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渡井 至彦先生 コラム

腎移植後3カ月間は外科的合併症や院内感染、免疫抑制薬の服用量も多いため潜在感染症の再燃等、さまざまな合併症が起こりやすい時期です。移植後4カ月以降の維持期になると免疫抑制薬の量は徐々に減少し、移植後6カ月以降は免疫力も回復してきますが、拒絶反応や市中感染症、悪性腫瘍、糖尿病・高血圧等の代謝性疾患など、さまざまな合併症が起こる可能性は残ります。

腎移植後の合併症には手術に関連するものや拒絶反応などがありますが、その他にも免疫抑制薬に関連するものなどがあります。移植後に特に気を付けた方がよい合併症について、シリーズで解説していきます。



腎移植後の合併症 ③肥満


腎移植後の肥満 ポイント
腎移植後の肥満は、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの発症リスクを高め、動脈硬化を進行させ、心血管疾患や脳血管障害などの発症リスクを高めます。また、体重増加によって移植腎への負担が大きくなることにより、移植腎の寿命を縮めてしまいます。移植後は、バランスのよい食事を取り、定期的な運動を行うことによって、肥満を予防または改善しましょう。


現在の日本において、成人のBMIの平均値は男性で23.6、女性で22.5で、肥満の定義とされているBMI25以上の男性の割合は約30%、女性の割合は約20%と報告されています。特に男性の肥満が増加傾向にあるとされています。 加えて腎移植後は、保存期~透析療法中の食事制限からの解放や、味覚の改善、ステロイド薬服用による食欲の亢進など、さまざまな要因によって体重増加を起こしやすくなります。
腎移植後の肥満は、後述するメタボリックシンドロームへと繋がり、脂質異常症、高血圧、糖尿病の発症リスクを高め、動脈硬化を進行させ、狭心症や心筋梗塞などの心血管疾患や、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害の原因となります(*1,2)
また、体重増加によって移植腎への負担が大きくなり、移植腎の寿命を縮めてしまいます。 移植後は適正なエネルギー量を取り、定期的な運動を行って適正体重を維持しましょう。

メタボリックシンドロームにおけるメタボリックドミノという概念
食生活の偏りや運動不足といった生活習慣の揺らぎで、肥満、特に内臓脂肪蓄積(内臓肥満)が生じ、インスリン抵抗性などを引き起し、耐糖能異常・高血圧・脂質異常症を生じるのがメタボリックシンドロームと称されます。
糖尿病を含めた耐糖能異常や高血圧・脂質異常症はお互いに密接な関係になり、糖尿病の治療が高血圧の治療にも繋がる関係を有しています。逆に言うと、肥満・糖尿病・高血圧のすべての疾患に適切な治療を行わなければ、これらの疾患の結果として起きる血管障害・動脈硬化が進行することによって、心不全・認知症・脳卒中・腎不全・末梢血管閉塞症(下肢切断)・失明といった状態を引き起こすことから、それぞれをドミノに唱える概念が提唱されています。

メタボリックドミノ


■腎移植後の目標BMI

BMI(Body Mass Index)とは、肥満度を表す体格指数です。
・BMIの計算式:体重(kg)÷身長(m)²

厚生労働省ではエネルギーの摂取量と消費量のバランスの維持を示す指標として、BMIを採用しており、成人期の3つの区分に分け目標とするBMIの範囲を提示しています。

BMI


腎移植後も、BMIを25(kg/㎡)未満に保つようにしましょう。また、BMI25未満であっても、腹囲が男性85cm、女性90cm以上の場合は、動脈硬化性疾患を起こしやすい内臓脂肪型肥満と考えられます。加えて、BMI35以上の肥満者は、重篤な呼吸器疾患や心不全など様々な合併症を起こしやすいので高度肥満に分類されます。
最も疾病の少ない標準的な体重はBMI22(kg/㎡)という報告もあります(*3)

BMI


肥満治療の意義
肥満に起因ないし関連し、減量を要する健康障害を挙げると
1) 耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など)
2) 脂質異常
3) 高血圧
4) 高尿酸血症・痛風
5) 冠動脈疾患:心筋梗塞・狭心症
6) 脳梗塞:脳血栓・一過性脳虚血発作(TIA)
7) 脂肪肝:非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
8) 月経異常、妊娠合併症(妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病、難産)
9) 睡眠時無呼吸症候群(SAS)、肥満低換気症候群
10)整形外科的疾患:変形性関節症(膝・股関節)、変形性脊椎症、腰椎症
11)肥満関連腎臓病
上記に加えて
良性疾患では、胆石症、静脈血栓症、肺梗塞症、気管支喘息、皮膚疾患
悪性疾患では、胆道がん、大腸がん、乳がん、子宮内膜がん
が、肥満に関連する疾患としてあげられています。(*4)


■腎移植後の肥満 予防と治療

肥満症の治療目的は体重を標準体重(BMI22)まで落とすことではなく、根本的な原因となっている内臓脂肪を減少させて、現在ある合併症を改善し、メタボリックドミノにみられるような将来の合併症発症の危険性を減少させることにあります。
腎移植後、適正体重より体重が増えてしまった人や肥満の人は、バランスのよい食事を取り、定期的な運動をして、無理のないように3~6か月で現在の体重から3%以上減らすことを目標にダイエットを行いましょう(*5)。日本における最近の研究では体重の1~3%の減少で中性脂肪・HDLコレステロール・LDLコレステロール・HbA1c・肝機能の改善、3~5%の減少で収縮期血圧・拡張期血圧・尿酸値・空腹時血糖の改善が見込めることが明らかとなっています。
一方で、BMI18.5〜22(kg/m²)程度の人の場合は、特別な体重コントロールは必要ありません。むしろ、痩せ過ぎると筋肉や免疫力が落ちるので、痩せすぎないように注意しましょう。


<食事の工夫>

自分にとって適正な食事量を知り、食べ過ぎを防ぎましょう。摂取カロリーは、25kcal×標準体重/日以下を目安として、エネルギーの50~60%を糖質、15~20%をタンパク質、20~25%を脂質とします。実際には、食習慣・食行動の把握とその修正が必要です。適正体重(BMI 25(kg/㎡)未満)に達したらそれを維持することが大切です。

太らないための食事の工夫
① 間食を減らす。
基本的に間食を摂らないことが肥満の改善に繋がります。

間食


② アルコールの飲み過ぎに注意する。
適量とはエタノール換算で男性20~30ml/日以下、女性 10~20ml/日で日本酒なら1合、ビールなら中瓶1本、ウイスキーならダブルで1杯、ワインならグラスで2杯程度です。)

飲み過ぎ


③ 外食でのメニューの選び方に注意する。
揚げ物や丼ものはなるべく避けて、バランスのよいメニューを選びましょう。

外食


④ 食べる順番に気を付ける。
1. 野菜(きのこ、海藻などを含む)→2. 主菜(魚・肉・卵・豆などのおかず)→3. 炭水化物(ごはん、パンなど)の順に食べましょう。

食べる順番


⑤ 食べたものを記録する。
自分が何をどれだけ食べているかを知ることにより、必要量との差を知ることができます。

記録


<定期的な運動>

腎移植後6カ月までは拒絶反応や感染症のリスクが高いので、散歩などの軽い運動に留めておきましょう。移植後6カ月以降は、少し速いウォーキングや水泳などの有酸素運動を始めるといいでしょう。

腎移植後にお勧めの運動

① ストレッチング
筋肉の緊張をゆるめて血行を促し、心身をリラックスさせるのに効果的です。ゆっくりと呼吸をしながら行うと効果的です。

ストレッチ


② 有酸素運動
少し速いウォーキングや、軽いジョギング、水中ウォーキング、水泳などがお勧めです。生活行動で行う運動として、少し速いウォーキングに加えて、自転車での通勤も有効です。
1回30分程度、週に2~3回以上から開始して、徐々に運動量を増やして1回60分、ほぼ毎日(週5回)行うとよいでしょう。(管理困難な高血圧や心疾患がある場合は、運動禁止や制限が必要な場合もありますので、主治医の指示のもと行いましょう。)

有酸素運動


③ 筋力トレーニング
自宅でできる自重トレーニング(器具を使わず自分の体重を利用して行うトレーニング)もお勧めです。移植後半年~1年以降に、筋肉が落ちない程度に筋力トレーニングを行うといいでしょう。

自重トレーニング


肥満の人が体重を減らすことにより、高血圧症、脂質異常症、糖尿病などのコントロールが良くなり、移植腎への負担も軽くなります。移植後は肥満とならないように、食事の管理と定期的な運動を行いましょう。

*1 Kent PS.J Ren Nutr 17:107-113.2007
*2 Kasiske BL,et al.Am J Transplant 9 (Supple3):64-80.2009
*3 Matsuzawa Y,et al.Diabetes Res Clin Pract.1990;10 Supple 1:S159-64
*4 日本肥満学会:肥満研 17(臨増): 1-78, 2011
*5 日本肥満学会編:肥満症診療ガイドライン2016. ライフサイエンス出版、2016.
*6 Muramoto A, et al. Obes Res Clin Pract 8;e466-e475, 2014.




腎移植後の合併症 掲載予定内容

① 感染症

② 高血圧

③ 肥満(今回)

④ 糖尿病

⑤ 脂質異常症

⑥ 白内障・緑内障

⑦ 骨粗しょう症、病的骨折

⑧ 肝障害

⑨ 悪性腫瘍

⑩ 慢性移植腎症

⑪ 再発性腎炎


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