前回はチーズの基礎についてお話ししました。今回はチーズの分類についてお話しします。

さて、前回のお話で、なんとなくチーズの作り方を理解できたかと思います。それではまず、チーズを分類してみましょう。

1.ナチュラルチーズとプロセスチーズ

チーズは大きくわけて、ナチュラルチーズとプロセスチーズに分類されます。ナチュラルチーズは、原乳の乳(殺菌乳や非殺菌がありましたね)を乳酸菌(天然のものや、のちに添加するものがありましたね)や酵素の働きで発酵させてから固まらせたものです。これが世の中には数千種類あると言われています。乳酸菌、酵素は生きていますので、熟成は進行します。また、以下に示すように、ナチュラルチーズは、硬さによって4つのタイプに分類されます(図1)。
またプロセスチーズは主に非加熱圧縮タイプのナチュラルチーズを粉砕、乳化剤を加え、加熱溶融殺菌し、加工したものです。これらの過程で、すべての微生物は死滅し、酵素も破壊されているので、それ以上変化することがありません。ナチュラルチーズに比べて、安定しているので、当然保存可能な期間も長くなります。 

硬さによるチーズの分類

熟成方法によるチーズの分類

2.ナチュラルチーズの硬さによる分類

ナチュラルチーズは、硬さにより4つに分類されます。

カマンベール

(1)軟質チーズ
水分を多く含んでいるのが特徴で、結果柔らかくなります。熟成はさせないか、短期間であることが多く、熟成させないものはフレッシュチーズと呼ばれます。白カビ(ペニシリウム・カンディダム)で熟成させた白カビタイプ(カマンベールなど)、熟成途中で表面を塩水、塩分の好きなリネンス菌を含んだワインを含ませた塩水で表面のカビを洗いながら熟成させたウオッシュタイプ、山羊の乳を原料にしたシェーブルタイプがあります。

ゴーダチーズ

(2) 半硬質チーズ
しっとりと柔らかいのが特徴です。青カビによる熟成をさせた青カビタイプ、細菌により熟成させたセミハードタイプがあります。有名なゴーダチーズや、マリボーチーズはこれにあたります。なお、これらのチーズが日本のメーカーのチーズに味が似ているのは、日本で馴染みのあるプロセスチーズはその原料がゴーダや、マリボーとなっているからだそうです。保存性は高く、熟成もゆっくり進みます。

エメンタール

(3) 硬質チーズ
半硬質よりさらに水分を少なくしたもので、細菌による熟成がされており、水分量は38%以下となっています。トムとジェリーに出てくる穴の開いたチーズはエメンタールと呼ばれ、この代表です。エメンタールはチーズフォンデューに用いられます。

パルジャミーノ

(4) 超硬質チーズ
さらに水分を少なくしたもので、パルミジャーノ・レッジャーノが有名です。圧縮の他に温度を上げることで、カード内の水分の滲出(しんしゅつ)が促進されて、より硬くなります。保存性が優れており、世界で最も大量に作られるタイプのチーズです。長く熟成させるほど風味が豊かになります。

3.熟成方法による分類

熟成方法によってもチーズを分類することができます。

モッツアレラ

(1) フレッシュタイプ
前述のように、熟成を全くさせていないチーズです。クリームチーズ、カッテージチーズ、モッツァレラチーズがあります。カードではなく、ホエイを凝固させた、リコッタというチーズもあります。

ゴルゴンゾーラ

(2) カビ熟成タイプ
カマンベール、ブリー・ド・モーに代表される白カビによる熟成をさせた白カビタイプ、ロックフォール、スティルトン、ゴルゴンゾーラに代表される青カビタイプがあります。
白カビであるペニシリウム・カンディダムはチーズの表面に繁殖し、タンパクを分解しアンモニアを生成します。この結果カゼインが分解され、チーズは表面から中心に向かって軟化します。白カビは短期間しか活動ができず、アルカリに傾いた部分はアルカリに強いリネンス菌が優勢にあり、褐色斑点ができます。実は、このリネンス菌は日本人になじみのある納豆菌の仲間なのです。リネンス菌による膜の形成は、外部の有害微生物の繁殖を防いでくれます。
また、青カビタイプはグリーンチーズの内部に隙間をつくり、青カビであるペニシリウム・ロックフォルティを繁殖させます。いわゆるブルーチーズです。青カビはリパーゼを酸性し、脂肪を分解しますが、タンパク分解力は白カビより弱く、それほど柔らかくはなりません。
なお、ペニシリウム・ロックフォルティは好気性ですが、熟成の過程で錫箔(すずはく)で表面を覆い空気を遮断する場合や、リネンス菌を繁殖させ、表皮を造ることで空気を遮断させ、ゆっくりと熟成をさせます。

シェーブル

(3) カビ熟成・細菌熟成
前述の山羊の乳を使用したシェーブルチーズ(フランス語で山羊の意味)がこれにあたります。

エメンタール

(4) 細菌熟成
半硬質のゴーダ、マリボー、硬質のエメンタール、エダム、超硬質のパルミージャーノ・レッジャーノがあります。パルミジャーノ・レッジャーノは、日本では、パルメザンチーズの名で知られておりますが、イタリアチーズの王様と呼ばれ、本来の姿は非常に巨大な塊で、熟成期間が5年と長いのが特徴で、この期間に水分が蒸発しきって、硬くなります。

4.チーズを選ぶ目を持たなければならない理由

やっと本題ですが、皆さんは免疫抑制薬を飲んでおります。健常者と比較して、具体的にどの程度、食物からの細菌感染に注意したらいいのかというデータはないと思われますが、健常者でも有害細菌には気をつける必要があると思いますので、移植をされた皆さんも当然敏感にはなるべきです。
さて、チーズの精製の過程で気付いたかと思いますが、チーズは有益な菌(乳酸菌や、ペニシリウム・カンディダム、ペニシリウム・ロックフォルテ、リネンス菌がそうです)の力により動物の乳が熟成したものです。
前述のように、有益な菌に守られたチーズは有害な菌の繁殖から守られているはずですが、強毒な菌の付着、賞味期限の過ぎたものにはやはり注意が必要です。例えば、日本で一般的なプロセスチーズは、加熱溶融殺菌がなされていますので、比較的安全ですし、賞味期限が長いです。でも、チーズの好きな方は、熟成タイプの味がどうしても忘れられないと思います。熟成タイプのチーズを選ぶ際には、まず、原乳が殺菌乳か否かということに注意をしなくてはなりません。日本では非殺菌乳によるチーズの製造は認められておりませんが、輸入品には規制がありません。もちろん、原乳の全てが悪いとはいいませんが、やはり原乳の殺菌処理が食中毒や製造不良のリスクを回避するために有効とされている理由として、非殺菌乳の感染の心配が少なからずあることがあげられます。なお、風味や微妙な味わいは無殺菌乳に軍配があがるようです。
ちなみに前回、殺菌乳では天然の乳酸菌や酵素が死滅しているため、スターターと呼ばれる培養した乳酸菌を後で加え直す必要があることをお話しました。

5.リステリア感染症

リステリア・モノサイトゲネス菌は、自然界に存在し、ヒトに食中毒を発生させる人獣共通感染症菌です。つまり、動物からヒトに、主に食品を介して媒介されます。食肉、牛乳、ナチュラルチーズ、サラダ、スモークサーモンなどの食品が原因となったリステリア症の報告があります。
症状としては、インフルエンザ症状に類似し、高熱、頭痛、嘔吐で始まり、ときに、髄膜炎や敗血症など重症例となり、死亡例もあります。胎児では妊婦から子宮内の胎児に垂直感染をきたすため、流産、早産の原因となることが問題となっております。
移植患者さんも、やはり、非殺菌乳を使用したナチュラルチーズは避けた方が無難だと言わざるを得ません。

まだまだ、チーズの話をしたいのですが、何千種類もあるので、日が暮れてしまいます。MediPressではなくCheezePressになってしまっても困るので、興味ある方は、以下の参考文献、サイトをみて下さい。はまること必至です。

参考文献
1.C.P.A. チーズプロフェッショナル教本2015. C.P.A. 教本委員会編:飛鳥出版, 東京, 2015.
2.チーズブック
3.リステリアによる食中毒