデルに、タンパク食事制限を加えた場合は負担の増加は認めなかったというデータでした。顕微鏡による観察でも、腎臓の糸球体の大きさがこの負担により増大しており、生理的な反応で悪循環が始まり、ますます残った糸球体の硬化、消失が進んで行くという結果でした。
この結果から、腎臓病治療の大転換が起こり、現在では常識となっている低タンパク食が主流となり、また現在では高血圧の治療薬として最も多く用いられているアンギオテンシン系の薬剤が腎不全治療にも使用開始されました。日本ではその後、膀胱尿管逆流症による腎機能低下にこの現象が関与するメカニズムの研究が進み、障害を受けた糸球体では濾過を行う部分の剥離や尿を濾す漏斗となっている部分の癒着が起こり、糸球体の中の毛細血管が毛玉状に延長することが糸球体肥大に繋がるという構造変化が示されています。

生体腎移植ドナーにおける術後20年以上の経過観察(大阪大学 野々村祝夫先生)

生体腎移植ドナーの長期経過観察の報告について紹介されました。まず、1992年にランセットという医学雑誌に発表された米国の論文で、ドナーの術後腎機能をその兄弟姉妹とともに20年追跡した報告がなされました。対象となった生体腎移植は1963年~1970年に行われ、78人のドナーとその兄弟の追跡が行われました。腎機能の総量を示す糸球体濾過量(GFR)は、移植前が平均104 ml/分であったのが、20年後にはドナーで平均83 ml/分になっていましたが、その兄弟も89 ml/分に低下していました。時間的変化に両者に差はありませんでした。調査期間中の死亡例は15人で、そのうち心血管系の病気で亡くなっていた人が最多で7人でした。生体ドナーは、腎提供によって手術直後は普通、30%ぐらいのGFR喪失が起こりますが、その後長期間観察すると、少しずつ前述の生理的代償反応(「過剰濾過の法則」)で改善してきます。
次に、2009年に3698人のドナー追跡データが発表されました。この研究では、多くの生体ドナーを長期間観察すると、中には腎機能が悪化する人が出てきますが、その原因を調べてみると、その生体ドナーの兄弟も、環境などの同じ様な要因で腎機能が悪くなっていく人が多いようです。
2014年、さらに多い人数での検討が行われ、96217人のドナーの調査が行われました。ドナーと比較するために、年齢や性別、健康状態などの条件を合わせた非腎提供者や、条件を合わせていない一般人の追跡も行い、検討されています。腎機能や生命予後の観点ではドナーの方が非腎提供者よりも悪化しますが、条件を合わせていない一般人との比較では、ドナーの方が良好でありました。このように、一般人よりもドナーが腎機能や生存率が良くなる理由は、ドナーは術後に定期的に健康チェックを受ける機会が多くなるから、とされています。条件を合わせた非腎提供者との比較で、心血管合併症(心筋梗塞や動脈硬化など)の発生率を調べると、特に腎機能の低い GFR<70 のドナーで顕著となることが判りましたので、生体ドナーに十分腎機能を残し、ドナーの将来的な腎不全を防ぐためにも、術前のGFRの検査をしっかり行い、GFRが低下している場合は提供することよりも腎機能の精査を検討すべきであると考えられます。

 解説・文責:北海道大学 外科治療分野 腎泌尿器外科学 森田研先生